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181th パイエオンとの面会

 ガコンという鈍い音とともに上昇していた部屋が停止する。

 港さんはゆっくりと扉の前に向かうと、暗号入力などを一通り行う。

 その時間おおよそ二分。

 この部屋でさえそうは入れないのに、それほどまでしないとロック解除できないのか。

 

【認証完了。ゲートをすべて開放します】


 幾重にもかさなる扉が次々と高速に開いていく。

 

「どうぞ。こちらです。ここから先は元地球圏トップでもそうは入れない場所です」

「……ミシーハ博士は来たことありますよね」

「ええ。古い知人ですからね」

「この部屋のセキュリティレベルは?」

「……ここを通過するだけで全ての盗聴、盗撮及び電子操作などは無効。体内注入型であっても無効化されます」


 それだけ聞いて奥へと黙って進んだ。

 進んだ部屋の中はドーム型で、天井はプラネタリウムのようになっている。

 港さんが部屋を明るくすると、その明るさに合わせて星々がさらにきらめいた。


 部屋の中央にあるのは巨大なコンピューターの類だ。

 現状でスタンドアローン型のコンピューターが存在しているのは珍しい。

 部屋には無数の機械があるが、人は見当たらないように思える。


「パイエオンはどちらに?」

「あのスクリーン前へお願いします」

「スクリーン? パイエオンは人では?」

「ええ。行けば分かりますよ」


 言われたとおりにスクリーン前へ立つ。

 すると……スクリーンから光が照射され、俺の体を映し出していく。


「推定、エレヴィンと星宮兎乃葉との間に生まれた子供。母の遺伝子パターンを検索……ははるか古代文明の地球より離脱し、惑星大希林に逃げ延びた古代種と酷似」

「これは……特秘事項を!? まさか、そんな」

「古の民。ようこそ。私がパイエオンです」


 正面のスクリーンに気を取られていて全く気付かなかった。

 背後に右手、左手、右足部、左足部、首部分が機械の女性が立っていたのだ。

 これが……この人がパイエオン。人と呼ぶべきか、機械と呼ぶべきか迷うほど、全身に多く機械部分が見て取れる。黒髪に黒目。確かに日本人特有のそれはある。

 外見こそ若く見えるが、声も若干の疑似音声だ。


「一体どこから」

「最初からいましたとも。でも、あなたと港以外にはまだ見えていません。私は私が認識を許可したもの以外認識されることはありません」

「……それなら、俺が来た目的であるレグアを見て欲しいんだ」

「彼女を見る前に質問があります。あなたはなぜ古代種の血を引くことを伏せられているのですか?」

「姉ちゃんから聞いていないのか?」

「姉ちゃん。ミシーハ博士のことですね。彼女とは科学者としての会話しか許されておりません。ですが、あなたが弟であることは知っています。生物学的に見て、あなたとミシーハ博士は別のもの。これも気がかりな点です」


 少し寒気がする。

 対話している相手がロボットのように感じつつ、ロボットではなしえない意思も感じる。


「悪いがあまり答えられないんだ。こっちは父さんの影響だと思う」

「エレヴィンさんは地球とは異なる環境で人型の遺伝子を組み込まれた生命体です。幾度彼と同じような生命体を作ろうとしてもすべて失敗に終わっています。おっと、そういう質問ではありませんでしたね。他にも興味を持つ質問をしたいのですが、先に彼女を見るとしましょう。信頼あって初めて対話が成立しますからね。スクリーン前へ。そちらの機械ごとどうぞ」

「ああ。よろしく頼む」



 言われた通りフラーはその場に待たせて、レグアを乗せているC4をスクリーン前に連れてきた。

 不安なのかがしっと手をつかまれた。


「大丈夫。パイエオンは敵じゃない。変なことはしないさ」

「違う。私は私が分からない。でも私が私を知るのが怖いんだと思う」


 だが、このままだと一生歩けないかもしれない。

 そうなったらもっと辛いだろうと、レグアの手を握り返した。


「推定……父、該当する系譜無し。母、古代種と推定。人型遺伝子に組み込まれたあらゆる攻撃、衝撃、電撃、熱処理を自動エネルギーとして変換する機構を確認。情報操作該当無し、バグとして検出。生命学的データ、該当無し。推測可能活動惑星……該当無し。新種として認定。驚きました。私の声が聞こえますか?」

「聞こえる。あなたがパイエオンなのね。少し私に似てる気がする」

「そうですね。私も生命学的に新種となった部類ですから。あなたはエレットさんのように人ではありません。いえ、正確にはエレットさんも人とは呼べないでしょうね。人同士の間に生まれたのが人であるならば、人類などほとんど絶滅していますから」

「そうなの。私はエレットとは違うのね」

「いいえ、同じ言葉を話す生命体は個にして同。同にして個なのです。スタンドアローンではありません。共有して情報を処理することが可能なデバイスなんですよ」

「よく分からない。私は、一緒にいたいだけ。足が動かないなら私は一緒にいられない。直して欲しい」

「代償があってもそうしたいと望みますか?」

「そうしたい。歩いて、走って、エレットの役に立てるのならそうしたいの」


 勝手に話を進められているが、代償っていうのが何なのか気になる。


「パイエオン。代償について説明してくれないか? レグアに何をするんだ」

「移植手術を行います。足が動かない理由は侵食型ナノウィルスに感染しているためです。ただ、いくら駆除しようにも先ほど話した通り、彼女の体はバグです。情報を返す時に正で返されるため、正常と変わらないと認識されます。ここへ連れてこなければ、もう数日で全身がナノウィルス作用で動けなくなっていたでしょうね」

「移植の成功率は?」

「五十、いえ六十%。ただしあなたの力を借りれば百%でしょうね。ただしあなたもリスクを負います。それと、私にもリスクがあります」

「パイエオンがリスクを?」

「ええ。しばらく私が共に同行しなければなりません。私以外に彼女を治療できるものがおりませんから」

「お願いしたい。動けなくなるのは嫌。エレットと一緒にいたい。何でもする」

「レグア……分かった。俺のリスクは受け入れよう。手術してやってくれ」

「推定……手術に掛かる時間はおおよそ二十二時間。エレット。あなたの右足をもらいます。代わりに最新の医療で作られた足を提供します。構いませんね」

「エレット。それは、ダメ」

「構わないよ。父さんならそうしろって言う。母さんも……いや、母さんならそこで断ったら引っぱたかれてただろうな。パイエオン、よろしくお願いします」

「それでは、これより不確定要素、バグ全除去及びナノウィルス完全除去における再難解手術を開始します」

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