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6話 初めての二人旅(後編)

 昼食を取れる場所を探して歩くこと約10分、僕は良さげな店を見つけた。すると。


「……ラーメン屋か。ここ気になるんだが、千颯君はどうだ?」


 小鳥遊さんは、〈らぁめん〉と書かれた暖簾(のれん)を見ながら僕に尋ねた。そこは二階建てになっており、一階部分がラーメン屋となっていた。僕も今まさに気になっていたお店だ。


「いいですね。僕もここはどうか小鳥遊さんに聞くつもりでしたので」


「そうか。それならここにしてみよう」


 そう言うや否や、小鳥遊さんは暖簾を掻き分けて店の扉を開けて入る。僕もその後に続いて入った。


「いらっしゃいませー」


 店に入ると、ラーメンの良い香り……ズルズルっと美味しそうにラーメンを食べる家族……ジュワァっと餃子を焼く音など、あらゆる感覚が僕の食欲を刺激した。

 家族経営のお店なのだろうか、店内は割とこじんまりしている。


「これは当たりっぽいな」


 小鳥遊さんは、店の雰囲気から確信を抱いているようだ。


「はい、待ちきれないですね」


 僕も小鳥遊さんの言葉に賛同した。

 やがて、ここの娘さんだろうか、30代くらいの女性に案内され、僕らは小さなテーブル席に着いた。そして、一枚物のメニュー表から、それぞれ食べたいものを選んで注文した。


「それではごゆっくりどうぞ」


「ありがとうございます」


 僕は料理を運んでいただいた女性にお礼を言うと、机の上に目線をやる。


 醤油ラーメンに浮かぶ油分が店内の光に反射して輝き、温かい湯気と食欲をそそる香りが立ち込めていた。それだけではない。一つひとつが大きく、一人前でも中々のボリュームがある唐揚げも、負けじとその存在感を放っている。

 小鳥遊さんは僕と同じ醤油ラーメンと、餃子にしたらしく、その餃子もまたサイズが大きかった。


「さぁ、食べようか」


「はい」


「いただきます」


 僕らは合掌して割り箸を割る。

 そして、麺を持ち上げて口元に運んだ――。

 パクッ。


「やばい……うますぎる……!」


 僕は敬語を忘れてしまうほど、このラーメンに感動した。鶏がらスープをベースにしているのだろうか、あっさりとした醤油風味と、チュルチュルっと滑る口当たりの良い細麺が、とてつもなくマッチしていた。


「あぁ……これは今まで食べたラーメンの中で一番かもしれない……!」


 小鳥遊さんも目を真ん丸にして驚嘆していた。


 僕は、今度は唐揚げに手を伸ばす。

 ――普段食堂で何度も唐揚げを食べている僕だ。少し唐揚げにはうるさいかもしれないが、ここのはどうかな?

 僕は謎の上から目線を発動しながらも、唐揚げを口元に運んだ。


 そして、まずは一口と唐揚げを噛んでみる。すると、表面の皮がカリッと心地良い音を立てた。


「っ!?」


 ――こ、これは……僕の大好きな二度揚げした唐揚げ……だとっ!?


 今度は口いっぱいにして噛む。すると、ジュワっと肉汁が口いっぱいに溢れ出して、僕の口の中に広がった。咀嚼(そしゃく)する度に肉汁が出てきた。


「やばぁい……うまぁい……」


 ラーメンを食べた衝撃で失われかけていた僕の語彙力は、唐揚げによって完全に奪われてしまった。


 すると、小鳥遊さんがフッと笑った。


「千颯君、そんなに美味しかったんだな。それなら私の餃子と千颯君の唐揚げ一つ交換しないか?千颯君の幸せそうな顔を見てると、どんな味か気になってな」


 僕はその言葉を聞いた途端、この唐揚げの美味しさを共有できると嬉しくなり、


「はい、どうぞ食べてみてください!」

と、唐揚げの入った皿を差し出した。


 小鳥遊さんは「ありがとな」と言って、自分の箸で唐揚げを取り、餃子を僕の皿に置いてくれた。


 ……ん?小鳥遊さんが使ってた箸で取り分けた?

