12th ぎゅうぎゅう詰めの出発
結局後部座席で密着する二人。前の座席はセイソーとルシールと俺がいる。
「どのくらいこの姿勢でいればいいの」
「ちょっと、動かないでよ! 服が破れるでしょ!」
「そんなにかからないと思うけど、こっちもいっぱいなんだ。我慢してくれ」
「こっち見ないでよ! ルシール、どうにかならないの?」
「ボロ。どうにもなりません。前側座席もいっぱいです」
「セイソー、発射準備」
「まもなく完了しマス。カウント十、九、八、七、六、五、四、三、二、一……七番シャトル
ライノバート発進シマス」
七番ゲートが開き勢いよく射出されるライノバート。勢いよく飛んだので後部座席の
女子二人は抱き合う形になる。
「ふんむむむ……ぷはっ。ちょちょ、ちょっと何であんたとキスしなきゃいけないのよー!」
「キス。初めてした」
「何やってんだ二人とも! 定員オーバーなんだ。もっと揺れるぞ!」
「私、前に行く。あなたとキスはしたくない」
「ちょ、ちょっと何勝手なことしてるのよ!」
「ルシールとセイソー。交代」
「困りマシタ。やはり七番シャトルで航行は厳しいカト」
「ボロ。こっちへ来るのは困難、困難、困難……」
「わわ、レグア! おとなしくしててくれ」
「無理。耐えられない。こっちの方が広いからずるい」
「っていっても操作が! あ、それ押しちゃ……」
エレットの正面にあるボタンを押してしまうレグア。緊急回避ボタンであり、一気に急上昇する。
「イデッ、レグア、肘が刺さってる!」
「軟質化……これでどう」
「あれ、柔らかくなった。へぇー、凄いな。どこでも柔らかくできるの?」
「わからない。試したことがない」
「ななな、何してるのよ前で! あんたたち! 不潔よ!」
「え? ちゃんと風呂は入ってるぞ」
「そういう意味じゃない! もういい知らない! ふん!」
「あれ、レグアが軟質化したおかげでだいぶ前側座席、楽になったな。これが正解だったのかも。
セイソー、大気圏突入準備」
「フィールドコーティング展開。上昇を開始シマス」
「ルシール。室内浮力阻害」
「ボロ。室内浮力阻害装置発動します。ついでにフローラルな香りも展開しておきました」
「なんだその機能!? そんなの取り付けたのか!?」
「当たり前じゃない。あたしは女よ?」
「スンスン。本当、いい香りがする」
香りを嗅ぎながらエレットたちは大気圏を抜け、惑星アルバメデスを離脱する。
エレットに抱えられる形でレグアは宇宙を眺め見る。
「ここが宇宙なのね。黒い。凄く」
「黒く見えるのは光が宇宙域全体に届かないほど広大だからよ。膨張し続けてるからこそ、いつまで
経っても光が届かず真っ暗なの。膨張を止める手段ができたら、宇宙も少しは明るくなるわね」
「フラーは物知りなのね。私には想像もつかない」
「べ、別にあんたのために教えたんじゃないわよ」
「セイソー。経路確定までどのくらいだ?」
「五分程お待ちクダサイ」
「五分!? ちょっと、なんであんたのセイソー、そんなに早く処理できるのよ!」
「だからセイソーは優秀だって言っただろ。演算プログラムでセイソーを超えるヘッツは無いぜ」
「セイソーはフラーよりもっと凄いのね」
「なな、何か負けた気分だわ……」
「それより二人とも。経路確定したら一気に飛ぶから、舌を噛むなよ」
「ふん。もう慣れっこよ。せいぜい慣れてないレグアは気を付けることね」
「フラー、やっと名前を呼んでくれた」
「よかったなレグア。フラーは怒りっぽいけど、いいやつだぞ」
「な、ななな、何よ! フン!」
真っ赤になってそっぽを向くフラー。レグアは宇宙をじっと眺めていた。
少しだけ見覚えのある光景に見えた。