第1話
初めて小説を書きました。
ゆるやかな物語を目指しました。
よろしくお願いします。
午前7時。目覚まし時計のアラームで目を覚ます、いつも通りの朝。
カーテンを開けると、嫌味と言わんばかりに日差しが差し込んでくる。2度のスヌーズを挟んだ後にベッドを抜け出し、洗面台に向かう。最近流行りの邦楽を口ずさみながら手短に洗顔と歯磨きを済ませる。
7時20分。完全栄養食のパンを段ボールからゴソゴソと取り出し、牛乳で流し込む。気分によってテレビをつけたりもするが、今日は気が乗らずつけなかった。どうせつけても内容を覚えているほどじっくりとは見ないのだが。代わりになんとなくSNSを見ながら食事を終え、今日は何時頃帰れるだろうか、などと考えながら牛乳を飲み干したコップを洗う。出勤する前から帰宅することを考えている日は決まって帰りが遅い。そんなことが頭をよぎり、憂鬱になる。ここで憂鬱になるまでが一連の流れになってきている。
7時45分。Yシャツにスラックスの恰好で家を出る。クールビズなのでネクタイはしていないが、夏の暑さの前ではあまり効果をあげているとは思えない。ニュースアプリを見たりSNSを見たりしながら満員電車を耐え忍ぶ。入社して初めて通勤をした日なんかは周りに押しつぶされながらも窓の外を眺め、住宅街、商業施設、怪しげな看板、途中で渡る大きな川、遠くの方に見える高速道路といった景色の移ろいを楽しんだものだが、3年経った今となっては1秒も外を眺めなくなっていた。
午前9時。今日も仕事が始まった。朝のチームミーティングを行い、その日のやることをグループ長に伝える。
「水谷君、急に振っちゃって申し訳ないんだけど、こっちの企画書仕上げてくれない?今日大野さん体調不良で休みらしくて。手が空いてそうなの、水谷君くらいだからさ。」
「…わかりました。いつまでに仕上げればいいですか?」
「できれば今日中にお願いできるかな?」
「承知しました。」
はあ。これで今日も残業確定だ。言わんこっちゃない。
大野さんは2年目の女性社員で、昨年度はメンターをしていたこともあってそれなりに話している方だ。それもあって時々彼女の仕事を巻き取っているので、グループ長も頼みやすいのだろう。
はあ。もう一度深くため息をついてから、作業に取り掛かった。
午後8時。大野さんが作る予定だった企画書を完成させ、グループ長にチェックをしてもらう。
「あー、ここちょっと細かすぎるよ。お客さんが知りたいこと以外は情報をコンパクトにしないと。あと全体的にもっと図を増やしてもらえる?これだと伝わりにくいと思うから。」
「はい」
「もう一回直したら見せて」
「承知しました。」
やれやれ。
一瞬ムッとしたが、面倒だなという気持ちがすぐに勝り、身体全体を包む倦怠感とともに企画書を修正した。
結局グループ長のOKが出たのは21時過ぎだった。
「大野さんの方が企画書作るの向いてるかもなあ」
とぼやかれた時は思わず言い返したくなったが、早く帰りたかったので適当に愛想笑いした。
退勤してそこそこ混んでいる帰りの電車に乗る。ここ1年くらいは帰りの電車で小説を読むのが密かな楽しみになっているのだが、今日は疲れてしまい立ちながらうとうとしていたら最寄り駅についてしまった。
10時30分。夜飯のコンビニ弁当を買ってから帰宅した。なんとなくテレビをつけ、バラエティー番組を流す。一人暮らしの夜にはバラエティーのガヤガヤ感がありがたくて、報道番組やドラマなんかより好んでつけることが多い。
弁当を食べ終わり、完全に日課になっているソシャゲのガチャを回す。楽しいのかと言われると返答に詰まるのだが、ほかにやることも思いつかないので起動している。今日はちょっと欲しかったレアキャラが手に入り、残業の甲斐もあったかな…と報われたような気になった。
0時30分。明日以降も続く仕事に暗い思いを馳せながら眠りについた。