16th グラフィティ―通信
「自動投影されマス。フラー様からのようデス」
「エレットーー、繋がった!」
「はむ……はむ……」
「なんだよフラー。別に通信しなくても近くにいるだろ?」
「えっへへー。新作限定スウィーツ買えたのよ! いいでしょ」
「よかったな。レグアも喜んで食べてるみたいだし。はむはむ食べてるけど」
「はむ……美味しい。エレットがいる。エレットも食べて」
「あ、ちょっと私が今やろうとしてたのに!」
映し出された映像からさじが飛び出し、エレットの口に突っ込まれる。
グラフィティ―システムによる自動粒子構成プログラムが作動し、味覚や触覚などを
堪能出来る。ただ、腹が膨れるわけではない。
「へぇー、美味しいな。ありがとな、レグア」
「はむ……はむ……。エレットと同じ味を楽しめるの、嬉しい」
「もーう! せっかく味見させてやって取引しようとしてたのにぃ!」
「あはは。二人とも仲良くしてるようでよかったよ。それじゃまた後で!」
通信を遮断すると、後ろからがばっと何者かに頭を撫でられた。
「わっ!? だ、だれ?」
「誰とは無いだろう。戻っているのに通信の一つも寄越さないとは」
「と、父さん? 何でここに」
「迎えに来たんだよ。エレミナが待ちきれないから早く連れ帰ってきて! ってな。
父さんをパシリに使わせるとは、我ながら大した娘を育てたものだ」
「それってただの親ばかなんじゃ……」
「んー? 何か言ったかエレット?」
「なんでもない、なんでもないよーー」
この人は俺の父親で、あらゆる格闘技を脳内メモリに構築させた戦闘の天才。
本来人間の脳におけるメモリは非常に広大であるが、複雑な動作を伴う格闘技において、あまりに
混合させると通常の人間ではパンクして機能しなくなる。しかしこの人は脳内の情報整理レベルが異常に高い。
ほぼ機械で出来ているのではと噂するものもいるが、単なる噂であり、まっとうな人間だ。
つまり……めちゃくちゃな強さを誇る上に、軍のお偉いさん。
「さて、担いでいくがいいか?」
「ちょっと待ってくれ! フラーと、もう一人仲間がいるんだ。置いていけないよ」
「もう一人? フラーちゃんはわかるが、もう新しい団員が増えたのか。こちらにはまだ
連絡がきてないぞ」
「まだ団員じゃないよ。それに今日の出来事だから。エレハ姉にはもう会ったけどさ」
「そういえばエレハから連絡があって、急いで帰ってパーティの準備をするって言ってたな。
お前のお帰りを祝うにしては随分とはしゃいでいたが、そのせいか」
「げっ……そんなに長居するつもりはないんだけど。何せレグアの入団試験を受けに
地球へ向かってたわけだし」
「まぁ一日くらいゆっくりしていけ。パープラには俺から連絡しておいてやるから。それじゃ
二人の場所まで案内頼むぞ」
「ちょ、おろして、おろしてって! さすがにこれは恥ずかしいから!」
「エレヴィン様。先ほどから通信が入っているようですがよろしいのデスカ?」
「いいのいいの。大切な息子との貴重な時間の方が大事だから。そうだセイソー。
軍からの支給部品があるんだが、一つやるからエレットに試させてくれ」
「またデスカ。怒られまスヨ?」
「ばれないばれない。それにエレットが頑張れば頑張るほど、地球も早く再建出来る。
文句なんか言わせないさ。な?」
「な? ってまたそうやって無茶な事を……俺まだマテリアラーズの下っ端だよ!? これから
頑張っていくけどさ!」
「ほい、シドー制最新素材だ。後でしっかり解析しておきな」
「これは、弾丸として使用できそうデスネ。着地と同時に冷気を発する玉を作れそうデス」
「優秀なセイソーがいてよかったなエレット。さぁ行くぞ」
結局担がれたままその場を後にするエレットだった。