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142th センターマクスビルにてその三

「さて、デートはこれくらいにして、そろそろ時間ね」

「デートって……ただの荷物持ちなんですけど!?」

「あら。男はそれくらい軽く持つものでしょ」


 山のような買い物に散々振り回された挙句、荷物を全て俺に預けるアンネさん。

 このままだと邪魔になるので、買い物受領ロッカーに預ける。

 このロッカーは所定時間になるとロッカーの方から来てくれる優れモノだ。


「よし……と。それで、どうやってガウスさんに援護を?」

「はいこれ盗聴器」

「……まさか取り付けたんですか」

「そうよ。こうしないと指示だしとかもできないじゃない。あっちから助けてって

言われてもわからないし」

「それはそうですけど……それで結局店には行くんですね。これ、ばれません?」

「多分大丈夫よ。任せて」


 事前にガウスの位置を確認すると、既に席に座っている。

 喫茶店の後方、窓から外が見えるいい席だ。


「いらっしゃいませ。お二人ですか? 席へご案内を……」

「できれば窓から外が見える席がいいわ。あそこ、空いてるでしょ」

「席のご指定はできかねますが……これは。わかりました」

「随分と気前よくチップをだしたな」

「しょうがないでしょ。これは荷物持ってくれたお礼」


 ガウスの後方二番目の席に座ると、ちょうどお相手の女性が外へ来たのを確認した。

 かなり困惑した表情を浮かべているように見える。


「あれ、もう連絡したんですか?」

「ええ。たった今。遅れるから先に取引相手と食事をしていて欲しいと伝えたわ。

取引相手の席、それから写真も」

「……それで困惑した表情をしてたんですね」

「しっ……」


 やむなくといった感じでガウスの前まで行くと、一礼する美しい女性。

 以前見た時とはまるで違う女性に見える。衣装や髪型などが別人のようだ。


「まさかガウスさんが取引相手とは。してやられましたわ……」

「あの、美しいレディー。私は待ち合わせがありましてね。あなたのような

魅力的な女性のお誘いを断るのは非常に残念だが、私は熱意をもって彼女を

待っている。どうかお引き取りを」


 ちょうど届いた水を口に含み、それを盛大に俺とアンネさんが吐き出す。

 どっちもタイミングが良すぎて、周りに見られてしまった。

 店員が慌てて何か失敗したかと近づいて来る。

 まずい、ごまかさなくては! 


「大丈夫ですか、お客様」

「……すみません。彼女と二人、変顔でここの払いを決めようとしてたら、どっちも

おかしくて……」

「? そ、そうですか。お拭きしますので少々お待ちください」

「すみません。本当に」

「……あなた、なかなかやるわね。言い切り返しだったわ。こちらに気付かれてなさそう」


 ひとまずほっとしたものの、ほっとしてる場合じゃなかった。

 急いで通信機よりガウスに一報をいれるアンネさん。


「ばか! どう見てもレブラでしょ! よくみなさいよ!」

「……なんだと。私が女神の姿を見間違うはずが……」

「そうなんですの。わたくしも取引相手が遅れるとのことだったので、ここが

そうかと思ったのですが、違ったのなら失礼しますわね」

「ま、待ってくれ! いえ、待ってください。えーと、レブラさん! 

どうか麗しの……いや、俺の話を少しでも聞いていって欲しい」

「あら。何かしら。わたくしはあなたの待ちわびる彼女ではないのだけれど」


 やっぱりいい方が悪すぎてとても勘違いを引き起こしている。

 急ぎフォローを加えると、ガウスは少しずつ喋り出した。


「いえ、私が待っている彼女というのは決して俺の女というわけじゃない。

待っていたのは、レブラさんあなたなんです」

「まぁ。そうやっていつも色々な女性に声をかけてらっしゃいますわよね。

わたくしもその軽い声をかける女性の一人として認識しておりますわ」

「そうじゃないんだ。確かに俺は美しいものが好きで色々な女性に美しいと

言ってしまう。それは、美しい花や絵を見て伝える気持ちと同じ」

「あら。わたくしは花や絵画ではありませんわよ」

「わかってる。レディー……いやレブラさんは宇宙開発部門でどうしても闇のブローカーと

取引がしたい。俺はそれに協力したいだけなんだ」

「まぁ……ですがわたくしには、見返りに返せるものがありません。

あなたに払える対価だってご用意できませんわ。ですからあの時お断りをしたはずですけど」

「払える対価ならある」

「まさか、体などを要求されたりはしませんわよね」

「そんなふざけた事はしない! 俺は闇ブローカーだが、人身売買などくそくらえだと

思っている。そんなふざけた取引はしない。俺はレブラさんが笑っている顔を見ていたい。

それがあの時誓った俺の望みだ」


 こちら側でガウスの顔を見ると、びっくりするくらい真剣な顔だ。

 これはいいアドバイスだったんじゃないか? 


「あいつ、私のアドバイスを無視して凄い事いったわね……」

「あれ? 今のアドバイスしてたんじゃないんですか?」

「どうもガウスがあの女性にこだわる理由がありそうね。でも、これは効いたかもよ? 

女性ならちょっと、きゅんときちゃうもの」

「そんなもんですか」


 暫く沈黙が流れていたが、先に重い口を開けたのはレブラの方だった。


「どうやら少々謝らないといけないようですわね」

「そんな……やはり、俺では取引相手としてダメなのか」

「いいえ、ガウスさん。あなたは少し早とちりがすぎますわ。

謝るというのは、私があなたについて誤解をしていたということです。

ただの女遊びが激しい、やり手の男だと思っていました。ですがあなたのその顔。

嘘をついている人間の顔ではありませんわ。少し……あなたを信じてみようと

思います。取引、お願いしてもよいですか? こんなわたくしの笑顔でよければ

幾らでも、見て下さって結構ですから」

「ほ、本当か? それならもっと、レディー……いやレブラさんに美しく笑って

貰えるようなシチュエーションを考える!」

「ふふっ。まるで子供のように嬉しそうな顔をするんですのね。少しほっとしましたわ。

闇のブローカーとして名高いあなたからは、当然よくない話も耳にしていたのだけれど。

杞憂だったようですわね。安心したら少しお腹が空きましたわ。もう一人の

取引相手さん、今しばらくは来ないでしょうから、お食事にしましょうか」

「そ、そうだな。俺も急に腹が……メニューに本当に甘い物しかないなここは」

「あら、お嫌いかしら?」

「い、いえ。嫌いじゃないんだが甘すぎるのは少し。店員、この中でなるべく甘さ

控えめの物をさらに甘さ控えめにしてだしてくれるか?」

「畏まりました。お連れ様はいかがいたしましょうか」

「ふふっ。それでしたら私も同じものを、同じ甘さ控えめで」


 そう告げると彼女はなんと、こちらを振り返り笑って見せた。


 ……気づいていたのか。もしくは最初噴き出した時点で気付かれたか。

 だがどちらにせよ、うまくいったようだ……。

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