オレ達の目的
オレはコップをテーブルにカタンと置いた。《奏と大和の恋》を李里が話してる。斬兎も楓も真剣に聞き入っていてオレが近くに来たのにも誰も気付かない。
「なぁ。恋愛ごっこじゃねぇんだぜ?オレらの目的忘れたのか?」
オレはさりげなく?乱入した。
「今いいとこだったんだから!李里くん続けて?」
「姉ちゃんと蒼よりその『目的』は大事なんですか?」
「ふぅ。蔵刃の言うのも一理あります。けれど、今は…。」
今度は友達ごっこかよ。オレらは仲間以上友達以下。必要だから、一緒にいるだけだ。
【それぞれの世界の扉の入り口を塞ぐ】
大和と李里がこの世界に呪文ナシで来れたのは、扉が開き易くなってるからだ。扉の門番が次々に襲われる事件が多発している。その犯人を探し出すのが、オレ達の目的だ。
異世界から選んだ女をイケニエにしようと考えてた。
でも、イケニエどころか奏を仲間にしていた。最初は奏をこの世界に引き留める為の嘘だったのに、オレ自身が奏を気に入ってたなんて恋愛ごっこしてんのはオレだ。
「一番心配してるのは、蔵刃じゃないですか。」
「オレは、門番に聞き込みしてくっから。」
楓に引き止められたけど、足早に呪文を唱えてドアを開けた。
門番は、カメレオンみたいに空間に同化する。この空間は、ピンクから黄色へのグラデーション。見つけるのにいつも苦労する。
「蔵刃だけど、どこいんの?」
扉が広がる。オレから見て左は空間が暗くなっていき、右手はだんだんと白く明るくなっていく。扉はその逆と言うわけだ。じゃないと見えねぇからな。
「見分けられないとは、まだまだ修行が足りないな。それで、用心棒を任せられるのか?」
真後ろから声がした。剣を構えて振り返ると、全身真っ暗の服を着た狼を連想させるクールな顔だちの門番ウルフが立っていた。規則にうるさく、少しでも破るとあの世行き…らしい。
「よぅウルフ。被害者は増えたか?」
「今の所以前とは変わらない。まだクランが連れ去られたままだ。」
クランとは、門番には少ない女門番だ。薔薇のごとく美しくトゲのあるヤツ。あんだけ、性格キツけりゃ自分で何とかしてそうだけどな。逆に挑発してっかも。
「じゃ、もう行くわ。次は可愛い子から伝達されたいかも。」
「安心しろ。次もこのウルフだ。」
スッとウルフが空間に触れると、紺色の扉が目の前に用意された。ゆっくりその扉を開けるとオレの部屋に繋がっていた。
今まで空間に浮いていたから、足がまだ変な感じがする。膝がガクッとして倒れる所だった。壁に顔面から激突してしまったのは、無かった事に…はできなかった。
その衝撃で獣の角が床に落ちたからだ。
コンコンコン。
「入りますよ?」
返事する前に斬兎が入って来た。ちょうど獣の角を壁にかけてたワケで。見られたくなかったりした。
「鼻血出てますよ。」
確認するとマジで鼻血が出てて、滅多に出ない鼻血に感動した。
「マジ鼻血出てるし!すっげぇ!」
「はいはい。早く拭いて下さい。門番はどうでした?」
「ウルフが言うには、問題ねぇってよ。」
斬兎とオレは、ニッと笑った。
「てことは、被害者は多数いますね。」
「まーな。蒼いねぇけど様子見に行くか?」
斬兎は顎に手を置いて、オレの部屋をうろうろと歩いた。斬兎は考え事すると歩き回る癖がある。そして、ピタッとわざわざオレから見て後ろ向きに立ち止まった。
で、振り向く。
「今は、待って下さい。私に良い考えがあります。」
「んな満面な笑み久しぶりに見たし。頭脳戦なら、斬兎に任せるぜ。」
オレたちは、ガシッと握手した。