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4話 まさかの提案!?

 小鳥遊さんと別れて、翌日となった。

 今日は月曜日。また1週間の大学生活の始まりである。

 しかし、「さぁ今週も頑張ろう」などというフレッシュな気持ちは僕にはない。きっと多くの人が感じているだろう、月曜日ほど憂鬱で嫌気がさす日はないと。僕も同じである。


 しかも僕の場合、朝の1限目に必修科目があるので余計に憂鬱なのだ。本当に、それを取らさざるを得ないようにするうちの大学は鬼か悪魔なのだろうか。


 一応分からない方のために説明しておくと、大学の授業は「〇曜日の〇限目は〇〇」というように予め決まっており、その中から自分が受けたい授業を選べる(ただし、学部学科や学年によって選べるものは限られる)のだが、中には必ず選択しなければならない必修科目というのがあるのだ。

 それが朝の1限目(僕の大学の場合は9時に開始)に入っていると、遠くから通学する人は朝の5時とかに起きなければならない。


 僕の場合は徒歩で15分、列車で20分、再び徒歩で10分とそこそこかかるので、朝の6時に起床せねばならず面倒なのだ。

 けれど、昨日の小鳥遊さんとの思い出のおかげか、今日は眠気と葛藤する事なく張り切って授業を受けることができたのであった。



★―★―★



 やがて昼休みになり、僕は佑介と一緒に学内にある食堂に来た。ここでは、壁に貼られたメニュー表から食べたいものを選び、それを食堂の方に伝えて受け取るというシステムである。


 メニューも豊富で、定食系のもの、麺類、デザート、さらには毎月のフェア商品など、食べ盛りの学生たちを思わず悩ませるラインナップなのだ。


「なぁ千颯。この"秋野菜とキノコのたっぷりクリームシチュー"ってヤツ美味(うま)そうやないか?俺コレにするわ」


 フェア商品には目がないグルメな佑介は、ウキウキしながら僕に聞いた。


「確かに美味しそうだね。けど僕はいつもの"唐揚げ定食"かな」


「お前ホンマにブレへんな。それも美味いけど、いっつもソレ食うて飽きへんのか?」


「飽きるも何もコレが1番美味しいんだよ。いいか佑介、コレはおばちゃんたちが態々二度揚げまでしてくれているからこそ美味しいのであって、一度しか揚げないのは……」


「お前こんなとこでも思想爆発させんなや!」


 僕の"唐揚げ定食"への思いは即座にツッコまれてしまった。僕ってそんなに変な考えをしているのだろうか……?

 そんな疑問を抱きつつも、僕たちは料理を注文して受け取る。


 やがて、多少混み合って来ながらも、いつもの端っこの席が空いているのを見つけた僕たちは、向かい合うように座った。


「いただきます!」


 僕たちは手を合わせながら挨拶をし、料理に手をつける。


「いやぁうまいわコレ。濃厚なクリームシチューとキノコの風味がよう合うわ。コレ作ったおばちゃんたちにはホンマ感謝やわ」


 スプーンいっぱいにシチューを(すく)って一口食べた佑介の顔は、いつになく満足気であった。

 僕も唐揚げをまるまる一つ口にする。


「うん、やっぱりコレだね。安定で美味しいわ」


 口いっぱいに広がる肉汁とサクサクの食感……コレを食べている時が僕にとって至福の時間だ。これで午後の授業も頑張れる。

 そんな感じで僕たちが舌鼓を打っていた時だった。


「すまない、隣いいか?」


 突如、僕の後ろから女性の声がした。

 僕はその声を聞いた途端、心臓がドキッと大きく跳ねた。


「はい、大丈夫ですよ」


 僕は平常心を保ったフリをしながら後ろを振り返る。

 するとそこには――。


「やっほ。まさか同じ大学だったとはな、千颯君」


「……小鳥遊さん?」


 小鳥遊さんが料理を乗せたお盆を持って、ニッと笑っていた。そして、何の躊躇いもなく僕の隣に座った。


 ――ヤバい、めっちゃ近い!

