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2話 後悔と勇気

 僕は一目惚れした少女に話かけるか悩んだ。


 ――初めて好きになった人なんだ、どうせなら仲良くなりたいだろ? 話しかけちゃいなよ!

 一方では、自らの欲望に忠実な自分がいた。けれど。


 ――見知らぬ土地で急に知らないヤツに……ましてや、こんなオタクに話しかけられるのはイヤなのでは……?

 もう一方では、客観的に分析する冷静な自分もいた。

 僕は内なる二者に挟まれて、頭の中がぐるぐると回った。


「……はやー?」


 どうする?この機会を逃せば二度と少女には会えないかもしれないぞ……。いや、だからと言って、少女のプライベートを邪魔するのはどうなんだ……?


「……ちはやー」


 ……でも、僕はやっぱりあの少女に――。


「おーい、ちはやー!!」

「っ!?」


 急に叫び声が聞こえたと同時に、僕は現実に引き戻された感覚がした。そして、慌てて後ろを振り返る。


「ど、どうしたんだよ佑介」


「どうかしてんのは千颯の方や! なにぼーっとしてんねん。……ってかお前顔赤いで、大丈夫か?」


「えっ?」


 佑介に指摘されたので自分の顔を触ってみると、確かにいつもより熱を帯びている気がした。


「だだっ、大丈夫だからっ!」


「なにを焦っとんか知らんけど、目線が()うてへんで。大丈夫やないやろ?」


 佑介が僕の顔を覗き込む。僕は思わずギクリとしてしまった。図星だからだ。

 そして、自分でも何を思ったのか分からないが、焦る原因となったはずの少女に、助けを求めるようにして後ろを振り返った。

 しかし。


 ――あれ、いない……?

 少女はいつの間にかホームから姿を消していた。改札口の方を見ると、少女は既に改札口の向こう側へと歩みを進めていた。


「……待って!!」


 僕は少女を呼び止めようと精一杯叫んだ。呼び止めたところで話しかける勇気はないくせに。しかし、幸か不幸か、少女が振り返ることはなかった。


「なんやねん急に叫んだりして……お前、ホンマにどしたんや?」


「……なんでもないよ」


 僕はそう答えることしかできなかった。言えるはずがなかった、偶々(たまたま)見かけた少女に一目惚れしただなんて。しかも、それを親友に言うだなんて。


 そして僕は後悔した。どうして自分から千載一遇のチャンスを手放してしまったのだろうか、どうして自分から勇気を出して話しかけなかったのだろうか――と。



★―★―★



 その日の夜、僕は布団に包まったものの眠れずにいた。

 あの後、佑介と一緒に駅近辺を散策したり、偶々見つけた食堂でお昼ご飯を食べたりした。


 けれど、あの少女のことで頭がいっぱいだった僕は、佑介とした会話の内容や、食堂で食べた定食の味など覚えてなかった。


 そう、あれからずっと、少女のことが頭から離れなかったのだ。そして、思い出す度に後悔の念が僕の中を支配したのだ。


 ――もう一度……もう一度だけあの少女に会えるなら。なんて、叶いもしないだろうけど……願うだけならタダだよね。


 そんな淡い期待を抱きながら、僕は(ようや)く眠りについた。



★―★―★



 翌日、僕は再び来てしまった。そう……昨日少女と出会ったあの無人駅だ。

 しかも、昨日より早い時間である上にたった一人で。自分でも、未練がましくてストーカーっぽいことは分かっている。


 ……けれど、どうしても諦めたくなかった。

 だから僕は、駅の待合室に入って、コの字形の長椅子の一部に座り、列車が来るのを待つフリをしながら少女が現れるのを待った。






 あれからどれくらいの時間が経っただろうか。結局、駅に来た人は片手で収まるような数だけだった。

 僕がここに着いた時には青々としていた空も、今や夕焼け色に染まり、秋色の山々と共鳴していた。


「流石にもう無理だよなぁ……」


 溜め息を吐きながら、僕は現実を受け入れることにした。

 最初から無理な話だったんだ。昨日この駅で見かけたからって、翌日もここに来るなんてことはそうそう無いのだ。

 少し考えれば分かることだったはずなのに――。


「……帰るか」


 少女のことはもう忘れて、今度は本当に次の列車を待つことにした――その時だった。


 駅の待合室に一人の女性が入って来た。その女性は、少し日焼けしていて、黒髪のショートヘアで、大きなバックパックを背負っていた――。

 その瞬間、僕の心臓は大きく脈打った。


 ――あの()だ! 本当に来たんだ!


 それだけではない。なんと少女は僕の正面に座ったのだ。こんなチャンスはもう二度と訪れないだろう。


 ――僕はもう後悔したくない!


 その一心で、僕はバクバクする心臓を必死に抑えながら、勇気を振り絞って――。


「あっ、あのっ……!」


 僕は、自分でも驚くぐらいぎこちなく話しかけた。しかし、いざ話しかけてみたはいいものの、どう会話を切り出せばいいか全く考えていなかった。

 少女は不思議そうにその瞳をこちらに向ける。


 ――ヤバい、どうしよう!?


 少女の瞳と自分の無計画さに、僕は気後れしてしまった。だけど、ここで「やっぱりなんでもないです」なんて言ってしまっては、ここまでの思いや行動が全て水の泡になってしまう。


 だから僕は、今までに経験したことないくらいに頭をフル回転させ、会話の内容を考える。たった数秒の時間であるはずなのに、途轍(とてつ)もなく長い時間に感じられた。


 やがて、僕は一つの考えを思いつく。

 そして、その言葉を口にした――。


「……今日はいい天気ですね!」

お読みいただきありがとうございました。

勇気を振り絞って話しかけた千颯君ですが、雲行きが怪しくなりそうなセリフを残しましたね……。

少女は一体どのような反応をするのでしょうか?

そして、千颯君はこの後どうなるのでしょうか?

それでは、次回もまたよろしくお願いします(→ω←)

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― 新着の感想 ―
[良い点]  挨拶は大事だし、趣味全振り人間でも埋まらないくらい他人に関心を持っていかれることは人生ではありえますからね。頑張って少年。 [一言]  知らない人にする話は天気の話は鉄板ですので慣れてな…
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