111th ぼやき声
少し明かりがついている方面へ向かうと、僅かに動く人の気配がした。
建物影に隠れて様子を伺う。廃ビル内部にいるのか、或いは外なのかはこの位置からだとわからない。
「ねぇねぇ、まどろっこしいからびゃーっとやって倒しちゃおうよぉ」
「ダメだって。偵察なんだから。どうだ、相手の会話聞こえるか?」
「全然聞こえないよぉ?」
「聞こえる。何か煙の出る者を吸ってる。その後小便に行くってぼやいてるけど
小便って何」
「……女の子の口から何てこと言わせてるわけ? 紫電の変態」
「俺のせいなのか!? レットちゃん。話してる内容をそのまま伝えてくれ」
レットちゃんが喋り方は全然違うが無線を通して内容を教えてくれる。
よくみると廃ビルの三階付近まで到達している。いつのまにあんな高さに登ったんだ。
物音一つしなかったぞ。それにあの位置から音が拾えるのか……。
「やってらんねえな。はー、さっさと仕事終えて帰りてぇってのにくそが。
いつも金ちらつかせてヘコヘコさせやがって。借金さえなけりゃこんな仕事……はぁ……そろそろ
戻るか。まったくヨエンカンパニー程度が随分とやべえ仕事に手をだしたもんだぜ……」
「おめえもそう思うか。しかももっとやばいブツも扱い始めたってよ。みつかりゃ即死刑案件らしいぜ」
「そんなもの俺らだって運ぶわけねえってのに、どうするつもりだ?」
「CC後ろ盾のステルス艦に詰め込むらしい。報酬は無事終われば二千レギオン金貨だってよ」
「二千? 二千か……そいつはいいな……だが金の受け渡し方法は?」
「そんなやべえ案件、手渡しだろ。現金一括二千金貨ってのは魅力的だが、それだけやべえんだろうな」
「だが上手くいきゃ二千枚もの金貨か……それだけありゃ借金返して遊んでくらせるな」
「おめえやるつもりか?」
「今のせこい仕事で便所飯すするより一発にかけてえじゃねえか。もうこのくだらねえ商売にも
疲れたんだよ。どうせみつかりゃ豚箱で生涯暮らすんだろ。それなら死刑と変わらねえじゃねえか」
「そりゃそうだがよ。相当やべえ代物らしいぞ」
「なあに運べればいいんだろ。その依頼何処で受けるんだ?」
「七十二番倉庫に登録証がある。誰も持ってかねえから余ってるんじゃねえかな」
「んだよはずれの倉庫じゃねえか。面倒だな……さ、そんじゃそろそろ漏れそうだ。俺は先行くぜ」
「俺はもう少ししたら飯食いにふけるからよ。またな」
以上がレットちゃんから伝えられた会話内容だった。
その危険なブツって言うのは核燃料の事だろうか。
はずれの七十二番倉庫か……この廃ビルの周りには確かに無数の倉庫がある。
隠れるのにもってこいと思ってはいたが、確かに番号が書いてあるな。
ここが五番って書いてあるから五番倉庫か?
「レットちゃん。その男の跡、見つからないようにつけられるか? 俺とニッキィで七十二番倉庫を
探してみる」
「大丈夫。後を追ってみる」
「あのー、後くれぐれも男が小便をするところは見ないように」
「どうして」
「危険だからだ」
「わかった。後をつけて話を覚えておくだけにするね」
「よし、行くぞ」
レットちゃんに男の尾行を任せ、俺とニッキィは急いでその場を離れる。
ここが五番だとすると全く見当違いの方向だ。
あの男も面倒くさいと言っていた。それなら、位置的に言えば真反対の方角だろう。
この廃ビルは敷地がかなりある。
見つからないように行動しないと。