119th さらわれた!?
子供がフェイクと気付いた紫電。
それはマテリアラーズに入隊する前に受けた厳しい父からの訓練によるものだった。
「どうしてあの男が盗聴器で嘘ついてるって気づいたの?」
「犯罪者ってのはどれも狡猾で自分の利益を優先する奴ばかりなんだ。
あいつらが取り分を話していた時に、取り分の半分を要求しただろ?
その時点で裏切るつもりがあったんだと判断した。
あの男はそもそも最初から一人でやるつもりだった。にもかかわらず仲間を受け入れた。
そこから矛盾は発生してたんだ」
「つまり最初から疑っていたのね」
「ああ。恐らくはだが、あの裏切られた男と女も仲間ってわけじゃない。
男の方は女に取り分を多く譲り納得させていたが……上手くいっていたら
どちらも裏切っていた可能性はある」
「その割に随分とあっさりあの男の罠にはまってたね」
「それなんだけど……これは多分だが、あの二人の狙いは他にあるんじゃないかな」
「え?」
「あの子供に偽装されたものがあった部屋って、他にも色々置いてあっただろ。
つまり危ない仕事の方じゃなくて、売れそうな物を拾い集めて売りさばいたり、取引の証拠を
つかんで通報し、金を頂くっていう方の仕事を受けてるんじゃないかな。
男の方は口数が少ないからわからなかったけど、あの女はどちらかというとペテン師や
詐欺師の類に思えた。つまり……」
「仕事が上手くいけばそれはそれでよくて、途中で失敗しても美味しいところをとる。
そんなところ?」
「推測だけどね……よし、ここまでくれば安全かな」
俺たちはマンホールを抜け、足取りがつかないよう付近の公園の茂みから隠れつつ移動した。
「紫電、ストーーップ!」
「わわっ。どうしたニッキィ」
「あれ……見て」
「うん? あの黒ずくめのやつがどうかしたのか?」
「あれ、やばい商会のやつだよ。悪徳カンパニーで有名なの。何て言ったっけ……ボコボコ?
デコボコ? カンパニーだったかなぁ」
「そんなあからさまに失敗しそうな社名、あるか?」
「うーん。何だっけ……」
「ボコボコにしていいの」
「ダメダメレットちゃん。落ち着いて。にしてもこんな公園近くで何してるんだ?」
「それ、受け取る用じゃない?」
「ああ……ここで引き渡しだったのか、これ。こんな危ない物を公園で……?」
「どうなんだろう? 危ないからこそ危なく無さそうな場所で取引するとか?」
確かにニッキィの言う事も一理あるけど、本当にそうだろうか?
もしこれが、偽物の核だったとしたら……。
いや、どのみち情報通りではあるはずだ。
考えてもわからないし、一度ジェフさんにもっていってみなければ。
「あ……れ。あれって、ジェフさん? まさか」
「捕まっちゃったの??」
後ろを縛られて車に乗せられるジェフさん。
なぜだ……いや待てよ。あの男に貼った盗聴器なんかはジェフさんに提供してもらったやつだ。
そこから足がついた可能性はある。
これはまずいことになったな……。
ここで車を追うのは危険すぎる。
俺たちが取りましたと言っているのと同じだ。
「二人とも。ジェフさんの酒場に行ってみよう。
中に入る役目は俺が。ニッキィは核をしかるべき安全な場所へ配置してくれ」
「でも、もしかしたら取引にそれをよこせって言うかもしれないよね?
安全なとこにやっちゃったらもう取り戻せないんじゃない?」
「大丈夫だ。俺はマテリアラーズだぞ? それにアルバメデスには誰がいると思ってるんだ」
「あーー! ミシー……」
「しっ。それ以上は禁句だぞ」
「もご……ペロペロ」
「おい! ペロペロするんじゃない!」
「えっへへー。わかってるよ! ニッキィだってばかじゃないもん!」
「作戦は決まったのね。まずはどうしたらいいの」
「まずは……」
俺たちはさらわれたジェフさんを取り戻すべく行動を開始する。
思ったより困難な任務になってしまったな……。