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get back  作者: 関口
4/6

第4話

「んん、目が覚めたかね?」

「…あれ?今ってどの辺ですか?」

「ふっふ。あと少しで着く。楽しくなってきたぞ」

隣に座っている男はなんだか上機嫌そうに見える。

電車に乗ってから急に眠くなってうとうとしている間に、乗っている電車は自分と例の男以外に誰もいなくなっていた。


-----

土曜、17時過ぎ。

昨晩からどうにも気になってしまい、駅前に来ていた。ざっと見まわした感じこの前の変な男はいないようだ。安堵に少しの落胆が加わり、どことなく後味の悪い感覚に包まれる。

「おや、おやおや」不意に後ろから声がした。

「来てくれたか、良かった良かった」

振り返ると先日の男が立っていた。麦わら帽子にサングラス、白いTシャツにハート型のネックレスを付け、真緑の短パンを履いている。そしてハイヒールを履いている。相変わらず目立つ格好をしているのに特に視線を集めている気配がないのが不思議だ。あと足の毛が濃い。

真っ先に聞こうと思っていたことを尋ねる。

「あの、すいません、この前遊ぶって言ってましたけど何して遊ぶんですか?なんと言うか、怪しい感じだったら帰ろうと思ってるんですけど…」

「なんてことはないさ、今の君が忘れているような遊びだよ。そして、思い出すのだよ」男が微笑を浮かべながら答える。

「思い出すって、何を…?」

「ときに君は、最近よく同じ夢を見るのではないかい?」

質問には答えてくれず、代わりにどきりとするようなことを言われてしまった。

「え、なんでそれを…」思わず声が出る。

「やはりそうであろう。今日私についてくれば、おそらくその夢はもう見なくなる」

「………」状況に追いつけず、言葉に詰まる。さっぱりわからない。

「えーと、僕がよく見る夢とこの後の遊びに何の関係が…」

「それは来てみればわかることだよ」依然として微笑を浮かべながら男は答える。

恰好や物言いこそ変なのだが、不思議とこの男に怪しさを感じなくなってきている。

「さて、長居は無用。そろそろ行くとするかね」

「あの、何時くらいまで遊ぶんですか?」

「ん?あーそうか、とくに言っていなかったねえ」

時間どころか何一つ言ってない気がしたが、状況を処理しきれておらず声にはならない。

「君は明日予定はあるかね?」

「日曜ですか?特にないですけ…」

「うむ。であれば何も問題はない。大丈夫だ」男がそう言うのと同時に、背後からふわっと風が吹き始める。

「では、行こうではないか!」

今までで一番大きな声で男がそう言った。追い風が一層強まった気がした。

脳はすっかり処理することをあきらめたようで、「わかりました」と呟くことしかしてくれなかった。

男が改札に入ったのでついて行く。奇怪な格好をしているが、相変わらず周りの人は誰もこの男に注意を払っている様子がない。

「電車で行くんですか?」

「そうとも。電車で1本なのだよ。」

「なるほど…」

男はどのホームに行くか少し悩んでから、ぼそっと「こっちであるな」と言いホームに向かっていった。

土曜夕方のホームは平日ほどではないが人が多く、ごみごみとしていた。ほどなくして電車が到着した。

-----


そして、今に至る。

乗客がいないという衝撃的な状況を前にして、一度処理落ちした脳が再起動する。

どれくらいうとうとしていたのだろう。感覚的には10-20分くらいだった気がする。乗った電車の終着駅までは1時間以上かかる距離のはずだから、終着駅より先まで寝過ごしたとは考えにくい。それと、電車は何やら見覚えのないトンネルを進んでいる。目が覚めて徐々に意識がはっきりするにつれ不安が強まり、とりあえず疑問を吐き出してみることにした。

「あの、他のお客さんがいないんですけど、この電車は今どこを走っているんですか?僕って結構長い間寝てましたか?もしかして車庫とかに…」

「まあまあ、慌てるでない。おかしなことにはならないし、君にとって悪いことはこの後絶対に起こらないから、安心してよいぞ。むっふっ」

相変わらず何も説明してくれないが不思議な説得力があり、それだけで安心できるトーンだった。

少し安心したら再び睡魔に襲われ、またしてもうとうとしてしまった。


「……い、…たぞ……おーい、着いたぞ」

男に声を掛けられて目を覚ますと、そこは山間の小さな駅だった。周りにはセミの声がけたたましく響き渡り、生い茂っている木々からは無数の木漏れ日が地面に注がれていた。

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