166th ピンクの剣使い、エレットvs忍者堅甲格闘士、仁
訓練エリアで仁さんに向き合う。
ドピンクの全身衣装……それを除けば普通の見た目のはずだが、外部からは
大笑いのニッキー声が良く聞こえる。
訓練開始すれば外部の音はシャットアウトされるけど。
「それじゃ、始めよう。スリーノックダウン。バトルオン」
【訓練を開始します。初期位置の確認……完了。非訓練物の除去……
確認。開始、五秒前、四、三、二……】
このバトル開始前の状況。いつやっても、最高に高ぶる。
【バトルオン! ファイト!】
開幕、いきなり動いたのは仁さんだ! 後方に飛び跳ねながら、確認した
事がない装置をはめた左腕を前に突き出す。
「風遁、風切風芭蕉」
これは試験で見た忍術ってやつか。
範囲指定型の突風を起こす装置……か?
当然正面に放ってるからただのけん制。
左に跳躍して……「げっ。何だこの装備換装。普通の素材パーツ
なのに遅い……」
いつもブレイクネック社に慣れている俺は、装備換装が違うだけで
大分違和感を覚える。
回避は簡単だったものの、こちらの攻撃に出る手が遅れる。
「火遁、フレアサークル」
「っ! それはアオアシラの!」
火の輪が空中に幾つか舞うと、上空から火の輪が落ちて来る。
上に視点を振って本体は右回りに展開か!
「セイソー、バックダッシュだ!」
「緊急回避処置。後方十二メートル着地地点予測。踵接地しマス」
「ほう……ヘッツはそんな事も出来るのか。追撃は確実に当てられると思った」
「ああ。こういう戦い方も覚えていくといい。ちょっと装備が外れだったもんでね!
フラガラッハ展開」
新しい武器だがおおよその情報は把握した。左腕に装着した物で最初に
対象を指定。これからは自動で剣が戦ってくれる。それならこっちは
格闘に備えつつ攻撃出来るってことだ。
「火遁、フレアサークル。雷遁、雷刃歩行の術」
「なっ!?」
後方に退避したが、その位置までフレアサークルを飛ばしてくる。
それだけでも厄介なのに、信じられない加速を伴ってこちらまで
突っ込んできた!
「くっ。じゃあこの位置だ! 止まれないだろその速度!」
「っ!」
仁さんのショルダー部分の攻撃をもろに一発受けて吹き飛ばされる。
仁さんは自らが放ったフレアサークルを回避出来ず、俺に攻撃を当てた場所で
フレアサークルを食らい、後方へかなり吹き飛ばされた。
これだけ吹き飛ぶって事は、あの肩の威力、一撃で致命傷か……。
【ワンノックダウン、オール】
「一発で見破られた。なぜ止まらないと思った」
「似たような感じで槍を使った事があってね。全然止まらなかったんだ」
「面白い。まだこれから……っ!」
【ワンノックダウン、ツーノックダウン】
仁さんの後方からフラガラッハの斬撃を受けて仁さんが倒れる。
こっちは自動攻撃なんだよ、悪いね。
「土遁、土壁双応防」
再び攻撃を繰り出そうとしているフラガラッハに土で出来た壁を
今度は右肘に着いている機械で生み出した。
あれ、どうなってるんだろう。ヘッツの類じゃない。
地球の科学者? うーん。姉ちゃんにでも聞かないとわからな……。
「雷遁、雷刃歩行の術!」
「おいおい、同じ手は……」
今度はフレアサークルも無しに突っ込んでくる。
後がなく闇雲ってわけじゃない。そんなタイプには見えない。
足につけてある機械で放出された電撃を反動にしているのか?
……やっぱり! 「上だろ!」
「土遁、土壁双応防」
「何!?」
目の前まで来た所で土遁で出した壁をひっつかみ、急ブレーキ。
まだ出来上がりかけだってのに、何て起点の良さだ。
上空に飛んじまった、まずい……。
「ちっ。あの剣、何てうざさだ」
仁さんも飛ばされた!? これは殴り合うしかない!
「仁さん。まずいっす!」
こっちも殴りにいったが、仁さんの拳が先に俺へ届き、吹き飛ばされる。
空中で吹き飛ばされて追撃されたら、立て直せない。
【ツーノックダウン、オール】
【ツーノックダウン、スリーノックダウン。バトルエンド。
勝者、エレット。クールダウン後訓練を終了します】
……あれ? フラガラッハがそのまま空中に跳んだ仁さんを
追いかけてたのか。
フラガラッハの攻撃を防ぐか俺に攻撃するかを悩んだってところだろう。
この辺りは性格。
実践なら追って来る剣の致命傷を避け、相手に致命傷を負わせ
戦線を維持するのが正しいか。
……やるな、仁さん。
「負けた。ああいった便利な剣が欲しいな。
俺は格闘向きじゃない。腕のリーチが足りん」
「その辺は今後装備換装を考えていこう。
訓練ルームは余り長く使えないんだ。肉体への負担が大きいから。
戻って訓練内容を確認しよう」
「ああ……また、やってくれるか?」
「勿論。お願いしたいくらいだ」
俺たちは訓練エリアを出て、互いの良くない部分を確認したのだった。