178th レグアに異常発生
連れ帰った原住民と思われる三名は結局俺が預かることになった。
メディカルチェックを済ませ、現在は衰弱した状態から回復の兆しがみえる。
ガウスたちにも連絡を取り、今回の件を伝えると、依頼者であるレブラさんが悲しむだ
ろうとのことで、彼女には伏せることとなった。
「でもガウス。原住民かもしれない奴らは引き合わせた方がいいんじゃないか?」
「まだ原住民と決まったわけじゃないんだろ? お前、本当に平気だと思うか?」
「メディカルチェックはしたし、今のところ異常は無さそうだぞ」
「宇宙は広い。他人の皮を被る化け物だっているんだぜ坊や。惑星の件は構わないが提供
した武器は回収出来たんだろうな」
「ああ。それにあの星で採取活動を行う部隊を派遣する予定だ。ガウスも一枚噛まないか?
マテリアラーズに協力することになるけど」
「俺はご免だね。それよりその原住民かもしれん奴ってのは女なのか?」
「どうだろう。確かめたわけじゃないから何とも言えない」
「そうか……お前、危険生命体についてどの程度知識がある?」
「寄生されたり、星を食っちまうような奴がいたりとか?」
「お前みたいな地球から来た文明を駆使する突発発生型の化け物もいるな」
「待て待て。俺は化け物じゃない……ってか俺の情報知ってるのか?」
「おいおい当然だろマブダチ。俺を誰だと思ってるんだ。闇のブローカー、ガウス
が調べものもまともに出来ないと思ってやがるのか?」
「何処まで調べたんだ」
「エレヴィンのガキでミシーハ博士の弟。そして母親は今は無き惑星出身の……」
「うわあーー! 怖い怖い! 何でそんなことまで知ってるんだよ」
「少しは俺の怖さが分かったかいいんだぞ平伏せさぁ今すぐに!」
「……マブダチなんじゃなかったのかよ」
「冗談だバカめ。ひとまず話はそこまでにしておく。拾って来た奴らには気を付けることだな」
本当に怖い奴だな。敵じゃなくて良かったよ。
……母さんのこと、どうやって調べたんだろう。
「マスター。ガウス様のコト、気になりマスカ?」
「ああ。俺さ、男友達少ないから……マブダチって言われてちょっと嬉しいんだ」
「マスターはエレヴィン様の子息ですからネ。皆、比べてしまって劣等感を抱くの
デスヨ」
「うーん。父さんは有名ですごいからな……俺だって劣等感抱いちゃうよ」
「ガウス様はそういったことを気にするようナ方ではありまセン。もう少し親密な
関係を築いテモ、差支えは無いと思いマスヨ」
「そうだな……闇ブローカーっていっても、あいつは規律を持って行動しているよう
だから、どうにかマテリアラーズ……いや、うちの隊長に気に入ってもらえればいい
んだけど」
「今の隊長はマスターデスヨ?」
「そういえばそうだった……」
これから先、俺はきっとアッシェンMを用いて分隊長となるだろう。
そのための準備でもあるのが今回の目的の一つなんだろうな。
「エレット、ちょっといい?」
「ん? ああ、フラーか。どうした?」
「レグアがちょっとね……」
「何かあったのか!?」
「それが分からないのよ。足が動かないみたいで」
「直ぐ行くよ、場所は?」
「メディカルルーム二番よ。どうしたのかしら……心配だわ」
部屋まで行くと、レグアは横たわりじっとしていた。
あのレグアが何処か痛めたとは思えないんだけど。
「大丈夫かレグア」
「エレット。私、分からない」
「そーだよな。ここまでずっと分からないままついてきてくれてたんだよな」
「でも、エレットと一緒だからきっと大丈夫」
「レグアのメディカルチェックデータを参照させてくれ」
「承知しました。直ぐに投影致します」
……データを見るにどれも数値はゼロのまま。
つまり身体的機能を何一つ用いていないということだ。
だがレグアはどうみても生身の人間。
機械だとは思えない。
どういう仕組みで活動出来ているのか……それは文明で推し量れるものじゃ
ない気がする。
肉体的構造を投影してもらっているが、骨格や筋肉、神経走行、血管など
どれも人間と酷似しているが、違う箇所も存在する。
だがこれは宇宙進出した人類にもその兆候がみられており、科学的解明に
おける差異は無いに等しい。
「私も心配で見たけど、どうみても人間そのものなのよね……」
「その通りだ。だからこそ数値がゼロである理由が分からないんだ」
「エレットのも見てもいい?」
「……」
「見るわよ……ちょっと何これ。トップシークレット?」
「悪いけど、俺の身体構造は分析出来ないように父さんに改良されてるんだ」
「あんた、その年で肉体改造を……」
「仕方ないんだ。俺だけじゃない、妹や姉ちゃんもそうだ」
「そう……それほどまでにエレヴィンさんは重要な人物なのね」
「俺よりレグアの方が心配だ。どうしたらいいんだろう」
「マスター。医学博士を頼ってみまショウ」
「医学博士って、地球出身のか?」
「ハイ。現在は月にいるかと思いマス」
「分かった。こちらの作業はパープラー隊長に任せて俺たちは月に行こう」
「だったら私も行くわよ。レグアがこうなったの、私のせいだから」
「それならもう一人、仲間外れにしたら怒るお嬢様がいたな」
「アオアシラはいいの?」
「仁さんと特訓中だよ。あの兄妹、仲がいいのか悪いのか」
第三種危険生命体がいる星でなぜか足が動かなくなってしまったレグアを助けるため、俺
たちは別艦で一路月へと向かうことになったのだった。