正義の味方
俺はガキん時、ナントカレンジャーが好きだったりした。まぁ、そこまでは普通だった。5歳下の弟が、喜んでナンヤラヒーローを見てる時、冷静に見てこう思った。
《いくら悪でも、5人で行ったらただの弱い者イジメじゃん。》
こうして、anパンマンよりby菌マン。少年マンガでは、オラ悟空よりVeジータ。まぁ、後から仲間になるけど。悪役キャラのが人間味溢れてる様に見えて好きになってた。
ある日、国語か道徳の授業で『銀河鉄道のヨル』を習った。主人公の親友のカmパネルラが、溺れた子を助けて死ぬんだ。
バカじゃん。自分が死んで周りのヤツがどんだけ悲しむと思ってんだよ。俺は授業中なのに泣いてた。あり得ねぇほど感情移入し過ぎたんだ。
人を助けて死ねば後悔が残るだけだろ?
だから、俺は正義なんて大嫌いなんだ。
だけど、実際は正義だの悪だのって理屈じゃねぇんだわ。
今俺は、奏を守ろうと庇う様に奏の前で両手広げてんだぜ?
「あ…れ?大和いなくなったんじゃなかったの?」
震える声が後ろから聞こえる。俺は振り向いて笑った。好きな女守る為に死ぬなら本望だな。
それが正義じゃねぇ自己満だと言いたい。
目の前の学校の体育館の天井くらいの化物はよだれがヤバくて、俺らを待ってたかのごとくに牙を剥き出しにして構えていた。
このままじゃ、奏まで飲み込まれるな。冷や汗が体中から流れる。
「奏…逃げろ。」
「やだ!」
背中にしがみつく奏。
「甘ったれんな!」
ビクッと奏が俺にびびってる。そりゃ、変態な俺しか知らねぇから。奏を見てる間に、後ろから影が近づいた。俺は、奏を思いきり突き飛ばした。
「俺もここまでか。」
笑える。
「ラット!ストップや!」
俺の頭上を、牛(?)が飛んだ。化物は飲み込む。後ろを向くと奏を抱き止めた蒼がいた。
「ラット、人間は不味いんやで?」
ラットって…鼠が牛食うか!?
「顔がネズミに似とるからラットにしたんや。なぁラット!」
ゥヂュゥ…ウォ…。
地響きが起こりそうな鳴き声。ってか、言葉通じてるし。蒼のペット?
「何やその目は!ペットちゃうわ!オレも昔ここに来た事あんねん。そんだけや。」
「ごめ…も…はなして?」
「ガクガクふるえとるやん。一人じゃ立てないやろ?」
「バカにしないで!」
蒼の腕の中で激しく暴れる奏。
「足手まといになりたくないの!」
「はぁ。蒼、奏をはなしてやれ。こう言ったら聞かねぇんだ。」
「大和に言われんでも分かっとる。」
蒼は奏を抱きしめる手をはなした。
「二人に言いたい事があるの。私の目の前で死なないで…。大和が死ぬかと思ったら、怖かったんだから!大和のバカぁ!」
「大抵の生き物とは顔見知りやから大丈夫やで!」
「おいおい蒼、ムードのカケラもねぇな。最初からそのつもりだったぜ。人を助けるなんてあり得ねぇし。」
「大和言い過ぎや。」
「でも、体が動いた。奏だから、体が動いたんだ。」
まっすぐ奏を見つめた。奏の瞳が揺れてる。しばらく誰も何も言わなかった。
「せや、美味しい木の実があんねん。ついて来いや!」
「おう!奏も腹減ってただろ!行こうぜ!」
「…。」
人が作ったみたいな、簡単な家に連れて行かれた。紫色の林檎みたいな果物を、ポンと投げられた。隣の奏に渡して、俺も受け取った。奏はその果物の匂いをかいで観察していた。
シャリッ。
ムシャムシャ
「美味いで?」
俺は一口かじってみた。舌で転がすと、甘い蜜の味が口に広がった。そして、ゆっくり噛んだ。
「…んまい。」
奏が不思議そうに俺を覗き込む。そして、奏は恐る恐る小さな口でその果実をかじった。
ドキン。
その唇に、目が行く。紫色の果物と赤い唇が妖艶な魅力を感じさせた。思わずゴクッと、喉を鳴らした。
「…美味しい。」
「せやろ?大和、喉ならして喉渇いたんか?山水はすぐそこやで。」
嬉しそうな蒼。あれ、何か忘れてねぇか?
俺は大和について行って、水で喉を潤した。奏もコク…ン、コク…ンと飲んでる。
ドクン…。
奏の口からほんの少しこぼれる水が、ヤバい。コイツこんなに綺麗だったっけ…。女を感じさせる仕草がたまんなくて、俺は頭を冷やす為に川に頭から突っ込んだ。
「びっ…びっくりしたぁ!大和どうしたの?」
直視できない。
こんなに君が好きなんだ。