奏の過去
誰も楓ちゃんを探さない。でも、珍しくお酒を飲んでる5人のメンズ。
「奏ー。酒だー!持って来い。」
「もう。蔵刃飲みすぎだよ?蒼たち寝ちゃったし。」
蔵刃もゴトッとテーブルに頭をぶつけて寝た。毛布をかけてあげてから、私は外に出た。
ゲェーッゲェーッ。
気味の悪い魔物の声が、森に響き渡る。こんな真夜中に一人で来るなんて、自殺行為だ。
敵に囲まれた。
「きなさいよ!楓ちゃんに会うまでは死ねないんだからー!」
最近獲得した釘を次々と魔物に投げた。急所を一発。刺さる瞬間はまだ見れない。
ギャー!と耳障りな声が聞こえる。
私は走ってそこを後にした。レベル20のバッジが空から降って来た。レベルがいくら上がっても嬉しくない。この生臭い返り血を浴びる回数が増えるだけだから。
「奏ちゃん。目をつぶっちゃだめだよ。」
「楓ちゃん良かったぁ!」
安心して楓ちゃんに抱きついてしまった。楓ちゃんのピンク色の髪が月明かりでベージュに見える。
「誰も…来てくれないと思った。」
「どうにか命がけで来たよ。」
湖の近くの岩場に座った。
「蔵刃が妹としてしか見てくれないって気付いてたの。」
「うん。」
「奏ちゃんが来た時の、蔵刃の熱をおびた目…奏ちゃんに恋をしたんだってすぐ分かったの。」
「それは、違うよ。」
楓ちゃんが不思議そうに私を見た。
「私ね、失恋したばっかでこっちの世界に来ちゃったんだ。」
「…そうなんだ。」
「相手が大和だよ?からかわれてただけなのに勝手に本気にしちゃった。」
「う…そ。大和って本気で奏ちゃんが好きだよ!」
「いもうと。」
「っ!」
「『お前は妹みたいに大事だ』ってフラれたんだぁ。」
冷たい夜風が私たちの間を吹き抜けた。
「ずるいよね。」
「でも今は、蒼がいるじゃない。」
「それは」
「奏!なにしてんねん!」
蒼が走って来た。
「楓ちゃんを迎えに来たんだよ。」
「急にいなくなるなや。心臓もたへんわ。」
「蒼…楓ちゃんの前でやめてよ。」
蒼に抱きしめられて、嬉しかったりする。安心して腰が抜けそう。
「私は先に戻るわ。お二人はごゆっくりー。」
楓ちゃんはウインクして、先に行ってしまった。
「私たちも…。」
「もう少し、ここにいようや。」
抱きしめられたまま、蒼の体温を感じた。
「甘えんぼだね。」
「何処にもいかんって約束してや?」
「でき」
蒼は私の言葉を吸い込むようなキスをした。青い髪と水色の瞳が夜に似合う。
「ほな、帰ろか。」
私の手をギュッと握りしめた。
大和の代わりとかじゃない。
「蒼が好きだよ。」
「ん。オレは大好きやで。」
蒼がいると心強くて、行きと帰りの道が全然違う道みたいに感じた。
妹とは呼ばせない。
そんな二人の女の子の恋。