表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
革命のリリィ  作者: 鳩ポ
2/40

二話 デカブツがデカすぎる。

走ってきた。


それも、ものすごい速度で。


――あの太い足からは、想像すらできない速さだ。


まるで巨大なクモが地面を裂いて突進してくるかのように、一瞬で距離を詰めてきた。

私は焦って、その手に剣を構える。


この剣は、反りの少ない刀のような形をしている。

ボタンを押せば、刃が微細な振動を起こし、硬いものならどんな素材でも切り裂く。

柔らかいものにはやや不向きだが、それでも頼れる相棒だ。


「来る……!」


心の中でそう呟き、必死に冷静さを保とうとする。


だが、巨大な影が迫るたび、全身の筋肉が勝手に強張っていくのがわかった。


――そして、最初に動いたのは師匠だった。


「オラァァァァァア!!」


師匠の雄叫びが、砂漠の大気を揺るがす。


巨体とは思えない俊敏さで、彼はロングハンマーを引きずりながら突進していった。


その武器は、彼の身長を軽く超える長さを誇る巨大な戦槌。

一撃でも当たれば、どんなものでも粉々になるだろう。


砂を蹴り上げるたび、濃密な砂煙が舞い上がる。

その迫力に、誰もが息を呑んだ。


私の目には、師匠の動きが地を滑るように見えた。

まさに達人の技。


自分も動くべきだ。

だが、その一撃がどれほどの威力を持つのか――どうしても見届けたかった。


次の瞬間、師匠は跳んだ。


驚異的な高さまで――。


重力すら嘲笑うかのように舞い上がり、4本足の機械を見下ろす位置まで達する。


そのまま、ロングハンマーを頭上に振りかぶる。

狙うは、機械の4本足のうちの1本。


そして――


「いげぇぇぇえ!!!」


怒涛の勢いで振り下ろされたハンマーが、機械の脚を直撃した。


轟音。


雷鳴のような衝撃音が砂漠を震わせ、地面が大きく揺れる。


砂が爆風のように吹き飛び、視界を埋め尽くした。


その一撃で、4本足のうち1本が、釘のように砂の奥深くへと叩き込まれる。

機械はバランスを崩し、巨体が僅かに傾いた。


しかし――


すぐに残る3本の足で、体勢を立て直そうとしていた。


迎撃システム、発動


「ちっ……さすがに、これだけじゃ止まらねぇか……!」


師匠が舌打ちしながら、ロングハンマーを構え直す。


「仕方ねぇ、リリィ!走れぇ!!」


「言われなくても!」


ここからが私の出番だ。


砂の上を滑るように、機械へと駆け寄る。

その速度は――長年の修行の成果として、師匠すらも超えていた。


不安定な砂に足を取られそうになるが、私の足に装着されたアーマーが即座に補助を行う。

砂漠を駆けるためだけに特化したこの装備が、私のスピードを最大限に引き出してくれる。


「今だ!」


私は剣を鞘に戻す。


この動作には、重要な意味がある。


鞘に収められた瞬間、内蔵されたモーターが作動し、刃が激しく振動を始める。

火花が散り、金属同士が擦れ合う甲高い音が響く。


――この一瞬で、斬撃の威力が何倍にも跳ね上がる。


電光石火。


私は一瞬で剣を抜き放つ。


モーターの押し出しと振動が極限まで強化された刃は、まさに一撃必殺。

剣が描く軌跡は、完璧に計算され、寸分の狂いもない。


閃光のように振り抜かれた剣が、機械の足を捉えた。


振動するブレードが、硬質な装甲を紙のように切り裂く。

切り落とされた足が、砂の上に崩れ落ちた。


「よし……一撃!」


私は満足げに息を吐く。


バランスを失った機械は、3本の足で何とか立ち直ろうとするが、無理だ。

その巨体は、ずしりと砂に沈み込んでいった。


師匠と合流し、次の一手に移ろうとした――その瞬間だった。


剣とハンマーが、まるでガラスのような見えない壁に阻まれた。


『部品の人為的な破壊を確認――迎撃システムを作動します――』


「迎撃システムだと!? こいつ、ただの野良の工業機械じゃなかったのか!」


「師匠、攻撃に集中してください!」


しかし、その言葉が終わるよりも早く――


突然、全身に激しい痛みが走った。


電撃。


「……迎撃って、電気ショックか……」


歯を食いしばる。


殺傷能力のある武器こそ搭載していないが、これでも十分厄介だ。

電気ショックは空間全体に放電され、避けようがない。


「くそ……このままだと、動けない……!」


全身の筋肉が痙攣し、思うように動けない。

力を入れようとしても、電流が駆け巡り、まるで体が鎖で縛られたかのように硬直する。


「師匠……!」


隣を見ると、師匠も苦悶の表情を浮かべながら、必死に耐えていた。

私も同じだ。


声を出そうとしても、呂律が回らない。

そんな中、師匠と目が合う。


――このままじゃ、まずい。


その瞬間。


師匠が、ロングハンマーを真上に投げた。


ハンマーは空中で回転しながら、高く、高く舞い上がる。

私は一瞬、何をしているのかわからなかった。


だが――すぐに気づく。


避雷針だ。


師匠が投げたハンマーが、電流を引き受ける。

直後コンマ1秒ほどだが、感電が止まった。


その瞬間、私は迷わなかった。


「今だ!!」


意識が朦朧とする中、全身の力を振り絞る。


足に、最大限の力を込めた。

アーマーが悲鳴を上げるほどの負荷がかかる。


――爆発的な加速。


体がミサイルのように飛び出す。


再び電流が走る。

しかし――もう関係ない。


最初の蹴りの勢いで、デカブツの3本目の足に到達する。


「ここで終わらせる……!!!」


鞘のモーターを起動させる。

火花が散り、刃が激しく振動した。


力はいらない。


モーターの勢いだけで、刀が電光石火の速度で飛び出し――


デカブツの3本目の足を、一閃した。

巨大な足が音を立てて崩れ落ちる。


私は体に走る電流に抗うことができず、その場に倒れ込んだ。


やり遂げた。


これで、機械は確実に動きを止める。

砂の上に倒れたまま、私は微かに笑った。


勝った――。

師匠も、私の方に駆け寄ってくる。顔にはまだ痛みが残っているが、ニヤリと笑っていた。


「さすが、リリィ……よくやった!」


私は呼吸を整えながら、師匠の言葉に応えるように小さく頷いた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