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八 〜足撃ち〜


 ムッシュムラムラ〜! えっ違う? 昔、お父ちゃんが気合い入れる時はこれ! って。まあ私のお父ちゃんの事は置いといて。


 この鬼さん娘さんがいるのに、いや? いるからこそなのかな、興奮しちゃって周りが見えてないから。目が覚めるような一発を叩き込んじゃろかい。そう思うわけですよ。


「やれるならなってみな」


 冷たい声色で鬼さんから、威嚇。ささっと終わらせるなんてタンカ切られたら熱くなるよね? 案の定というか、真っ直ぐに突っ込んできた。心情を叩きつけるかのような、火が出そうな勢いの拳の連撃。切れ目もなく止めどなく放たれてくる。掠るだけでも私には致命傷なのは明らかだけど。


「当たりませんね?」


 避けるひたすら避ける。そして敢えて煽る。怒りで動きがもっと雑になれば、一撃で決めれる技が入る。


「くそがっ! 捉えきれねぇ!」


 大体ね、誰かが死ぬって事があるかもしれないって可能性をよ? 自分で都合よく捉えて、そんな事にはならないっ! ってコントロール出来ると思ってるとこがもう、ホントダメ。


 大体上手く行かないのよ、そういうのって。八割だろうが二割だろうが、自分以外の人がサイコロ降る要素あるんだから、それはただの運任せって言うヤツだよ。


 連打が止まった……諦めた? いや、何か気を練ってる、攻めを変えてくるつもりね。呼吸を整えてる。何がくるのやら。


「これならどうだっ……!」


 げっ……失礼、思わず。だってそんな技が有るとは。頭の二本角がいつの間にか、より凶悪なフォルム、捩れまで加わって、首痛くなりそうね、そのサイズ。うわぁ、ミチミチ音立てながら身体も大きくなってる。筋肉の隆起ってとっても威圧感。


 折角の凛々しいお顔が鬼面の如く。猛獣が飛び掛かるような姿勢で地面掴んでとくれば……そこからはやっぱり体当たりよね!


 さっきのとは文字通り桁違い、見切って紙一重なんて、カッコつけて掠ったりしたら事故るわね。こりゃ。


 でも、内功上手い人なら、恐怖心さえ抑え込めたら勝てちゃうレベルではあるかな。まあ、突っ込んでくるトラックを上手く素手で止めて下さいって、言われて出来ないと駄目だけど。

 

 ほら、起こりが消えて無いから、どれだけ早くても避けるだけなら問題無し。横にズレてしまえば、さっきと一緒。


 避けたと同時で悪戯実施。軽く押して体勢を崩す。ほら? さっきより反動大きくて立て直せないでしょ。踏ん張って倒れこまないようにしてるその姿勢、待ってた。


「と言う訳でっ!」

 

「良子さん!!」


 何よ?! ここぞの時に声かけられても、止めらんないわよもう! ええぃままよ! 


「鳩尾アッパーァァ!!」


 今度はちゃんと見えてるのね、でもクロスガードと打ち下ろしを合わせた防御ぐらいじゃ、私の鳩尾アッパーからの決めを防げないわよ。


 そもそも鳩尾アッパーは攻撃じゃ無くて、次の一撃を()()為の、単なる目印だからね。拳を鳩尾にまで届けるだけで良い。


 技名叫んだからそっちをイメージして防御したでしょ? 引っ掛かってくれると思ってた。受け止めたつもりだろうけど、狙い通り。拳は鳩尾に触れる直前に置けた。指一本分の隙間があれば撃ち抜ける。


 もうこれは防げない。


「こっから! 本番!」


 膝で撓めたバネを力に変えて、拳に載せて引き手と足で撃つ! 藤堂無手勝流、〈流転歩〉〈壱の型〉只の正拳突きとは言わないでね!


