132th ガウスとの密談
「改めましてレディ。私はガウス・マーグレンと申します。ぜひあなた様のお名前を」
「ニッキィだよぉ!」
「いえ、子供の方ではなくあなた様のお名前を」
「もー、失礼しちゃうなぁ! ニッキィは子供じゃないの!」
「はぁ……尻尾ワンだよ。こっちはニッキィだ。それでいいだろ」
「この人、苦手」
部屋に入るなり、レットちゃんに釘付けのガウス。
この手の男になびくタイプの女性なら、さっき下にいたな。こんな場所でナンパするより
下でナンパする方がうまくいくんじゃないか?
いや、そもそも目的が違うかもしれないな。
詐欺師……の可能性も考えられる。
「それで、あんたはこちらの取引に応じるようだが」
「こほん、失礼。それより私は彼女とあなたの関係の方が気になりますが」
「おい、ふざけてる場合じゃないことくらいわかってるだろ? 本当に買う気があるのか」
「いえね。そちらの商品に関しては当然気にはなってるんですが、仕入れのルートなどを
教えてもらわないとどうもねぇ」
「ある依頼で手に入れたとだけ言っておこうか」
「依頼ね。実は先日囮で出した物が体よく奪われてしまいましてね。
ほんの一部の商品だったのですが困っているんですよ」
「ほう」
「それで、そちらの品があれば確かにうちの囮として使う商品が戻って来たように
見せかけられる。それで取引しようかと思ったのですよレディ」
「こっちを見ろ。離してるのは俺だ」
「男など見ても何も面白くないでしょう。見るならやはり美しいものに限りますから」」
「何を言ってるの。私より彼の方が美しい」
「そーだよぉ! ニッキィの方が綺麗でしょ!」
「あー、コホン。それでまずはうちの商品として使えるかどうかはっきりと確認したいのですが」
「あいにくだがじっくり触っていい代物じゃないことはわかってるだろう? それに
あんたたちが買い手にならなくても他に募れば買い手はいるだろうしな」
「これは随分と強気ですね。後ろに強いバックボーンがおあり……でしょうか。
私程強いバックボーンを持っている者はいないはずですけどねぇ……」
こいつは思ったより大物なのかもしれない。
ただの発情男かと思ったんだが……。
「ああちなみにここへあなたたちが入って来た時から監視しておりますよ。外で男を脅しましたよね。
あれは私の部下です」
「エッチ! やっぱりなんか変な視線を感じると思ったのよぉ! ニッキィをそんな目で見てたのね!」
「なるほど……あの賭博相手もあんたの関係者ってわけか」
「その通り。察しがいいですね」
「演技も大分うまかったな。あの女性にあしらわれることまで計算済みだったのか」
……あれ? 酷く落ち込んだぞ。
こいつはやっぱり単純な発情男なんじゃなかろうか。
「結論から言いましょう。彼女にプロポーズしたいと考えています。
あなたたちの取引に応じる代わりに手伝ってもらえないだろうか?」
「は? 何で俺たちがそんなことを」
「あなたたちはCCに関する情報を求めてここまで来た。違いますか?
私は確かに闇のブローカーですがね。CCは正直取引相手として相応しくない。
邪魔な存在なんですよ。ですから条件次第ではあなたたちマテリアラーズとも協力しても
いいと考えているわけです」
「……全てお見通しか。あんた一体何者だよ」
「先ほども申したでしょう。闇のブローカー、ガウス・マーグレン。
こう見えても有名なんですよ。ですからお嬢さん、いえ、尻尾ワンさん。ぜひともディナーをご一緒に」
「嫌」
「あっさりと振られたぁ! うける! 写真とっていーい?」
「……それで、さっきの女性とはどんな取引を持ち掛けてたんだ?」
「彼女は惑星シドー宇宙開発部門のレブラ。美しくスタイルもいい。そして上品で思いやりに溢れ
そして! ……最高の取引相手になる予定なんだ。主に惑星探査用の武器提供者としてね」
「それは合法のものじゃないってことか?」
「いいや合法のものだが、この星では粗悪品を高値で売りつけて癒着しているがゆえに、武器部門に
おいて大きく後れを取っている。我々がどれだけ苦労していい武器を手に入れようとも、無能な役人共が
自らの利益を追従するため粗悪品を惑星探査部門に流しているのだ!」
「あ、それ聞いた事があるよぉ。だから惑星シドーはいつまでたっても他の星に遅れるんだーって
話題になってるよねぇ。直らないけどぉ」
「その通り! だからこそこういった闇取引市場が必要なのだ。しかしどういうわけか彼女は
心を閉ざしたままだ」
「どういうわけって……あんたがナンパしかしないからじゃないか?」
「そんなことはない。彼女が心を開いてくれれば、私の大いなる武器庫も開くはずだ!」
「根本的に色々間違えてるが……それで、核はどうするつもりだったんだ」
「融合核は当然CCに要求されている。こちらは宇宙開発用探査機に用いるものだ。
そもそも奴らに売る予定などないが、例の役人共があるビルにおける権利書をCCに売ろうとしていた。
それを未然に防いだのは君たちじゃないですか?」
「ああ。確かにそうだ。その時の犯人は捕まえている。俺たちはここに大本の組織的犯人がいると
聞いてきたんだが……あんたじゃなさそうだな」
「……カルビオだ。いいか、ここからは俺にもリスクがある。絶対彼女の件は引き受けてもらうぞ。
身をかがめろ……丈が短いな……」
「どこみてんだバカ! 少し頭から女性を切り離せ!」
「いやすまない。癖のようなものだ。見えなかったから安心してくれ。カルビオってやつは
ここ一年位で勢力を伸ばした商人だ。突然出てきた奴でハブりがいいんで調べていたところだが、やばい
ブツに手を出して稼いでるってのがわかってな。俺たちは表に出ない商売をやってるが、サテライトで
焼かれるのはご免だからな。法に触れるものに関しちゃ直接取引はしない。あんたがもしマテリアラーズじゃなく、そいつを普通に売ろうとして持ってきたとしても取引相手なら紹介できたが、俺たちが
直接取引には応じない」
「それじゃ取引してるやつらは知ってるってことぉ?」
「ああ。仲介しかしないけどな、お嬢さん」
「つまり顔が利くってことか。そいつらを取り締まったらまずいのか?」
「おいおい顧客情報を横流ししたら信用がた落ちだ。そんな真似は出来ない。
それにさっきも言ったがCCのような奴らの取引には応じないと言っただろう。
この星の民間人が大量虐殺でもされてみろ。商売あがったりだよ」
「それもそうだな……」
「だがさっきも言ったように仲介は可能だ。CC、それからカルビオどちらも仲介してやる。
その代わり……報酬はレブラとデートをこじつけることだ。何としてもデートまでもっていけるよう
協力しろ!」
「わかったけど、相手側は結婚とかしてないのぉ? 凄く美人だったけど」
「していない。彼氏もいない。身長百六十三センチ、体重四十八キロ、スリーサイズは上から……」
「おいやめろ。通報するぞ」
「変態ストーカーだよぉ!」
「この人、苦手」
あ、酷く落ち込んだ。
仕方ない、そりゃどうみてもストーカー行為だ。
まずまともな対応ができるよう教育を施す必要があるな……相手は闇ブローカーなのに。
「協力はするが、こちらの言う事もしっかり聞いてもらうぞ、いいな?」
「わかった。彼女とデートが出来るなら、甘んじて引き受けてやる」