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5話 初めての二人旅(前編)

 それから2週間ほど経過したある土曜日。

 僕は今、例の乗り換え駅のベンチに座り、リュックを膝の上に置いてスマホを(つつ)いている。スマホの左上には8:30と示されていた。


 しかし、画面いっぱいに映し出されているのは、いつも弄っているゲームアプリではない。連絡アプリの画面である。それも小鳥遊さんのだ。

 そう、あの約束の後に連絡先を交換したのだ。僕は嬉しくて嬉しくてたまらなかった。その余韻が未だに残っていた僕は、その画面を何度も点けては消してを繰り返し、来たる時のことを想像しながら待っていた。


 この駅はそこら辺の駅よりも大きな駅なので、8つもあるホームではそれぞれかなりの人が並んでいる。そんな中、(はた)から見れば、僕はきっと落ち着きのないヤツだと思われていることだろう。

 けれど、周りの目なんて気にすることができないほど、僕は浮き足立っていた。


 程なくして、二件の通知がスマホの画面の上に表示された。そこに書かれていたのは。


『もうすぐ着くぞ』


 小鳥遊さんからのメッセージと、ゆるっとしたキャラがグッジョブサインをしているスタンプだった。

 僕は、同じくグッジョブサインをしているアプリ公式の無料スタンプで返信した。


 そう、小鳥遊さんが使うスタンプは、そのクールな性格に反して、いつもゆるゆるなキャラのスタンプなのだ。

 僕にとっては、そのギャップがなんともまた可愛らしく思えた。

 

 それから5分程経っただろうか。小鳥遊さんから再びメッセージが送られてきた。


『後ろ向いてみな』


 僕はそのメッセージを見るや否や心拍数が上昇し始めた。後ろを振り返ると、そこには――。


「やほっ、千颯君。待たせたな」


 あのバックパックを背負った小鳥遊さんが、片手を少し挙げて立っていた。


「あっ小鳥遊さん、おはようございます。大丈夫ですよ、さっき着いたところですから」


 僕はテンプレートのような返しをした。因みに、このやりとりがデートの待ち合わせっぽいと思ったのは秘密だ。


 程なくして、列車到着のアナウンスが流れた。僕たちも人々の列に並んで、到着した列車に乗り込む。


 ――いよいよ小鳥遊さんとの二人旅の始まりか……

 その事実を改めて認識すると少し緊張したが、やがて心を躍らせるのだった。




 40分ほど経過しただろうか、僕たちはある駅で降りた。

 何の変哲もない、よくあるような駅だ。今回の駅はちゃんと駅員さんもおり、あるイケメン駅員さんが、おば様方の質問責めに遭っている。


 別にここを目的地としていたわけではない。小鳥遊さんがメインに行っている()()()()に僕も乗っかったのだ。

 ただしぶらり旅とはいえ、降りる駅によって切符の値段が変わってくるため、どこでも気まぐれに降りられるわけではない。同じ値段の駅の中から適当に降りるといった具合なのだ。


 例えば、「今日は600円の距離の駅に降りよう」と決めた場合、複数の路線から一つの路線を選び、そこからさらに、同じ値段圏内の連続する2・3駅から適当に降りるといった感じだ。

 まぁこれは小鳥遊さんの最寄りの駅が、複数路線のハブとなっているからこそ可能なのかもしれないけど。


「この辺は来たことあるか?」


 改札口を抜けると、小鳥遊さんは僕に尋ねた。


「いや来たことないですね」


「そうか……なら良かった」


「どうしてそんなことを?」


「なに、来たことある所に連れて行っても、千颯君が楽しめないかもしれないと思ってな」


「気にしなくていいですよ、そんなこと。そうなるかもしれないのを把握してぶらり旅に乗ったんですから。たとえ来たことがあっても、必ずしも同じ所に行くとは限らないわけですし。それに……」


 と、僕は続きの言葉を吐き出そうとしたが止めた。「小鳥遊さんと一緒ならどこでも楽しいですよ」なんてセリフが格好つけているようで、恥ずかしくなったからだ。

 だから。


「……やっぱり何でもないです」

と、僕はお茶を濁した。


「おいおい、気になるじゃないか。」


 小鳥遊さんは苦笑いを浮かべた。

 けれど、小鳥遊さんは「まぁ」と続けて口にする。


「でも、そんな風に考えてくれているのを聞けて嬉しいよ。少し自信が無かったから、ありがとな」


 そう言って微笑む小鳥遊さんに、僕はもう何度目か分からないドキドキを感じた。同時に、小鳥遊さんを励ますことができたことに喜びを感じるのだった。




 それから暫くの間、小鳥遊さんと世間話をしたり、気になったお店に入ったりしながら、のんびりと観光をした。


 そして今、僕らは町中をぶらぶらと歩いている。僕の視界の右側では路線バスが通り過ぎる。

 すると、路線バスの音にも負けないぐらいワイワイと騒ぐ、幼い声がどこからか聞こえてきた。声の方に目線をやると、そこには――。


「……小学生か。懐かしいな、運動会とか」


 小学生たちがトラック上を全力で駆け、周りの大人や子どもたちも全力で応援をする、活気に溢れた光景が広がっていた。小鳥遊さんも懐かしさを感じているらしい。


「本当ですね。もう7、8年くらい前のことですもんね。それに、今走っているのは1、2年生ぐらいでしょうから、僕らからしたら10年以上も前の話になりますね」


 僕も同じように懐かしさを感じながら言った。


「ははっ。そうやって考えると、あれからもうそんなに経っているんだな……」


 時間の流れの早さに感慨深くなったのだろうか、小鳥遊さんはどこか遠い目をした。そんな時間は、学校の時計によれば11時15分を示している。


 ――もう2時間くらい歩いたんだな。

 僕も時間の流れの早さに感慨深くなった――その時だった。


 ギュルル……と、変な音が左側から聞こえた。

 ふと視線をそちらに向けると、遠い目をしていた小鳥遊さんが、今度は目を真ん丸にしていた。


 そして、小鳥遊さんは僕の方に顔を向けて、ジッと見つめてきた。今の音が聞こえていないかどうか、反射的に確認したのだろう。


 普段がクールな小鳥遊さんだけに、人間らしいところがあるんだなと思ってしまった。


「……そろそろお昼にしましょうか」


 僕がそう提案すると、小鳥遊さんはフッ息を漏らした。


「……あぁ、そうしようか。旅先での食事は旅の醍醐味だからな。それに、私の腹の虫も我慢の限界っぽいしな」


 小鳥遊さんは右手で自分の頭を押さえながら笑った。

 僕も小鳥遊さんの仕草に思わず笑みを溢すのだった。

お読みいただきありがとうございました。

千颯君にとっても小鳥遊さんにとっても初めての二人旅、いかがでしたでしょうか?

今回は話に起伏が無いのんびりとした回でしたが、ちょっとした伏線も隠れています。

そして、この話は次回の後編に続きます。

それでは次回もまたよろしくお願いします(→ω←)

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