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8話 看病と感謝

「……ん」 


 目が覚めるとそこには見覚えのない天井が広がっていた。

 ――どこココ?まだ夢の中にいるのかな……?

 僕は寝転んだまま少し首を左側に傾けて、ぼんやりと辺りを確認してみる。


 視界に映ったのは、もふもふした白い楕円形の絨毯と、その上に置かれた木製の机、8時を示す小さな置き時計、そして部屋の隅に立て掛けられたバックパックだけだった。


 ――あのバックパック……。

 それを見て全てを思い出した。僕は大学から帰っている途中、風邪をひいてフラフラになっていたところを、小鳥遊さんに助けてもらったのだ。


 そして、その流れで小鳥遊さんの家にお邪魔させてもらい、気がつけばこうして眠っていたのだ。そのおかげか、今もまだ頭痛や倦怠感といった風邪症状は残っているものの、あの時ほど酷くはない。


 ふと窓の外を見ると、辺りはすっかり暗闇に染まり、三日月だけがぽつんと浮かんでいた。と、そんな時だった。


「お、千颯君、目が覚めたか?」


 正面から小鳥遊さんが歩いてきた。一度外出していたのだろうか、手には何かが入ったマイバッグを持っている。


「丁度いいタイミングだな。とりあえず風邪薬買って来たから、一旦はこれを飲んでくれ」


 そう言って小鳥遊さんは、バッグから粒状の市販薬を取り出し、僕に渡してくれた。


「すいません、わざわざありがとうございます」


「これくらいわけないよ。今は千颯君の回復が優先だから気にするな」


「はい、ありがとうございます」


「ははっ、ありがとうございますbot(ボット)みたいになってるぞ?」


「おかげさまで、ありがとうございます」


「いや、どこで感謝してるんだよ」


 そんなツッコミを入れながら小鳥遊さんは笑う。

 我ながらよくあの返しが出来たよ、うんうん。僕は思わず内心で自画自賛した。

 すると、小鳥遊さんは何かを思い出したように尋ねる。


「そういえば、寝心地はどうだったか?」


「え?あ、はい。いつの間にか寝てしまう程には、気持ち良かったですよ」


「そうか、それなら良かったよ」


「……どうしてそんな事を?」


 僕が尋ねると、小鳥遊さんは少し躊躇ったような素振りを見せる。


 ――もしかして聞き返すのはまずかった?

 そう感じたものの、それは杞憂だったようで。


「いや、気づいているかもしれないけど……そこソファなんだ」


「……え?」


 僕は改めて自分の居場所を確認する。確かに、僕の右側には背もたれらしきモノがあり、背面と足元は肘掛けのようになっていて、ソファと認識するには十分な有り様だった。


 ――マジじゃん。え、何このソファ?寝心地良かったからベッドだと思ったわ。

 世の中には、こんなにも素晴らしいソファがあるもんだなと実感させられた。けれど、そうなると。


「……それじゃあ小鳥遊さんは普段どこで寝ているんですか?」


 そう、この部屋は6畳半ほどのワンルームであるのだが、ベッドが部屋のどこにも見当たらないのだ。もしかしたら布団一式をクローゼットの中に仕舞っている可能性もあるが……まさか、ね。

 すると、小鳥遊さんはおどけたような表情をして答えてくれた。


「ははっ。恥ずかしいことだが、そのソファで寝てるんだ。もしくは絨毯に寝転がってしまうか、だな。実を言うとな、一人暮らしを始めるに当たって最初に買ったのが、その机とソファなんだよ。ベッドは……まぁ後からでもいいか、って感じだったんだ。そしたらそのソファが寝心地よくて……それならもう掛け布団だけ買ってそこで寝ればいいかー、って考えるようになっちゃって、今に至るって感じなんだ」


 ――あぁ、なるほどね……とはならないですよ! え? 最初に買うのって、とりあえず寝床を確保するためにベッドとか敷布団とかじゃないの?


 内心で一人ノリツッコミをしてしまったが、僕の感覚がズレているのだろうか。僕の場合は実家から布団を持ってきて、それをそのまま使っている感じだが、小鳥遊さんはそうはしなかったようだ。


 もしかすると、使っていた布団が古くなってしまい、丁度買い替え時だった可能とかもあるが……まぁ、これ以上詮索するのは失礼かもしれない。

 だから僕は、錠剤が入ったビンを手で(もてあそ)びつつ。


「あはは、そんな事があったんですね」

と、深くは聞かずに納得する事にした。

 

