嫉妬から気付く二人
今日は、もうすぐで違う村に行くための準備でバタバタしてる。
「蔵刃ー。このネックレス覚えてる?」
「あぁ。初めて会った時俺があげたやつだろ?」
振り向きもせず答える蔵刃。楓ちゃんは魔物の角を紐でくくったヤツを見ながら懐かしそうに話しだした。
「あれは私が、まだ魔物の恐さを知らなかった時、通りかかった蔵刃が助けてくれたの。その時の魔物の角よ。」
うっとりしてる。
「分っかんねぇな。そのボロい角がいいか?」
「しーっ。大和それ言っちゃダメだよ。」
「うらやましいからって意地悪言わないでよ。蔵刃ー奏がいじめるの。」
食料などを袋詰めする私の横で、蔵刃の後ろから抱きつく楓。もう慣れたけどね。
「お前も準備手伝えよ。サボってると連れてかねぇぞ。」
「何よー。蔵刃はもっと軽いキャラだったのにつまんないの。」
「ほら、楓はこちらを手伝って下さい。」
「やだ!」
「オレの武器の整理手伝ってくれるのか?綺麗な指を怪我するぞ。」
「手伝いたい!」
蔵刃にべったりすぎて、目のやり場に困る。
「奏。どうや終わりそうか?」
倉庫から蒼が戻って来た。
「姉ちゃんさっきから手が止まってるんすよ。」
「李里が答えないでよ。」
「オレがいーひんから、寂しかったんちゃう?」
ご機嫌な蒼は、にこにこと笑った。
「オレも手伝うわ。」
「人手足りてるから。」
大和が私と蒼の間に割り込んだ。
「てか、大和も乱入して来たじゃん!ここ李里と二人で充分だからさ、って聞いてないし!」
「姉ちゃん。諦めたら?今に始まった事じゃないし。早く終わらそう。」
一番冷静な私の弟。ふと斬兎の部屋を見るとドアは全開。しかも一人寂しく必要な本をカバンに入れていた。
「李里ちょっと、お願いしていい?」
「あー斬兎さんね。浮気するなよ?」
李里をつねった。
「いてて。」
「生意気なんだから!」
今も口喧嘩の最中の蒼と大和に見つからないように、斬兎の部屋に入った。
「孤立してるね。」
「慣れてますから。」
「慣れてたらドア開けっぱなしにしないと思うなー。」
斬兎が、せつなげに微笑んだ。ドキリとしたのは、綺麗な顔だから。それだけだよ。
「楓があんなに意地悪言うなんて、初めてなんです。」
「根はいい子…だよね。」
「嫉妬って恐ろしいですね。私のこの感情も嫉妬なのかもしれません。」
「みっ、みんなのんびり準備するよね。驚いちゃった。」
大丈夫。まだドアから近い。
「何もしませんよ。」
「そう言う人が一番怪しいんだよね。」
近づいて来るから、反射的に後退りした。そしたら、後ろから肩を掴まれた。
「ひゃ!」
「オレ、奏と会ってから格好つけてんだ。」
「蔵刃?楓ちゃんは?」
「ようやく気付いたようですね。」
「あぁ。」
話に入れない。
「言わせて下さい。私は」
「オレは」
「『奏が好き』です」
私は耳をふさいで斬兎の部屋を出た。
「私の全てを奪ったわね!」
「楓ちゃん…違うの。」
出発の2日前。楓ちゃんは私たちの前から姿を消した。
李里から聞いたら、蔵刃が『妹としか思えない』って言ったらしい。
蔵刃がいくら私が言っても、楓ちゃんを追いかけなかったのが一番悲しかった。
「姉ちゃんさ、逆ハーって知ってる?」
「違うから。」
「ま、自分の身は自分で守ってね。」
楓ちゃんでなく、逃げるのは私だったのでは?とその夜は眠れなかった。