体力測定
考えたらあの時から始まっていた。
「奏!軽く跳べ!」
ぴょん。
「2センチ弱ですね。」
「ありゃりゃ。あり得へんわ。」
「私はこんくらいだよ。」
ぴょん。
…あり得ないのは楓ちゃんだよ。軽く跳ねただけで5メートルくらい跳んだよ。
「奏の脚力はマイナス100やな。」
ヒュッ。
「今何を投げたでしょう?」
蒼が斬兎に何かを投げた。え。今の魔球?消えたよ。
「空豆!」
「ちゃうわ。力の豆や。」
「レベル1ですよ。」
これは、からかわれてんだろうか?何の遊び?…全く面白くない。
「私寝るね。オヤスミ。」
私は屋根裏部屋に上がった。
うつらうつらしだした頃、事件は起こった。
…ヒュッ。風を斬る音。
「きゃー!!」
私は死ぬ気で転がった。と言うより転がんなきゃ殺される。
「へぇ。反射神経は抜群じゃん!」
「蔵刃…。」
「まずまずですね。」
「ふぁー。オレは寝るで。」
「奏ちゃん?怒っちゃった?」
怒った?んなもんじゃないでしょ!
「あれ、オレの刀が無い。」
「蔵刃覚悟!!とりゃあー!」
剣道してて良かった。
「ちょっ待て!何でオレだけー!?」
他のみんなは逃げる様に一階に行ってた。
「ふん。刀取られちゃダメじゃん。はい。」
「すっげぇな!オレ感動した。師匠!」
「はぁ?」
「オレに剣術教えろ!」
「蔵刃は、刀でしょ。」
「剣に変えようと思ってたんだ。ほら!」
初めて見た勇者の剣は、綺麗でずっと見ていたかった。
「私実戦した事ないよ。」
「じゃあ、オレの無駄な動きを指摘しろ!オレはレベルを上げに行く時、連れて行ってやるよ!」
私の頭の中でテトリスの音楽が流れた。着信もテトリスだった。一番好きな曲。
次の日。
「おっはよーん!奏早く行こうぜ!」
楓ちゃんちょっと切なげに見ないでー。
「蔵刃。朝から騒がしいですよ。奏は今日から訓練します。」
「せやなー。ジャンプは、楓の担当やで。」
パンをかじりながら、クルクルパーマの蒼が言った。
「ふふふ。私がみっちり教えてあげるね。」
「ダメだ!オレが最初に約束したんだもんな。」
え。これって私が人気者?みんな取り合いになってる。
一時間目。魔法の授業。
「良いですか?まずは、この枝を振る動作を覚えてください。」
右左そして縦に思いきり振って…。
「いでよ!携帯電話!」
プスッと煙だけが出た。
「欲しいものでは無く、攻撃の呪文を教えてますよね?」
笑顔ってこんなに怖かったっけ。魔法は初日からは、できないみたいだった。
二時間目。手品(?)。
「ええか?まず敵より味方から騙すんやで。オレの右手から何が出てくるか分かるか?」
手に入りきる物だよね。
「石ころ!」
「残念やな。手に入る物って考えが浅はかやねん。」
帽子が出てきた。これは魔法じゃない。
「魔法が切れかけた時、目の錯覚でマジックを魔法に見せるんや。大事な武器なんやで。」
帽子をくれた。これかぶったら、ちょっとは頭守れるかも。お礼を言ったら蒼が照れていた。
3時間目。ジャンプ。
「まずは、タイミングが大事なの。あと、爪先を強く蹴って、踏み出す感じ。」
トンっと跳ねた楓ちゃんは、天使みたいだった。
「えいっ!」
「うん。そんな感じ!膝を使うのは良いね。」
小学生の頃、階段から跳んで競争したのを思い出した。
ラストは、私の指導。
「握り方が強すぎ。そう。突きも大事な技だよ。」
最初、無造作にふりまくっていただけの蔵刃の動きが、少しだけまとまって来た。
「奏の剣見せろよ。」
私は毎日練習した足の踏み込みや、寸止めを蔵刃にした。まだまだ、私も未熟で教えられる器じゃない。
