記憶喪失そして蒼の告白
「早く帰らなきゃ!」
私はハッとしたように叫んでいた。
「姉ちゃんウルサイ。どこに帰るって?」
「ここにいればいいじゃねぇか。な?そーうチュン。」
チュンは置いてといて、今森で食料調達係してるけど、呑気に木の実とかキノコとか採ってる場合じゃないと思った。そしたら、二人でアメリカンジョーク言うんだもん。
「てか、二人とも私を取り戻しに来たんでしょ?」
「なにが?姉ちゃん頭打った?」
「よし。俺が抱きしめて治してあげよう!」
大和を避けて、違和感を察知した。二人とも忘れてる。
「サトル元気かな?」
「は?誰だよソレ。」
嘘。李里が親友の名前忘れるワケない。大和が後ろからこりずに抱きついて来た。手の位置が降りて来たから、ベシっと叩いた。
「大和ふざけないでよ。」
「俺はいつもマジだ。」
「マジで姉ちゃんにセクハラしてるんすか?暇ですね。」
って話ずれてるし。そうだ。
「大和携帯見せて。」
「ケイタイ?何だよそれ。さっきからどうした?」
私の顔を覗き込む大和と李里。ちょっと!これじゃ私がおかしいみたいじゃん。
「先に戻る!」
「奏が帰るなら俺も。」
「まだ全然足りないから!姉ちゃんサボんなよ!」
斬兎ならどうにかしてくれるかな。アジトに戻ってすぐに、斬兎の部屋をノックした。
「はい。ドア叩きすぎですよ。壊れます。…どうぞ。」
書斎みたいな部屋。本がたくさんある。近くのイスに座った。
「大和と李里。違う世界から来た事忘れてるの。」
本を探しながら、斬兎は口を開いた。
「奏も忘れますよ。」
「どうゆうこと!?」
私は勢い良くイスから立ち上がった。ガタンとイスが倒れた。
「きっと、刺激が強いんです。奏たちの世界では、魔物と戦わないでしょう?頭がついていかない…といいますか、いっぱいいっぱいで昔の記憶がなくなったんです。」
斬兎がパタンと本を閉じた。そして振り向く。
「今、奏たちが戻る為の魔法を探してます。…だから、そんな悲しそうな顔をしないで下さい。」
「だって、記憶喪失になったのも私が原因だから。」
「そんな事言ったら、奏を慕っている二人に失礼ですよ。ほら、大和も聞き耳を立ててドアの前に立ってます。聞こえないようにしてますけどね。」
斬兎のウインクで少し元気が出た。
ドアを出た途端に、大和に抱きつかれた。
「そーうー。俺が悪かったから他の男に行くなー!」
「苦しいよ。ってか大和と何も無いし。っやだ。鼻水ついたぁ!」
「何しとんねん。おら、大和離れろや。」
グイグイ大和を引っ張る蒼。大和が腕を巻き付けて離さないから首痛い。
「お前らバカだと思ってたけど、ヤバすぎだな。」
「痛い!蔵刃見てないでたーすーけーてー!」
「今日一緒に寝たら助けてやろっかな。」
ニヤニヤと私を見る蔵刃。その言葉に、大和と蒼が蔵刃に殴りかかった。助かったっちゃー助かったけども。
「調子乗んなやボケ!」
「俺だけが奏と寝れるんだ!」
「はっはっは!スローモーションにしか見えねぇな。」
…コイツらはいつもの事だし。それより、李里遅くない?
ちょうど、玄関のドアが開いた。嬉しそうに楓ちゃんと話すバカ弟。今はこっちの世界の服着てる。なぜか、ピーターパンみたいな感じた。
「あー!オレが食料調達してる時に、遊んでたんすか!?」
「あ゛?」
三人のお兄さんが、ハモりました。李里が担ぎ上げられ、くすぐり攻撃!
「楓ちゃんおかえりー。」
「ただいま。賑やかだね。私寝るねー。」
いつもは、みんなと騒ぐのが好きなのに、何かあったのかな。
バン!
「うるさーい!黙れーー!!」
バタン。
いつも敬語口調の斬兎が叫んだ。シンとみんな黙った。
「なぁ。おもろいな。また、騒ごうや。」
「やめてくださいよ。お腹苦しいんすけど!」
「今日はやめるか。奏ー飯!」
「俺も手伝うからな。台所行こ!」
大和に手を繋がれて、台所に行く。李里が川で洗ってくれてるキノコなどを切った。大和はお肉をさばくのにもう慣れたらしく、鼻歌歌いながら切ってる。最初逃げてたのにね。どこでも生きていける気がした。
翌日、楓ちゃんは家を出た。
朝、みんな集まった。
「で、また蔵刃何か言ったんやろ?」
呆れた顔をして、蒼が蔵刃を見た。
「ん?オレか?そういや、昨日狩りの休憩中に楓が来たんだっけな。『私と奏どっちが大事?』っつって来たから、「そうだなー。」って悩んでたらいなくなってたっけ。」
大和が蔵刃の頭を叩いた。
「それ『奏だなー。』って誤解したぜ!俺も勘違いしてるぜ絶対!」
いやいや、イントネーション違うだろ。李里がため息ついた。
「探した方がいいんじゃないすか?」
「いつも楓を探す係は蔵刃なんです。蔵刃の説得しか聞きませんから。」
「楓ちゃん蔵刃大好きなんだね。」
その時、お前も原因だよ。とは誰も奏には言えなかったらしい。
「じゃ、行って来るわ。」
いいなー。なんて。
「奏羨ましいのか?」
「ち、違うから。」
「俺がいつでも探すからな!」
大和は、探しに来てくれたんだよ。って言えなかった。
「それぞれ、仕事に取り掛かりましょう。」
「奏!ちょっとええか?」
「ん?」
蒼に湖に連れてかれた。
「アイツらの記憶なくなってるんちゃう?」
「そうなの。」
蒼が私の手を握った。
「もう帰らんといてや。」
少し潤んだ蒼の目がキレイで、ずっと見ていたいって思った。
「ありがとう。でも、それはできないよ。」
ネバーランドにずっといたいと思う子供みたいに、純情じゃない。
「好き。奏が好きなんや。」
私を抱きしめる蒼に、魔法にかけられた様にただぬくもりをかんじていた。
告白ってこんなに、キュンって胸に体に来るんだ。
「だから、帰らんといてや。奏がいない世界なんて考えられへんのや。」
時間が止まったかと思うくらい、蒼の言葉が心に染みる。
「私もスキ。」
唇が動いた。声が出た。私も蒼がスキなんだ。