179th 再訪の月
レグアを治療するための方法を探るため、俺とフラー、レグア、セイソーは月へと向かうことに。
駄々をこねたのは言うまでも無くニッキーだが、いい加減帰還させないとダメとのことで、パープラー隊長が引き取ってくれた。
最後までブーブー言っていたので、あの様子じゃ直ぐまた戻って来るだろう。
月まではアッシェンMに搭載された補助艦で直ぐに到着出来た。
動けないレグアをおぶって……ではない。
運んでくれる機械がちゃんとある。
「識別番号R-OBC-02-CSCC。月での歩行は可能そうか?」
「問題アリマセン。エレット様」
「呼びにくいわね。名前くらいつけてあげなさいよ」
「んーと、それじゃ……Cが四つあるからシーフォーでどうだ?」
「シーフォー。了解シマシタ」
「エレット、私以外に名前をつけたの」
「……そんな嫉妬するような言葉まで覚えたのか、はぁ……ニッキーの影響か?」
「でもいいの。私が初めてつけてくれた相手だから」
「それは違いマス、レグア様。マスターが初めて名前ヲつけたノハ、セイソーデス」
「……セイソーは機械だから」
「あんたも十分機械じみてるわよ」
「フラーのこういうのが嫉妬っていうのね」
「その通りデス。レグア様」
「フン! 別に私は呼称で呼ばれてるからいいのよ。さっさと行くわよ」
初めてレグアに会った頃から考えると、少し変わってきた気がする。
人との繋がりがレグアを変えているのか。或いはセイソーたち機械との触れ合いで変わって来たのか。
どちらにしてもレグアにとっては良いことだ。
だが、足が動かないのは心配だ。
シーフォーは小型の搬送機械でヘッツというわけじゃない。
だが人工知能は搭載されているし、様々な便利機能も搭載されている。
これは姉ちゃんが作った機械ではないが、とても優れているといえる。
このシーフォーの開発者も月にいるらしい。
月は遥か昔、ただのクレーターだらけの場所だったようだが現在はまるで違う。
月の部分部分に重力制御装置が設置され、正常な空気を産み出す装置も各種点在している。
この辺りはそもそもそこまで難しいことではなかったようだ。
それよりも地表における温度差が三百度という過酷な環境だったものを、ある学説をもとに克服してから月への移住計画がもたらされたわけだ。
この温度を維持出来なければ、一瞬にして人など住めない環境へと早変わりする。
その秘密があるのがこれから向かう予定の【パラドックスタワー】だ。
パラドックスとはそもそも、正しそうな 前提 と妥当な 推論 から受け入れ難い結論 を得られることを指すが、まさに地球の受け入れ難い惨状から産み出された遺物なのだろう。
今では月における最重要施設となっているが、大勢の研究者は日々此処へ集っているというわけだ。
地球の中心核が此処へ移行したと言っても良いだろう。
「大きいタワーね。以前降り立った月の場所と区画が違うのよね」
「ああ。月は地球の四分の一程度より少し大きい程度だ。地球を四等分して考えれば分かり易いが、月には水のある海があるわけじゃないからな」
「水のある海って? どういうことよ」
「文字通り、月の海は存在する。ただ、海という形状を示すだけで水はない。実際は入江も湖も存在するんだ」
「難しい話ね。形状は海だけど海じゃないんだ。私からしてみれば星を丸ごと住める場所にしちゃうなんて、それだけでも信じられないわよ」
「俺も凄いことだと思うけど、近くに信じられないことを平気でやり遂げる人がいるからなぁ」
「ミシーハ博士は特別過ぎるわよ。それで、どうやって入るの?」
「マテリアラーズ隊証を見せれば途中まで入れる。そこでアポを取ろう。ええっと……相手は誰だったっけ?」
「あんたね……ちゃんと覚えてなさいよね!」
「マスター。本名ではありマセン。パイエオンと呼ばれる方デス」
「そうだった。確か医療の神の名称だっけ」
「そうデス。性別年齢全テ、データ上不明デス」
「ふーん。どうせエレットのことだからまた可愛い女子と出会ちゃうんでしょうね」
「レグアが治るならどっちでもいいだろ。早く行こう」
――――【パラドックスタワー】前。
「隊証を確認シマス……照合データ一致。パープラー隊所属ナンバー0030.ヨウコソ、ミスターエレット。歓迎シマス」
「ああご苦労。後の二人も頼むよ」
「少々お待ちクダサイ……確認完了シマシタ。次ノ部屋デ荷物検査ヲオコナイマス」
パラドックスタワーのセキュリティレベルは高い。
ヘッツの工場と同等のセキュリティシステムが組み込まれている。
この中には要人も多く、一般人はまず入れない。
そして軍関係者でも火器の類は持ち込めないのだ。
身分証の確認に手荷物検査に身体状況の確認まである。
これは、突如具合が変化して暴れたり、暴徒として変貌する者が現れないとも限らないので本当に念入りだと感じられる。
更に脳波照合と滅菌処理もせねばならず、徹底ぶりは凄まじい。
「……火器データニ異常ヲ検知シマシタ。取リ調ベを行イマス」
「やれやれだ……」
なかなか進まず楽しみにして頂いている方、スミマセン!