夢の続き
『能天気』
ソレが最初に誰が言い出したか分からない、思い込まれたオレの第1印象。
オレも人間やから、場を盛り上げる役目は結構辛い時期もあった。
そんな時よく夢を見たんや。
雲かよう分からん白い霧のような煙?に囲まれた空間にオレは一人手探りで何かを探しとるんや。
そこにブロンドの美女が舞い降りて来た。
彼女の紅の唇は動いとるけど、声が聞き取れん。
オレが必死に聞き取ろうとしとんのを見て、その美女が笑うんや。
で、目を覚ます。昼寝する度、同じ夢を見た。
そして、だんだんと言葉が読めてきた。
『に・ん・げ・ん…なんて信じない』
んー。オレに言われても困るんやけど。
あの美女が人間じゃないっちゅーのは確実やな。…バグとかやったらどないしよ。
当時、まだ仲間じゃなかった斬兎のいる図書館を訪ねた。
オレの話を最後まで熱心に聞いてくれて、斬兎は冷静に口を開いた。
「まず、貴方の年齢でまだ昼寝をしてる事に疑問を持ったのですが…?昼寝しなければ、その夢を見ないのではないですか?」
「せやけど、気になるやん!美女が運命の人やったらどないしよ。とか盛り上がるやん!」
「静かにして下さい。私は、占い師ではないです。ただ、この本に書いてある事が本当だとしたら、貴方に役に立つでしょう。」
スッと本を渡して来た。
【人間の夢を操る悪魔たち】
「これ!借りてええんか?」
「はい。ただし、1週間ですので、延滞しないで下さい。」
オレは斬兎に握手して、心地よくスキップしながら図書館を後にした。
この本を開いた時の事はよく覚えてる。まだおかんにお世話になってた頃やった。部屋に戻って昼寝の時間を削って本を開いたんや。
「なになに?」
【第3シリーズ始まりました。今回は、《夢に悪魔は現れてるのか?》と言う質問を中心に解説するとします。】
「やる気あるんかいな。」
【まず悪魔が現れるなんてないです。それは悪魔でなく、悪夢ですから。しかし、極々稀なケースで、気まぐれな悪魔がからかいに来る人もいます。大変ですね。】
「…どついたろか。」
【ひょっとしてひょっとしたら、悪魔に恋されてるかもですよ。まあ、恋されたら困るのは人間の方らしいです。悪魔は、人間に本当の姿を見られたら…】
パタン。
「オレの知りたい事書いてないやん。」
その続きを読めば、オレはメアと夢の中で遊んでなかった。
そう思うねん。
秋色の草原で、一本の木を追いかけて…約2時間たつ。
「メア。いい加減にせぇや!」
オレの目の前に、奏が着ていた踊り子の服を着たナイトメアが現れた。スゲー似合っとるけど、んな事メアに言うわけないやん。
「めっちゃ、すっきゃねん!いつもみたいに蒼と鬼ごっこしたいな。」
「今はムリや。そない拗ねんなや。」
口を尖らせてるメアは人間の女の子とは変わらない。って、ちゃうやろ!あれや、木ぃを目指さなあかんねん。
「私をつかまえたら、あの木に届くよ。」
あの笑みだ。初めて見た夢と同じオレを全て知ってるかのような悪魔の微笑み。メアは悪魔なんやけどな。
「メアをつかまえたら、オレの夢に入るんをやめるって約束してくれるん?」
サァァ。
大きな風で、ススキが揺れる。メアの背中に黒い翼が見えた。髪の色はワイン色。そして、目の色は薄紫だ。顔はオレの知ってるメアだ。
本当の悪魔の姿…?
「あーあ。これ以上隠せなかったみたい。悪魔が人間に恋をして本当の姿を見せるとね。」
【悪魔が本当の姿を見せると、自分の作った世界から出れなくなる。】
オレは目の前の悪魔を抱きしめた。それは頭で考えた事じゃなくて、身体が勝手に動いてた。メアの身体は、冷たくてオレには強く抱きしめる事しかできんかったんや。
「あお?もう愛しの彼女が見えてるでしょ?早く行きな。」
「分からんけど、今はメアを抱きしめたいんや!」
「最後のお願い聞いて?」
「なんや?」
オレは初めて悪魔とキスをした。
メアがいたから、今のオレがいる。この手を離せばもう二度と会えない。ヤバい…自分で望んだ事やのに。もう一度抱きしめたくて、だけどキリがない。
「ばいばい。」
オレの前からナイトメアは消えた。この空間のどこかにいるはず。だけど、オレは名前を呼ばなかった。