 ……?

 ……。

「……っ!?」


 僕はその事実に気づくと、さっきの嬉しさから一転、とんでもない恥ずかしさを覚えた。

 そして、目の前の餃子にすぐに手をつけることはできず、小鳥遊さんに疑問を抱かれた上、冷めてきた後半になってようやく食べたのだった。因みに冷めても美味しかった。




 そこから、ゲームセンターで遊んだり、レトロな玩具屋に寄ってみたりと、楽しい時間はあっという間に過ぎ、気が付けば陽も落ちかけていた――。


「そろそろ帰るか」


 駅前の商店街を歩いていると、小鳥遊さんがポツリと呟いた。商店街は活気に満ちており、夕方のタイムセールを知らせる声があちこちで響いている。


「そうですね……」


 もうこの旅が終わりだと思うと、僕は楽しかった反面、なんだか名残惜しくなった。

 すると、小鳥遊さんが口を開いた。


「……なぁ千颯君、今日の旅は楽しかったか?」


 小鳥遊さんは僕をジッと見つめる。

 僕は恥ずかしさから一瞬目線を逸らしてしまったが……再びその目を見つめて応えた。


「もちろんですよ、とても楽しかったです!」


 僕がそう言うと、小鳥遊さんは少し黙ってしまったが、やがて何かに納得したように頷き、いつものようにフッと息を漏らした。


「そうか、それなら良かったよ。また一緒に旅しような」


 そう言って、小鳥遊さんはいつものように……いや、いつもとは違って無邪気そうにニッと笑った。


「……ずるいですよ」


「え? 何て言ったんだ?」


「な、何でもないですよ。また行きましょうね」


 僕は慌てて目を逸らした。けれど。


 ――この旅に来て良かったです。また一緒に旅をしたいです。

 内心でそう告白するのだった。


★―★―★



 それから千颯君と一緒に列車で帰り、最初に待ち合わせた駅で千颯君と別れた後、私は帰路についた。

 そして、今日の旅を……千颯君の行動を振り返った。


 ――さりげなく車道側を歩く優しさ、うっかり私の箸で餃子と唐揚げを交換しても何も言わないでくれた優しさ、私から付き合わせてしまったのに「楽しかった」と言ってくれた優しさ……。


 私は彼の優しさがとても嬉しかった。

 その優しさのおかげで、私は今日の()()()に意味があったと感じた。

 そして、私は内心で千颯君に謝罪をする。


 ――ごめんな、佑介君を省いた二人旅にしてしまって。

 そう。この旅の本当の目的は、千颯君のことを確かめるためだったのだ。


 でも……おかげで、予想から確信に変わった。

 私はフッと笑みを溢すし、立ち止まって夜空を見上げた。きれいな星空が広がっており、木星が牡羊座で(しょう)となっていた。


 私は夜空の木星を見つめ、その言葉を吐き出した――。


「やっぱりあの時の正体は君だったんだね、千颯君。いつかは君に……」


 続きの言葉を口にしようとしたが、心の中の何かに(はばか)られてしまい止めてしまった。

 私の言葉は未完成のまま、夜空に吸い込まれしまうのだった――。

お読みいただきありがとうございました。

今回の前半は、なんだか「孤○のグルメ」みたいな回でしたね(笑)。個人的に、食事シーンを描いてみたかっただけなので、完全に自己満足です。

そして後半は、初めて千颯君以外の視点……小鳥遊さん視点になりました。ここで少し判明した彼女の思い、そして彼女の過去。今後、小鳥遊さんはどうするのでしょうか?

それでは次回もまたよろしくお願いします(→ω←)

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