158th 喜ばれるものは星次第
「おおおおーーーーー! いらっしゃいませ! 人だーーーーーー!」
「うわっ。びっくりした……」
俺と仁さんとセイソーでパン屋に入ると、とても背が小さい女性がいた。
月出身じゃない。どこの星から来たんだろう?
アクシズバリエーションのお陰もあって、宇宙は随分と縮まったけど、見た事が無い
種族に見える。言語はギンギールの言葉で聞こえたようだ。
「あの! どちらの星から? 何年振りでしょう。人型が来るなんて!
ポーピルーを食べにきたんですか?」
「ポーピルー? コッペパンじゃなくて?」
「そう! コッペパン! コッペパンっていうとこの星の方々に通じないんです!」
「ああ……言語翻訳理解が出来ない単語なんだ」
「仕方ありまセン。コッペパンのようなペとパを続けて使う言葉は難問デス」
「おい、それより武器や防具はここにはないのか?」
仁さんは本当に武器と防具にしか興味が無さそうだ。
バトルマニアってやつなのかな。
「武器と防具ですか? 材料ならありますけど、まずはポーピルを食べて
ください!」
「腹は減ってないんだよ。金も無い」
「え? お金じゃなく全部物々交換ですよ?」
「大丈夫。ちゃんと交換出来る物は持ってきたから」
ホバーに乗せてある幾つかの素材やらを見せると、とても喜んでくれた。
とはいってもそんな貴重な物じゃない。
月で購入できる安価なタオルなどの消耗品で十分らしい。
「もも、もっと無いですか? ふかふか布! ふかふか布ですよ!
これでポーピルに十個は出しますからぁ!」
「腹は減ってない。武器をくれ」
「……俺はポーピルももらおうかな。仁さんは武器防具がいいみたいだけど
素材ってどんなの?」
「うーん。森で取れる硬い木と、硬い石と、硬い鱗と……えっとえっと」
ひょいひょいとサンプルのような物を並べていく小さい店主。
木材と石材、鱗材。どれもタオルで交換は申し訳ない品物だ。
ツヤといい状態といい、とてもいい素材に思える。
マテリアラーズの素材ランクで言えば、D級品相当くらいか?
いや、正確に調べてみないとわからない。
「仁さん、どう?」
「試しに攻撃してみてもいいか?」
「ストーーップ! お店の中はやめよう仁さん。あんた火遁とか使うつもりだろ!」
「試すのだから、それくらいはしないとだろう」
危ないので外に行ってもらい、俺はコッペパンもといポーピルを口に頬張った。
……焼きたてで美味しいぞ!
「セイソー、これお土産に持って帰れないかな」
「パープラー隊長も喜ぶと思いマス。に十個程頂いていきまショウ」
「わーい! ふかふか布だったら喜んで交換するよ! さっきの木と石と鱗も
いいのかな?」
「どうだろう……あ、戻って来た。仁さんどうだった?」
「悪くない。俺の火遁でも燃えなかった。何という木だ、これは」
「ギンバークの木ですよ。いっぱい生えてるんです。でも勝手に木を切っちゃダメです。
落ちた奴じゃないと売れないんです」
「この星のルールなのかな。勿論俺たちは密猟者とかじゃないから、取引以外で勝手に
持ってったりはしないよ。鱗や石はどうだった?」
「どっちも月じゃ手に入りそうにない代物だ。交換を頼む。礼はする」
「いいよべつに。仁さんもマテリアラーズに入ったんだから俺の後輩だし。
これくらいは気にしなくてもいいよ。そのうち自分で買えるようになるだろうしね」
「悪いな」
仁さんの代わりにセイソーから布類などを渡すと、商品を受け取る。
これだけだと武器、防具の素材として不足しているかな。
「動物の牙とかは売ってない?」
「それなら、マチュマチュのマーテってお店が隣の隣にあるから行ってみてください!
ふかふか布、有難うございました!」
「こちらこそ、コッペパ……ポーピルご馳走様でした」
小さい店主は深々とお礼をすると、入り口まで見送って手を振ってくれた。
あのサイズだと、コッペパンを焼くの、大変だろうな……。