「っかー!綺麗だな。オレも頑張るか!」
人に教えるって、こんなに嬉しい事なんだ。きっと蔵刃だからだろうな。
夜、楓ちゃんがなかなか屋根裏部屋に来なかった。でも、体力的にも限界だったからすぐ眠りについた。
『奏姉ちゃんどこ行ったの?』
『三屋がいなくなったの、俺のせいかも知れない。』
『奏早く帰って来て!』
現実世界のみんなの心の声が聞こえる。そうだよ。私はここにいるべき人じゃない。
『奏。お前はなぜこの世界に来た。私に会いたいのか?』
「誰?」
『私の名は…』
体が揺れて、目が覚めた。
「奏ちゃんすごい汗だよ。大丈夫?」
「…楓ちゃん。夕べどうしたの?」
「聞いてくれる?私、キスしちゃったの。」
蔵刃ってキス魔だったのね。確かに不意打ちがすごかった。慣れてたんだ。
「…で、だから、みんなには内緒ね。」
「そんなこと言わないよ。良かったね。」
「ありがとう。」
やっぱ、ヒロインは可愛い。
後ろからタオルをかけられた。蔵刃だった。
「汗すげぇな。」
「や、楓ちゃんの前でよくできるね。」
「ん?何が?」
私は何も言わずに、階段をおりた。
「楓。何言ったんだ?」
「蔵刃とキスしたって言っただけだよ。」
「してねぇだろ!」
楓は蔵刃に抱きついた。
「私のこと嫌いになっちゃった?」
「嫌いになるわけねぇだろ?楓どうした?」
「ずっと私だけを見て。」
「…あぁ。」
風が強くて、窓がガタガタいった。誰かの心を代わりに現す様に。
「奏どないしたん?暗いで。」
「鳥の巣には関係ないの。はぁ。」
「恋ですね。」
いきなりの斬兎の発言に心臓がとまるかと思った。
「また言うとるわ。詩作るのにハマってるんやて。」
「詩?そうなんだ。」
「違います。今のは、奏に言ったんですよ。その誰かを想うゆえのため息。恋です。」
「そのフレーズ詩やん。それにしても二人遅いなぁ。」
屋根裏から出て来ない。
「奏。どや、実戦行こか?」
「いいの?行く!」
「私もついて行きますよ。まだ危険ですからね。」
やっと冒険の匂いがしてきた。
近くの森に行く事になった。
「いやぁ!」
バキッ。どさり。
「よく、見ないで倒せますね。」
「しかも素手やで。そこらへんの棒でええんやない?」
「二人とも、めちゃくちゃ人事でしょ!まだ怖いの!」
二人にとっては雑魚らしく、余裕で見物している。
「奏のレベル上がったで。」
空からバッチらしきものが降ってきた。やっとレベル3になった。
「ふぁー。そろそろ帰りましょうか。お昼寝の時間です。」
「せやなー。」
「ひどっ!絶対暇つぶしだったでしょ!」
帰りは、斬兎と蒼が魔物を瞬殺していった。私も早くレベル上げたいと思った。
アジトにつくと、楓ちゃんがニコニコ出た。
「おかえりー。スープ飲む?」
「おー!ええ匂いすんなー。」
「頂きます。」
「私ちょっと体流して来る。」
私は近くの湖に行った。最初は、嫌だったけど、お風呂もないからしょうがない。
「いたっ。傷にしみる。」
「誰かいるのか!」
バシャーン。全裸の男女が目が合いました。
「いっ…もご。」
「しっ。叫べば魔物が集まる。それに、かわいそうなぺちゃんこ見ても何も思わない。」
蔵刃は、キス魔な上に人の胸にケチつけるなんて、ひどすぎる。
「何よ。そっちだってちっちゃいくせに。」
「ば!バカ野郎!下ネタ言うな。」
お互い後ろ向きになって、着替えた。
「風が強いな。」
「うん。寒いね。」
「これ着ろ。」
上着を貸してくれた。
「何か犬の匂いがする。」
「文句言うなら返せ!」
「あはっ!ウソだよ。」
どんな匂いでも、あなたの物なら好きになれる気がした。