「足撃ちィィ!!」


 足の裏に地面を捉えた感触、響く鈍い音。感触からして、腹筋は間違い無く抜いた。殺したり大怪我とかはさせたくないから、掌底で撃ったけど正解ね。


 多分拳だと力が集中し過ぎて不味い事になった手応え。


「藤堂の技……今まで使ってこねえと思ったら……」


 鉄の如き筋肉が女性らしい柔らかさまで弛緩したのが手から伝わる。漸く墜ちてくれたわね……あっ、膝から崩れ落ちた。危ないから頭打たない様に支えてっと。ゆっくり横になってね。

 


「はい、お仕事完了ー。十分どころか今日一日まともに動けないかな?」


「良子さん……」


「何よ? しゃあないじゃん、話して止まってくんないだろうし、挙句にアンタもギリギリとか聞いたらさ?」


 だから、そんな驚いた顔しないでくれる? あと、その浮いてる小道具……うわ、なにそれ、めっちゃカッコいい収納なんだけど! 滞空しながらくるくる回って、集合してから消えた! 


「いえ……相討ち覚悟かと焦りましたが、それどころか手加減の余裕まであるとは……余計な心配でしたね」


 眼から出血とか相当体の負担ありそうだし、心配だったけど……意外と元気ね。


「眼は大丈夫そうね? ならその相手方のとこに今から行くわよ」


「そう来ますか……」


 鉄は熱いうちに叩く。それ以外の選択肢はないと思うけど? あと、そのカッコ良い技のアレコレを教えてほしい。


「とりあえずそこで伸びてる、鬼さんお家に運んでから娘さんに事情聞いて、どの程度暴れるかと、落とし所を決めたらすぐ行くわよ。水嶋」


「思し召しの通り」


 喚んだら出て来る水嶋さん。影からぬるっとご登場。ところで私がこの鬼さんと闘ってる間は何してたの? ずっと障壁を張ってた? 何に対して? 鬼さんから? 後で詳しく聞くけど言い訳じゃない事を祈る。


「私のバックアップしてくれるのよね? 相手が誰か知んないけど、わたしが思いっきり暴れた後に、誰も死なずに貴方の力で事態を収める事が出来るか答えて」


「可能でございます」


「水嶋はどれぐらい大変になるの?」


「我が君のお役に立てる事に勝る事はございません。労などありましょうや」


 コイツに聞いても脳死回答しかないの忘れてた。一瞬だけ目の色変わったから、何かマズいのはマズい感じね。単純に暴れて解決、みたいな問題では無いのは分かってたけど、相当ややこしいのかしら。


「八尋」


「お聞きになられたい事は分かります、全部上手く行く方法は有ります」


 なんだ、やっぱりあるじゃん、早く言いなさいよー。


「後始末や事態収拾のフォローは基本必要有りません」


 えっ、めっちゃ楽。そんな良い方法あるなら先に言いなさいって。


「先方の頭領と戦って勝つか戦わずして勝つか出来れば解決出来ます」


 またわけわかんねぇ事言い出しましたよ、この色黒店長。何かその言い方だと戦って勝つとマズいみたいじゃない。


「鬼ヶ崎さんの場合は戦わずして勝つ方法が、ご気性から取る事が出来ないので、戦って勝つ選択肢となりますが、立場的にそれをするのはマズいのと、最悪勝てない可能性も高いので、今回取り止めて頂くように説得を続けていた訳です」


 何よ、私も戦わずして勝つのが最善ならそうするわよ。こっちを意味ありげに見ながら、説明しないで下さる?