なんだか知ってはいけない秘密を知ってしまったような気がするが、これが普段の小鳥遊さんなのだろう。

 すると。


「……ははっ。まぁ、必要最低限で済むならそっちの方がいいしな」


 小鳥遊さんは呟くように口にした。いつもの笑い方だが、そこには普段のような明るさがないように思えてしまった。

 もしかしたら、風邪のせいで、そう見えているだけかもしれないけど。でも、やっぱり……。そんな風に考えていると、小鳥遊さんが再び口を開いた。


「忘れてたけど、それ飲むのに水いるよね?ごめんな、そのまま渡しちゃって」


 そう言って小鳥遊さんは、食器棚らしき所からプラスチック製のコップを取り出し、水を注いで持ってきてくれた。


「そういえばそうでしたね。僕もすっかり忘れたので、ありがとうございます」


 僕はビンのフタを開けて、薬を2錠取り出し、小鳥遊さんからコップを受け取って薬と一緒に流し込む。そして、薬を素早く飲み込んだ。すると。


「……なぁ、千颯君。」


 どうしたのか、小鳥遊さんが僕の事を呼んだ。その表情は、なんだかバツの悪そうな感じであり、僕は少し不安になる。


「ど、どうしたんですか?」


「いや、薬を飲んだ後ですまないんだが……」


「……はい」

「それ……もしかして食後に飲むやつだったりしないか?」


「……あっ」


 小鳥遊さんに指摘されて、ビンの説明文に目を通す。そこには、しっかりと〈1日2回、朝夕食後、1回2錠〉と記されていた。


「……食後、ですね」


「あー、やっぱりそうだったか。すまないな、千颯君。私がしっかり確認すべきだった」


「いや、そんな、小鳥遊さんは悪くないですよ! 薬を飲む張本人である僕が確認しなかったのが悪いので」


 何故か小鳥遊さんが謝るので、僕はそれを否定しつつ謝った。だが、それが原因だったのだろうか、小鳥遊さんに変なスイッチが入ってしまう。

 

「こうなったら……よし、分かった。私が急いで夕飯を作るから、それで間に合わそう! 千颯君、何が食べたいか!? こう見えて料理は作れるから任せな!」


「えっ? きゅ、気にですか!?」


「あぁ。ちなみに、二度揚げ唐揚げはダメだぞ。風邪ひいているんだからな」


「いや、流石にそれは分かってますよ!? え、えっと、じゃあ、う、うどんでお願いします」


「はいよ!」


 なんだかラーメン屋の店主みたいなテンションになってしまった上に、薬を飲んでしまったのに何を()()()()()()としているのか分からない小鳥遊さんだった。

 でも、普段のキャラとは少し違うとはいえ、僕の言葉を心配してくれているのだから、その気持ちに感謝しないといけない。

 だから僕は。


「ありがとうございます」

と、キッチンスペースでうどんを湯掻いている小鳥遊さんのために、()()()()()()()()()()b()o()t()を発動させるのだった。



★―★―★



 それから数日後。僕は小鳥遊さんのおかげで、無事に風邪を治す事が出来た。


 因みに今更だが、僕が寝かせてもらった所は小鳥遊さんのソファ兼ベッドであったため、後から僕はとんでもない事をしていたんだなと思ってしまった。


 小鳥遊さんの寝床を奪ってしまった罪悪感というのもあるが、それ以上に小鳥遊さんが使っているソファ、言わば布団に入ってしまったというドキドキとした緊張感が、僕の胸を支配したのだ。普通にお邪魔していたら、きっと僕の心臓はもたなかっただろう。


 そんな心情を抱きながら、僕は小鳥遊さんと一緒に大学から帰っていた。


「すっかり元気になったな」


「はい、おかげ様で。おかげで今日のテストにも間に合いましたし」


「ははっ、それは良かった。それで、デキはどうだったんだミスターYDK?」


「聞いちゃいますか?」


「まぁな。聞かない方が良かったか?」


「いや、むしろ聞いてください! 自己採点ではあるんですが、なんと、選択問題は全部合ってましたよ!」


「おぉ、やるじゃないか」


「それと、論述問題の方は先生の採点次第なので分かりませんが……それでも、対策はしていたので、そこそこ出来ていると思いますよ」


「ははっ、病み上がりとは思えないな。流石だな千颯君」


 そう言って小鳥遊さんはニッと笑う。この表情は、もはやドキッと心を揺さぶるだけではなく、ホッと安心感を与えてくれるようにもなっていた。


「ありがとうございます」


 僕は褒められたお礼に感謝の言葉を伝える。すると。


「それじゃあ千颯君」

と、小鳥遊さんは何かを言おうとした。


 僕はなんだろうと思い、続きの言葉を待つ。やがて小鳥遊さんが口にしたのは――。


「テストのデキが良かったって事で、また二人で旅に行かないか? それも、今度は泊まりがけでだ。どう、だ……?」


 旅行のお誘いだった。しかも、今度は泊まりがけという、前回よりも日数が長いものだ。


 二人でお泊まり……その言葉を意識した途端、僕の心臓は早鐘を打ち始め、その音は隣にいる小鳥遊さんにまで聞こえるんじゃないかと思うほど、大きくなった。


 けれどそれと同時に、またあの楽しい時間が過ごせると思うと、ワクワクする感情が溢れてきた。

 だから、少し自信無さげに見つめてくる小鳥遊さんに対して僕は。


「もちろんです! 楽しみにしてますね!」


 そう元気に答えるのだった。

 だが、この時の僕はまだ知らなかった。この楽しいはずの旅行で待ち受ける災難を――。

お読みいただきありがとうございました。

小鳥遊さんってミニマリストなんでしょうか。部屋に置いてあるものは必要最低限の物だけみたいですね。

また、普段とは違って少し変わっているところもあるという、小鳥遊さんの新たな一面も見られましたね。

そして、最後にもあるように、次回からは2回目の二人旅編です。何やらハプニングも……?

それでは、次回もまたよろしくお願いします(→ω←)

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