レッドドラゴン
「よし。今度は斬らねぇからな。」
郵便屋さんの鳥に蔵刃が手紙をもらっていた。
「手紙か?俺が読む!」
大和が取り上げて自慢げに封を開けた。
「イトスィノスーへだと。ウァ…トァ…スー」
「大和が読んだら、日が暮れてまうやろ!えーと、【私は、しばらく旅に出る事にした。お前たち姉妹を見たら、故郷の兄弟が恋しくなった。奏が女らしくなった頃に戻る。(魔王より)】」
「姉ちゃんが女らしくなる時なんて無いに等しいですね。」
「ちょっとみんな何頷いてんの!李里どういう意味かなぁ?」
あと一時間で着く。みんなのテンションも微妙に上がって来た。
「タータラタータラタータラタータラタータラタータータータータ…。」
「出た。奏の奇妙な鼻歌。」
「テトリスだよ。奏は機嫌が良いとテトリスを口ずさむんだぜー。知らねぇの?」
「なんや変なメロディやな。あんまテンション上がらんのちゃう?」
テンション上がり過ぎない為に、精神統一の曲なのさ。あと、ドナドナとか。逆にテンション上げるには、マリオとかドラクエとか。ゲーム系好きだな。
「鼻歌なんざ、自分で作るもんだろ。」
蔵刃の発言に私の鼻歌も止まった。
「蔵刃の鼻歌は、音痴やねん。ある種の公害や。」
「んだとー!?蒼も変なスキップ止めたらどうだ!」
李里と大和は、呑気に景色を眺めてる。だから、喧嘩すると揺れるんだってば。
「スゲー!龍だ!」
大和の声で、外を見た。赤い龍が空を泳いでる。
「ヤバいな。」
「あぁ。アイツが出ると、溢れて来んだ。」
二人のつぶやきが聞こえたかの様に、赤い龍の回りから、黒い物体が飛んで来た。まるで龍を守るみたいに。
「みんなつかまっといてや。」
蒼の呪文で、気球の回りにバリアが出来た。ちっちゃい黒いボールみたいなのが、跳ねて行った。
「ねぇあの黒いの何?」
「姉ちゃんオレの漫画読んでただろ?あれ、下手に当たると爆発すんだよ。」
「そうそう。ドラゴンボムとかだっけ。」
大和と李里が、だったな。とか納得してる。ってよく冷静だよね。
「よく知ってんな。龍は外で見ちゃダメだって、ガキん頃から言われてんだよ。」
「龍はな、神様とも言われとるけど、実際は恐ろしいんやで。」
見れただけでも…って大和写メってるし。携帯は圏外らしいから、電話はできないらしいけど。有効に使ってるな。抜け目がないのは大和らしいや。
「それにしても、しつこいわね。めっちゃ当たって来るし。」
「まー見つかったんちゃう?」
「そろそろだな。」
下から、龍が現れた!
「こんな大きいのと戦うんですかぁ!?」
「スゲー!あの呪文試そっかな。」
「姉ちゃん援護しよう。」
さっき神様って言ったのに!戦うの?
「あと10秒でバリア消えるからな。」
悪魔のカウントダウンが始まった。
「じゃあ、李里と奏はドラゴンボムを頼む。大和は左から、蒼は右から攻撃しろ。俺は正面から行く!」
おう!と拳をぶつけ合う私達。私は目に涙が溜まってるけどね。いや、確実に死ぬでしょ。生き返る草が確か2個くらいしかないし。
「5…4…。」
3・2・1…0!
ドラゴンボムが勢い良く飛び込んで来た。李里はウチワみたいなので風を起こし外に跳ね返す。私は、唯一覚えた風の呪文で一気に吹き飛ばした。
「中々やるやん!ほな俺らも行くで!」
龍は、勝ち目が無いと分かったのか途中で逃げてった。
「はー。しんどいわ。」
「びびらせといて良かったな。逃げなかったら、ヤバかったぜ。」
「あんな顔近いんだな!かなり興奮したんだけど!」
大和は一人喜んでる。そりゃ、龍となんて戦う機会無いもんね。ってか気球返すのとか大丈夫なのかな。リッシーがいるのか。
「おー!我が家が見えて来たぞ!」
「ホンマやー。あ、楓と斬兎が手ぇふっとる。」
米粒みたいなのに、二人とも良く見えるよね。無事に着いて良かったぁ。李里は寝てた。頑張ってたもんね。
「あー!俺も撫でて!」
「しー。李里寝てるから。もう…今日だけだからね。」
大和の短い髪を撫でてあげた。チクチクしてちょっと痛かった。
その後。寝てたみたいで、目が覚めたら屋根裏部屋にいた。
「奏ちゃん!無事で良かったよぅー。」
「楓ちゃん心配かけちゃってごめんね。」
抱きつく楓ちゃんに、安心した。
「お腹すいたでしょ。ご飯たべる?」
「うん。」
階段をおりると、賑やかな声が聞こえて来た。
「奏、おかえりなさい。無事で何よりです。」
「斬兎にも心配かけちゃったね。ただいま。」
ここが私の場所だって、感覚がマヒしてたのかも知れない。ここは私のリアルな世界じゃないのに。
きっと一度は夢見る冒険の世界。ごっことかよくやった。木の棒なんて振り回して、主人公を取り合った。忘れていたそんな頃の記憶。現実に帰りたいと思う日が来るなんて、想像する筈が無かった。
「ぼーっとしてどうした?」
肉をかじりながら、私に声をかける主人公の蔵刃。彼は意外と、ナヨナヨしてなくて野性的だった。
「スープ嫌い?」
ヒロインの楓ちゃんは、怒ると怖い。蔵刃大好きな女の子。
「さっきから表情が固まっとるけど、どなんしたん?」
蒼は、一途な性格。あと、髪の毛がふわふわ。
「では私は、出かけて来ます。」
あくまでマイペースの斬刃。
「はぁ。理想と現実は違うよね。」
理想(漫画)はもっとカッコ良くて、繊細で、力強かった。現実は…。
「理想?んなの持ってたのかよ。アホらし。」
可愛いはずの蔵刃が!
「アホとはちゃうねん。奏は、あれや。まだ現実を知らんのや。」
今は漫画通りの蒼。
「女の子は理想を持ってるんだよ!ねぇ?李里くん。」
どことなく威厳がある楓ちゃん。
「は、はい。でもオレ女じゃねぇし。」
「奏はなんでも可愛いんだー!ケチつけないでくれる?」
「ちょっと大和苦しいよ。」
いつでもどこでも抱きつく大和。
只今、分析中。
まだ、漫画とイメージ変わらないのは斬兎くらいかな。私達は呑気にご飯を食べた。
何でこの時に、自分の世界に一刻でも早く帰ろうと思わなかったんだろう。きっと、それは運命の悪戯で変えられない事実なんだ。