 昨日は適切な距離を空けて接していたのに、今日は席が隣とはいえ近すぎるのだ。小鳥遊さんから女の子特有のいい香りが漂ってきて、僕の心臓はもうバクバクだった。


「……なんや、千颯の知り合いか?」


 すると、正面の佑介が疑問を投げかけてきた。どうやら佑介は、あの時小鳥遊さんの姿を見かけていなかったらしい。


「あ、うん。この前知り合った方だよ」


 とりあえず駅で出会ったことは秘密にして僕は答えた。

 佑介に内緒で昨日も駅に行ったことがバレないようにするためだ。

 すると、今度は小鳥遊さんが口を開く。


「直接話すのは初めましてかな。小鳥遊奏羽だ、よろしくな」


「目黒佑介や。ところで、直接話すのは……ってなんや、どこかで()うたことあるか?」


 佑介がその疑問を口にした時、僕はドキッとしてしまった。

 ――ヤバい、あの時焦ってた理由が連鎖的にバレるかも……。

 僕は緊張と恋情の相乗効果で心音が鳴り止まず、口出しできなくなってしまった。

 ところが。


「なに、一昨日(おととい)君たちを駅で見かけただけだ」


 小鳥遊さんはそれだけ答えて、「いただきます」と"かけうどん"を(すす)り始めた。

 佑介も「なんやそういうことか」と、それ以上深くは聞かなかった。

 二人の会話に、僕はひとまずホッと胸を撫で下した。




 それから3人で少し会話をした。話していて意外だったのが、僕たちは1年生なのだが、小鳥遊さんは2年生であり先輩だったのだ。

 それにも関わらず佑介はいつも通りのタメ口関西弁で話すものだから、少しばかりヒヤヒヤした。小鳥遊さんの方はあまり気にしていない様子だったが。


 対して僕は『ずっと同い年か年下の少女だと思っていてすいませんでした!』と、謎の罪悪感から思わず内心で謝罪をしたというのに。


 やがて、次の時間も授業だからと佑介は食堂を去って行った。僕は次の次の時間に授業があるため、次の時間は空きコマである。おかげで僕は隣の小鳥遊さんと二人きりになってしまった。

 その事実に気づくと、三人でいた時は少し落ち着いていた心臓が、再び早鐘を打ち始めた――。

 と、そんか時だった。


「千颯君って、旅が好きなんだよな?」


 小鳥遊さんが突然そんなことを聞いてきた。

 僕は早鐘を打つ心臓を抑えながら咄嗟に答える。


「えっ、まぁはい。そうですね」


 僕の答えに小鳥遊さんはニッと笑ったかと思うと、予想外の言葉を口にした。


「それならさ、今度一緒に旅、行かないか?」


「……え?」


 ――えっ、え??


 小鳥遊さんの言葉に、僕の思考は停止してしまった。

 周りでは食事を終えたであろう学生たちが次々と立ち上がってお皿を返却しに行っている。騒がしい周囲に対して無言のまま固まってしまった僕を他所に、小鳥遊さんは続ける。


「ははっ、いきなりこんなことを聞いて悪かったな。実を言うと、誰かと旅をしてみたいんだよ、家族以外で。けど、私の周りでも同じ趣味のヤツはそういないんだ。そこで同じ趣味の千颯君が現れたんだ。だから、良ければなんだが一緒に来ないか? 日帰りでいいからさ。お金に関しては……まぁ、交通費ぐらいなら出してあげられるから……」


 小鳥遊さんは僕の目をジッと見つめた。

 正直、初めて会ったばかりの僕にここまで距離を詰める小鳥遊さんに驚く反面、その提案自体はすごく嬉しかった。

 けど、二人きりになるのは余りにも光栄で恥ずかしすぎる。だから僕はある提案をした。


「ありがとうございます。それなら佑介も誘っていいですか?」


 ――小鳥遊さんなら受け入れてくれる。

 出会って数日の関係にも関わらず、僕はそう踏んでいた。むしろ受け入れてくれなかったら、僕が緊張のあまり耐えられなくなる。


 僕も小鳥遊さんの目を直視……はできないけど、少し目線はずらして顔を向けた。

 一方で小鳥遊さんはジッと僕の目を見つめた後、少し視線を落とした。


 ――あれ、なんかまずいこと言っちゃった……?

 僕は少しばかり不安に襲われかけた。しかしその瞬間、小鳥遊さんは僕の心臓に追い打ちをかけるようなことを言った。


「いや、その……君と二人で行きたいんだ。佑介君には悪いが……ダメ、か?」


「……っ!?」


 その言葉に、僕の心臓はもう破裂寸前であった。おまけに、小鳥遊さんは意識しているのかしていないのか、上目遣い気味にその目で訴えてかけてくる。

 学生たちの話し声が渦巻く中、僕らの席だけはまるで別空間のように静寂が支配していた。


 どうして佑介はダメなのか。小鳥遊さんの意図はさっぱり分からない。けれど、小鳥遊さんとの二人旅に魅力を感じてしまった僕は。


「……はい、いいですよ」

と、首を縦に振ってしまうのだった。

お読みいただきありがとうございました。

今回はいつもより1000文字くらい多くなっちゃいました。

それにしても、千颯君と二人きりの旅を願った小鳥遊さん、彼女には一体どんな思惑があるのでしょうか?

そして、ドキドキ旅が確定しそうな千颯君は、小鳥遊さんとどんな旅をするのでしょうか?

それでは次回もまたよろしくお願いします(→ω←)

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