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6のダン『獅子泪累に口、噺』

「なんで!? 大した女だよ! わたし!」


 累が手も足も締めながら口だけ開き幽弁に迫る。


「それとこれとは話が別だ! ええい! しがみつくな! 離せ!」

「やだやだやだ! 絶対やだ! 大体いいの!? そんなこと言って……一人で帰れるの?」

「はあ? 子供じゃないんだ、一人で……」


そこで、幽弁ははたと気づく。外が騒がしい。それも、大勢の魔ジュウらしき声。

幽弁は抱きつき虫を引きずりながら、声のする方を窓から見る。

すると、そこには魔ジュウの大群が押し寄せていた。


「お、おい、もしかして、ここって……」

「そうだよ、シブヤ区。魔ジュウだらけの激ヤバスポット」


幽弁は冷や汗を流しながら、慌てて、累を引き剥がそうとする。

だが、累は離れない。


「おい! どういうつもりだよ!」

「幽弁ケッコンするって言って、言ったら助かる」

「なんでだよ! お前さんはいつも言葉が足りないんだよ!」

「説明が難しい」


累は真剣な表情で言う。

幽弁は引きつった笑みを浮かべながら、しばし、考え込み、やがて諦めたような顔でため息をつく。

それから、累を一度強く抱き寄せてから、鼻先がくっつくほどの近さで真剣な表情を向ける。


「嘘吐いたら針千本飲ますからなあ!」


 涙目で。


「嘘は吐いた事ない」


そう、累は、嘘は吐いたことがない。

幽弁は分かっていた。

この少女はきっと約束を守る。

 幽弁は一度大きく深呼吸をすると顔を上げる。


 その目は男のよく回る舌よりも饒舌で少女はにこりと微笑む。


白髪のぼさぼさロングを揺らしながら真っ白な肌の少女の瞳は一人の男を捉えて離さなかった。そして、少女は男に向かって再び一言放つ。


「幽弁、ケッコンして?」


少女の金色の瞳に映った男。その男の瞳には少女は映っていない。

彼の真っ黒な瞳が見つめる先には少女の持つ馬鹿でかい銃口があった。


「告白どころか脅迫じゃねえか、白昼堂々白刃ならぬ黒銃向けられこちとら顔面蒼白思わず慟哭ってな」


黒い着物姿で両手を挙げた男の言葉に少女は大きく髪を揺らしながら獰猛な笑顔を見せる。


「ししし、幽弁、面白い」

「いや、笑えねえんだわ!」


 そう言いながらも幽弁の顔は小さく笑っていて、


「分かった! ケッコンしてやらあ!」


幽弁がそう言うと累は瞳を潤ませ……銃口を幽弁に向ける。


「じゃあ、キスね」

「キスってお前! 銃口と俺の口で!?」

「??? だって、ケッコンだよ?」

「もういいもういい! いつだってお前さんは説明不足だ! だから、いい! キスしてやるよ!」


そう言って幽弁が累の持つ銃の銃口に向かって唇を押し付けた瞬間、幽弁の身体と銃が輝き始める。


「お、おい! 累! これはどう、いう……」


幽弁が累に向かって話しかけようとすると、累もまた銃口に唇を重ねていた。


「どういうことぉおお!?」

「これで契約成立。『結魂』が相成った。あなたの魂、わたしが、ジュウ姫、獅子泪累が預かった」


驚愕の表情を浮かべる幽弁だったが、何かを言う前に全身が輝き累の身体に吸い込まれていく。


『いや、どういうことぉおお!?』

「今、幽弁はわたしの中にいるの」

『どういうことぉおお!?』

「わたし、ジュウ姫、幽弁、銃ダン」

『わかったわかった! 後でゆっくりお話だ! とっとと片付けろ!』

「しし、任せて」


そう言うと累は魔ジュウの大群の方へ歩き出す。

魔ジュウ達の前に立つと、累は銃を構える。

いつの間にか黒から白銀に変わった銃をうっとりとした目で見つめ話しかける。


「幽弁、一緒に戦おうね」

『どうやってかなぁあ!?』

「幽弁の魂のダン性は【カイダン】。気持ちいい話をしてくれるだけでわたしは強くなれる。だから、さっきの噺もう一回聞かせて」

『分かってねえけど分かったよおお!』

「わたしの神銃は、獅子吼144マグナムModel29。興奮すればするほど激しく火を噴く」

『4×4×9で144ってか! 洒落がきいてんなあぁあああ! 毎度ぉお! バカバカしい話を一発!』


幽弁の叫び、そして、累の為だけの噺に対し、累は楽しそうに笑いながら駆け出す。

馬鹿でかい銃口の銃を振り回しながら魔ジュウ達に向かって撃ち続ける。


「幽弁の言葉が、心が、魂が、弾となって魔ジュウに突き刺さる」


累の撃った弾丸は魔ジュウ達に次々と命中していく。


「心をうちぬかれた魔ジュウはもう魔ジュウとしての生を終える」


そんな累を警戒してか魔ジュウ達は一斉に襲い掛かる。


「幽弁の魂が燃えてる限り、わたしは止まらない」


だが、次の瞬間にはそのほとんどが地に伏していた。

死屍累々の山の頂上白い獣の白銀の口から咆哮が上がる。

そして、最後の一匹を撃ち抜くと、銃から光が離れ、再び幽弁の身体に戻っていく。

累は銃を下ろさない。真正面に立つ幽弁に向けたまま。


「幽弁の心を撃ち抜くまでわたしは絶対に止まらないから。ね?」


 ちらりと白い八重歯を見せながらぼさぼさ白髪を揺らして累が笑う。

幽弁もまたゆっくりと銃を下ろさせ微笑み口を開く。


「……さっぱりなにもかもわかんねー! どうなるんだよ! 銃は下げられてもこれでサゲとはならねえよおお!」


幽弁の叫びが一帯に響き渡る。

死屍累々と呼ぶにふさわしい魔ジュウの死体の海の中。

それが、売れない噺家白銀幽弁にとって、『最初の』白髪のジュウ姫獅子泪累との出会いだった。

これにて一旦完結です。お読み下さりありがとうございました。

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