「戦わないって何して勝つのよ? 何かゲームとかそんな奴すんの?」


「ご明察通り、双六で勝てば要求が通ります。普通の双六ではなく相手の作る結界領域の中で行われる人間双六です」


 なにそれ、めっちゃ面白そう。


「ただし……」


「ただし?」


「負けると奴隷にされます」


 わぉ、超リスキー。あっ……成程。


「それ双六自体が、はなから勝てない仕様なんじゃないの」


「その通りです。ですが、何事も抜け穴というものがあります、というよりも良子さんなら出来る手立てがあります」


 私しか出来ない事なんかあんまり無くない? またトンチの効いた事を仰る。


「人間双六ですが、止まったマスに戦闘イベントがある場合があります、その際に対戦する相手を選ぶ事が出来ます」


「何か解ったかも……」


「その際、先方の頭領を指名して戦って勝てば万事解決です。大変、良子さん好みの手段かと」


 人を暴力装置かの様に表現しないで欲しい。好みではあるけども。


「好みの手段というかシンプルなのが良いわね」


 人間双六ちょっとやってみたい。


「絶対に負けてはいけません。今回に限っては初手から全力で戦って下さい。鬼ヶ崎さんにした手加減は不要です。双六結界内であれば相手は、不滅に近い存在です。良子さんは相手の限界を見極め手加減する癖をお持ちの様ですが、遠慮は不要です」


 何の前振りか分からないフラグを立ててこないでよ。


「ゲホッ!グゥッガ!はぁはぁ……」


 うっわ……起きてきたし。どんだけ頑丈なのホント。見事なフラグ回収。まあ、そうだろうなと思わない事も無いけど。


「ご覧のように」


 コース料理を紹介するかの様に言わなくても分かるわよ。


「これじゃダメなのね? 」


「徹底的に相手を打ちのめす必要があります。魂を砕くと言う表現が一番近い表現でしょうか」


 魂を砕く……砕けんの? 


「八尋テメェ、ここまで解ってたな」


 もう回復して喋れるって。どんだけ。そんなに手加減してないのに。


「解っていましたとも、貴女が力を出し切らない事も含めて」


 やっぱりか……闘っててチグハグだったから多分そうじゃ無いかと思ってだけど。今のはどこまで行っても力比べ、殺し合いじゃないからね。


 あの角が凶悪になった後、長期戦に持ち込めば体力差で勝てた筈。他にもやりようはあったけど、単純な力押ししかしてこなかったし。止めて欲しかったって所かな。


「ちくしょう……いつか借りは返すからな」


「期待しております」


「……まず、お嬢ちゃんに謝るよ、すまなかった、見苦しいところを見せた。キラの弟子に取っていい態度じゃ無かった」


「えっと、私は今回謝らないですよ? そこまで野暮な事したくないので」


「それでいいさ。やっぱ、あいつの弟子だな、強さも、心根も」


 差し出された右手に握手っと。もうすっかり冷静なお顔で安心。


「良子さん」


 八尋? なによ突然。そのトーンで私の名前呼ぶ時、大体斜め上どころか、明後日の方向に話しが飛躍するんだけど。


「勝った後の事ですが」


 ほほぉ〜勝った後とな? 新しいわね。勝つの確定って何か褒めすぎじゃない? そんなに煽ててどうする気かね。


「良子さんは彼らの王になります」


 理解出来ない事って漢字が思い浮かばない事ってあるよね。


「奥羽?」


「地名ではありません。王、即ち国家、部族、地域の最高権力者としての王です」


 まーた訳分からん事言い出しましたよ。何で戦って勝ったら王になるのか。あっ……でも王様って、その時一番強い力持ってる奴で、勝って来た実績があるからなるのよね。訳わかんなくもないかな?


「鬼ヶ崎一族もそうですが、彼らもまた強さを尊ぶ気質と言いますか、ぶっちゃけ強けりゃ良いじゃんという方々です」


「中々楽しい人達ね」


「負けた場合は勝った相手に服従する、先程負けたら奴隷と申しましたがそれは、彼らも同じです」


「確かに勝つと王様になるわね、その感じだと」


「ですがその後に挑戦者からの申し出は断る事が出来ないのです」


 めんどくさ。


「ですので王になった後に直ぐに後継者を指名して下さい、倒した相手を指名するのが最善です」


「ちょっと覚える事が多いし合ってるか聞きたいから確認よ? 双六やって戦いのマスに入ったら相手の親玉指名して手加減無しでボコボコにして、その後王様になるけどボコボコした奴に直ぐ返す」


「完璧です」


 よし! 全部頭に入ったわよ!



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