145th パルスナー先輩の警告
「ふう……遠回りになったけどようやく一部任務が終了した……疲れた……」
BOSシステムを切り、自分の体へと戻るエレット。
システム起動中は体調や栄養管理が滞りなく行われるようになっているが、長時間
利用を続けると、当然肉体への負荷は大きくなる。
「レグアたちはどこだろう……おーいセイソー」
「こちらにおりマス。マスター。お疲れ様デシタ。データより内容は確認済みデス。
面白い方とお友達になりましタネ」
「友達? ああ、ガウスの事か。あれは友達というべきなのかな」
「あちらはそう思っているのではないでショウカ。ああいう存在はとても貴重だと
思いマスヨ。末永く取引できるといいデスネ」
「まぁ飽きないとは思うけど。それよりもアンネさんの言う第三種危険生命体について
詳しい人に聞きたいんだけど、ライチェ先輩とパルスナー先輩どっちがいいと思う?」
「マスター。現地の事も含めてパルスナー先輩に聞く方がいいと思いマス。
それにライチェ先輩は現在任務で外出中デス。それと、以前話していた応援の方々が到着して
イマス」
「応援? そうか、レグアの試験で一緒だった……えーと確かレイザー? 仁? だったっけ」
「そうデスネ。それとミキサス・キャロライナさんデス。現在グリズリー様の料理を
召し上がっていると思いマス」
「わかった。俺も飯を食いに行こうと思っていたところだ。挨拶してくるか」
「お供シマス」
「こうやってセイソーと一緒に出掛けるのも久しぶりだな……レグアたちはどこだ?」
「ニッキー様と一緒にアルバを見ているはずデス」
「そっか。それなら食後顔を出すとしよう」
食事処へ赴くと、中からは何も聞こえない。本当にここで食事をしているのだろうか。
「失礼しまーす。エレット戻りましたー。グリズリー先輩、俺も飯を食っていいですか?」
「ばふっ!」
「お、シロッコじゃん。久しぶりだな。何処で何してたんだ? ……あれ、何か険悪なムード……」
室内には全部で五人……いや六人か。レイザーは小さすぎて見えないんだよな。
まず刃・青井。無言でスープを飲んでいる。音が全く聞こえない。
そしてミキサス・キャロライナ。こいつはシェラハとにらめっこしていた。
シェラハはカウントには入れていない。
そして不知火・青井。仁とは兄妹の関係のようだが、頬杖をついている。
そしてグリズリー先輩とアーニィがいる。
いや、アーニィも一応は先輩だけど年齢が下で先輩とは呼びづらい性格だ。
「エレット。もう君の方が階級は上なんだから、先輩はやめてほしいな」
「はぅ。私もそろそろ雑用抜け出さないとなぁ」
「おい。スープのお代わりをくれ」
「お兄ちゃん、はしたないよ。ちょっとは遠慮しなよ」
「なんか険悪な雰囲気だな……どうしてこうなったんだ?」
すると不知火・青井……ことアオアシラが席を立ち、俺の方へやってくる。
なんだろう、とても機嫌が悪い。
「エレットさん! どうして私だけ置いて行くんですかぁ! ずるいですよレグアさんと
ニッキーちゃんと三人で出かけちゃうなんてぇ! ずーっとシロッコちゃんをもふもふする
ことしかできなかったじゃないですかー!」
「ばう?」
「シロッコとの親交を深められたんならよかったじゃないか。それにアルバもいじれたんだろう?」
「それはそうですけど、私はエレットさんとレグアさんとも親交を深めたかったんですっ!
その間にお兄ちゃんまで来ちゃうし。はぁ……」
「別に来たくて来たわけじゃない。命令だ」
「……あんたなんかまだマシじゃない。わたーしはね、天敵がいりうところに呼ばれたのよ。
わかーる? ドゥユーアンダースタン?」
「ふん。大して役に立たないメスが一匹増えた所で変わらないのにね」
「たかがロボット風情が偉そうにいってくれるじゃなーい? 何ならもういっぺん勝負するか、あぁん?」
「こわっ……この二人は確かに合わせたらまずいやつだ……」
といってもなだめても仕方がないのでグリズリー先輩に食事をもらい、直ぐに部屋を後にした。
やっぱりレイザーだけは視認できない。
今はそれよりもパルスナー先輩だ。
どこにいるかな……。
「おうエレット。ちょっと面貸せ」
「うわっ!? パルスナー先輩? いつのまに後ろに」
「いいからこっちこい」
俺の襟をつかむと、直ぐ近くのミーティングルームへと放り込まれる。
相変わらず乱暴だな。しかしこの人は実力も相当ある。
「お前、第三種危険生命体の惑星に行くらしいな」
「あれ、もう聞いてたんですか」
「さっき聞いたばかりだ。いいか、サンプルを持ってこい。ただし
この中に詰めろ。そうしないと危険だ」
「サンプルって何のサンプルですか?」
「地表のデータに決まってるだろ。後ナノワクチンを三本注入する。
これはお前と行く予定の奴全員に打たせろ。いいな」
「それもサンプルなんじゃ……」
「当たり前だろう。お前、第三種危険生命体がいるってことはどれくらいやばい
状態かもわからんってことだ。それがナノレベルで体内に入って来る可能性も考えておけ」
「……ごもっともです。その第三種危険生命体について色々聞こうと思ったんですけど」
「俺の論文データをインストールしておいてやる。後はセイソーに任せるんだな」
「あざっす先輩! 何か土産になりそうなものがあればそれも持ってきますよ」
「それに入らねえものはいらん。あんま無茶すんなよ」
「先輩が心配してくれるとは珍しいですね……」
「ばかやろう。おめえの心配をしてるんじゃねえ。戻って来てこっちに第三種生命体が入り込んだら
ここも隔離指定惑星だろうが」
「そりゃそうか。忘れてました……ってそんな簡単に連れて戻れるような生命体なんですか?」
「その惑星にどんな危険生命体がいるかにもよるだろ。こっちからじゃ情報はとれてねえ。
だが複数の危険生命体がいるのは確かだ。それこそノミやミジンコ以下のサイズも想定できる。
寄生虫の類も考えられるからな」
「うっ……だんだん怖くなってきました」
「まぁおまえのおつむで判断するよりセイソーの判断を仰げば大丈夫だろ。
そんじゃな」
「あざっした! ふう……これで知識に関しては大丈夫か。後は……さっき
ついでにアオアシラにも聞いておけばよかったかな。いいや、まずはレグアのところへ行こう」