169th ヴィンナー、再び逃走す
……参ったね、どうも。
ただの軍事訓練でいい金額を貰える予定だった。
こちらも家族を養わないとならない身でね。
出来れば楽に暮らせればそれが一番だと思うが、そうもいかないようだね。
「それにしてもあの機体……左腕に機体名が書いてある。こういうのは
伏せる方がいいと、おじさん思うんだけどねえ……推測されるからさ。
機体名Mサンディバイド。文字からしても製作者は月の関係者。ほぼ
ミシーハ博士で間違いないだろう。サンディバイド……嫌な予感しかし
ないねぇ……」
S八式に搭乗するヴィンナーは、後方に位置するAN十式を少し見る。
……こいつらじゃ荷が重すぎる。そうすると、相手に出来ても精々二分か……。
敵機体までの距離は十分にあるが、あちらは話し合いをし終えたのか、動き出した。
二機ずつに分かれており、そのうちの二機がヴィンナー目掛けて突撃を開始する。
残りの二機は、本艦へ向けて発進した。
大型戦艦もゆっくりと全身し始める。
「二対四。舐められてるねぇ!」
フッと姿を消すS八式。宇宙域ステルスを可能とした機体だが、まだ試作段階で
完全には消えたように見えない。しかし、かなり見え辛くすることに成功している。
しかし、こちらへ突撃してくる二機体は、どちらもお構いなしに突撃してくる。
遠距離での攻撃を全く考えていない様子だった。
ちょうど先ほどまでヴィンナーがいた辺りへ、機体で蹴りを入れようとするのが
一機。
……もう一機は後方のAN十式へ突撃していった。
「おいおい。おじさん相手に一機で挑むのかい。それは愚策だねえ!」
S八式の見えづらい部分から、接近してきた機体に近づき、所持している
切断型のパルスランスで、対象の腕部分を狙う。
ギィーン! という強い音と共に腕部分が外れた。
「よし、これを持ち帰るだけでも十分だろう……うん?」
すると、外れた腕部分が自動的に攻撃してきた箇所を殴りに行く。
急いで片腕部分に仕込んであるシールドでガードし、後方へ大きく押しやられた。
「……やれやれ。ディバイドってのはそういうことかい。分割され独立して
動く可動部がある……それは腕だけとは限らない、か」
「ヴィンナー! 急いでこちらの救援を……う、うわあーーーーーー!」
後方で爆発音が響く。
ちらりと見ると、既に一機が大破しており、逃げ惑う隊長機、もう一機が
目視出来た。
しかしヴィンナーもうかうかはしていられなかった。
先ほどの機体もそうだが……戦艦側から射出される攻撃が開始される。
しかも、戦艦からの砲撃はこちらだけではなく、停泊していた本艦を攻撃。
装甲を貫かれた本艦の墜落が確認され、更にあちらへ向かった二機は遠距離
攻撃仕様だったようで、戦艦と同じく遠方より別の艦を攻撃し始めていた。
急ぎ撤退している最も遠い艦隊を補足し、ヴィンナーは撤退を試みる。
「こんなところで置いて行かれたら、二度と家族に会えない。おじさんは
撤退するよ」
「ヴィンナー!? おい、待て! こちらの敵を……!」
「言ったはずだよ。おじさんは先導すると。着いてこれない君らが悪い」
しかし、こちらの動きを的確にとらえて来る接近戦に長けた奴だ。
外れた片腕の操作に慣れていなくて助かった……かな。
もし最初の攻撃で片腕を外せていなければ、沈められていた可能性もある。
「やれやれ。出来ればもう、戦いたくない機体だね。性能も十分に把握
出来なかった。果たしてサンの部分は……」
敵機体から離れたヴィンナー。振り返ると隊長機が、真っ青な炎で溶かされ
落ちていくのが見えた。
「……恐ろしい。そろそろCCの許を去らないといけないかもね」
全速力で撤退する艦に到着すると、CCの艦隊のうち一機は戦場を離脱していった。