3のダン『獅子泪累に語彙はなし』
「ケッコンして?」
「え? なんだって?」
幽弁は呆気にとられて噺家としてはあるまじき商売道具の言葉を見失う。
美少女は呆気にとられた幽弁の顔を見ながら首を傾げ、口を開く。
「ケッコンして?」
「いや、聞こえなかったわけじゃねえよ!? なんでいきなり結婚の話になるんだよって話だよ!」
「すきだから」
「初対面だよなあ!?」
「初対面、じゃない」
「はあ!? いつ、どこで出会った?」
「幽弁の落語ずっと聞いてた」
「ずっと、ファンってことか!?」
幽弁は自身の記憶を必死で辿る。
記憶力には自信があったが、目の前にいる彼女に見覚えはない。
ぼさぼさではあるが美しい白髪。すらりとした身体なのに出る所はしっかり出ている。その上、とんでもなく美人で、彼女レベルの美人の知り合いは一人しかいない。
そんな美少女を覚えていないはずはないと幽弁は首を傾げる。
「悪いけど、俺はお前さんのこと知らないんだが……」
「あ、そっか。目が合うと緊張するから……盗聴器とスコープで遠くから……ずっとずっと」
(ヤバいヤツじゃねえかあぁああああ!)
幽弁は内心絶叫しながら冷や汗を流す。
「そ、そうか……。でも、俺はお前さんの事何も知らないしな……」
「獅子泪累。18歳。傭兵。好きなものは漫画と幽弁。苦手なものは人間、それと会話。趣味は射撃。特技は遠距離からの狙撃。喋らなくて済むから。得意武器はS&WM29。嫌いなのは虫と幽霊。好きな食べ物はポテト。苦手な食べ物特になし。スリーサイズ上から84-58-84。身長は164cm。体重は秘密。よろしく」
「全然よろしくねえよお!」
「体型は?」
「よろしいと思いますけど!?」
(ヤバいやつじゃねえかあああ!)
幽弁は内心大絶叫で大冷や汗を滝のように流す。
そして、幽弁は必死に頭をフル回転させ考える。この場を乗り切る方法を。
獅子泪累と名乗る美少女もそうだが、魔ジュウもまた動き始めている。
獅子泪越しに見える魔ジュウ達は怒りの形相で警戒しながらもジリジリとこちらに向かってきている。
「一つ聞く。お前さんの銃でぶっ倒せるのか?」
「あ、無理。あんまり敵が近いと緊張してぶっぱなせない」
「そういうの早く言ってくれるかなあ!」
幽弁は叫びながら累の手を引き駆け出す。
(どうする? どうすればこの窮地を脱出できる?)
幽弁は走りながら思考を続ける。累はじっと幽弁の目を見て意を決したように口を開く。
「ねえ、なんか。花嫁を攫うアレみたいじゃない?」
「今言う事かなあ!?」
そんなやりとりさえもさせるものかと魔ジュウ達が幽弁達に迫る。
ちらりと幽弁が後ろを見ると魔ジュウ達は二人に向けて一斉に銃を向ける。
その瞬間、累が片手で銃を放ち、一体の魔ジュウの足を撃ち抜き転ばし、将棋倒しにさせる。
「おお、やるじゃねえか!」
「ほぼ偶然。でも、時間稼ぎで精一杯。ジリ貧でユウベンの体力切れで次回ユウベン死す」
「オチが見えちゃあいけねえなあ!」
幽弁は泣き言を叫びながらもゴミ箱を倒したり、自転車を蹴飛ばしたりして時間を稼ぎつつ走り続ける。そして、辿り着いた廃校の校舎の中へと逃げ込んだ。
「はあっ、はぁ、はぁ……一先ず体力回復だな……」
幽弁は息を整えながら辺りを見渡す。そこは薄暗い教室だった。
「ねえねえ、幽弁」
「ん? なんだよ?」
幽弁が累の方を振り向くと、累は頬を染めていた。
汗をかいて、息を切らした累は色っぽく艶があり、幽弁は思わずドキッとする。ぺろりと舌で舐めた唇が妙に扇情的で、幽弁は生唾を飲み込みその唇を見つめてしまう。
すると、累は顔を赤面させながらその濡れた唇を動かし、吐息混じりに幽弁に告げる。
「なんだか……学校のアレみたいだね……」
「たとえが下手すぎるっ……!」
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