116th ある男の足取り その二
ようやく目的地に着いた。
やっぱ他の奴がいると仕事がスムーズに進まねえな。
とはいえ今回のはブツがやべえ。
一人でやってシクったら、それでこそ終わりだ。
「にしても、人が多いな」
「建国祭ってわけでもないのに、よくやるわね」
「……ここは割といつでもそうだ。本当にここなのか?」
「間違いねえ。あの銅像の下だな」
「冗談でしょう? 見つけてくださいって言ってるようなものじゃないの」
「……そうだ。あの銅像から地下にでも行こうものなら直ぐにでも見つかるだろう」
「そうだろうな」
「はぁ? あんたやる気あるの?」
「うるっせえな。ごちゃごちゃいうなら置いてくぞ」
「別にごちゃごちゃ言いたくていってるんじゃないんだけど? あんたが説明不足なんでしょ」
「ちっ。うるせえ女だな。あそこでバヌ焼きを買うぞ」
「ちょっと。ふざけるのもいい加減に……」
「いいか。バヌってのは認識阻害効果のある食い物でな。これは別に知ってても知らなくても
どうでもいい話だ。特に関係ねえことだからな。
あれを大量に食うと一時的にだが、他者から関心を持たれなくなる。空気みてえな存在になる
効果があんだよ。それでここを指定場所にしてるんだろ。あそこでバヌを売ってる親父も協力者でも
なんでもねえ」
「じゃあなぜあそこで? たまたまにしては出来過ぎてるわね」
「ここの出店は抽選だからな。うまく操作してるんだろうよ」
「……足がつかない方法を上手く考えたものね」
「ああ。あのおかしなカップルが買い終わったら俺たちも並ぶぞ」
「わかったわ」
若いカップルらしい二人組が大量に買い終わるのを待ち、列ができている後ろに並ぶ。
「……腹が減ってない」
「無理やり食え。一人八個だ」
「私もダイエット中なんだけどね……」
「じゃあ仕事はここまでだ。おめえらは帰っていいぞ」
「わかったわよ! それで、食べ終わったらどうしたらいいの?」
「少し経ってから銅像の裏手に回れ。その銅像のケツを蹴りあげると、下の床が抜けて下に落ちる。
落ちた穴は直ぐ塞がるから一人ずつだな」
「ばれる要素はないの? たまたま見てるやつがいるとか」
「言っただろ。認識されねえんだよ。それがバヌって生物が生きていくために編み出した成分って話だ。
つまり突然目の前で人が消えても気付かねえ。可能性があるとしたらカメラなどの撮影物だが、確かにこの
広場にカメラはあるが、銅像に対しては映像を向けてねえ。全て屋台方面に向いてる」
「どうして?」
「銅像の正面がカメラなんだよ」
「そういうこと……つまりバヌ焼きを買うところだけは取られてる可能性があるってことね」
「そういうことだ。おかしな真似するんじゃねえぞ」
「……ああ。問題ない。バヌ焼き八個くれ」
「私も」
「俺もだ」
「おいおいおい、随分と飛ぶように売れる日だな。待ってろ、直ぐ焼いてやる。
ええと手前のおっさんは銀貨三枚、怖そうなお嬢さんは銀貨二枚、後ろのやつは銀貨五枚ってとこだな」
「はぁ? 何で値段が違うのよ」
「なんだおめえさん。この広場の決まり事も知らんのかい? 気に入った客には安く。
気に入らん客には高く売りつけていいことになってるんだ。文句があるなら帰った帰った」
「は、払うわよ!」
「おめえはまだいいだろ……冗談じゃねえぞ、何で俺が一番高いんだよ」
「あんたのその人相じゃねえ……」
「くそ! 焼いてくれ……」
男は黙って銀貨五枚を差し出すと、荒々しく受け取り、近くのベンチへと座り込んだ。