表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/94

七ーニ 〜金壱百萬円也のニ〜


「美味しいわよ? お蕎麦」


 だから、そんなにびっくりした顔しなくて良いよ。


「聞き方を間違えてました、すぐに手伝って下さい」


「えぇ〜、全部食べてからじゃダメ?」


 まだ三枚残ってるし、アンタが派手に立てた埃からもガードしたし。こんな美味しい蕎麦を途中で放って行くなんてあり得ない。


「それはあちらで、仁王立ちされてる鬼ヶ崎さんに、お話を聞いて頂けるように、徒手空拳で打ち負かしてからにして下さい。流石に、私程度の肉体強度では勝つ事は出来ませんし、このままではあと、もう五分も持ちませんので」


 早口疲れない? 


「何で私がいきなり戦わなきゃなんないのよ、危ない事は無いんじゃ無かったの?」


 そもそも打ち負かすとか意味分かんないし。初対面の人を倒すってどんだけよ。……あっ、結構あるわ。にしても危ない事は無いなんて信用してなかったけど……。


 はぁ。ため息しか出ない。乗り掛かった船だし、やるしかないか。八尋をぶっ飛ばして、仁王立ちされてる方をチラリと確認。……お胸様もお尻様もバインバインされてらっしゃる。アマゾネスとはかくあるべしみたいな武装筋肉も搭載。


 お顔は美形というか凛々しいわー、頼り甲斐マックスなお顔立ち。服がTシャツにジーパンのせいか、色々強調が凄いわね


「今回お手伝い頂く主な内容がそれですから」


 なるほど。そりゃ詳細説明しないか。ここ行って女の人ぶん殴ってこいって、意味分かんないもんね。


 ん?


「八尋さんや」


「何でしょうか?」


「あちらの女傑の頭から、何か角のようなサムシングが、生えてらっしゃるように見えるんだけど」


 はっきりは見えないけど、何か半透明な突起が頭から主張してらっしゃいますけど。


「鬼ヶ崎さんですからね。角の一本や二本はお持ちでしょうね。……かはっ!」


 あっ、血ぃ吐いた。内臓やられてない? 口切っただけ? ハンカチあるから貸したげる。血は止まったのね、ならよし。


 ところでさ? 角が生えてる人類って見たことないんだけど。


 アマゾネスがこっち向かってきた。身長高っ。圧が凄いわね……。

 一歩近づいてくる度、空気が震えるかのような圧力、随分気を張り詰めてるわね。


「えーと、初めまして」


「なんだい、お嬢さん。怪我するよ、ちょいとそこをどいてくれないかねぇ? わたしゃ、そこの分からず屋をぶっ飛ばして、さっさと片付けなきゃ行けない用事があるんだよ」


 声もカッコ良い。気の抜けた挨拶で、力抜いてくれれば良かったけど、それは無理と。


「事情はよく分からないんだけど、一応その人、私の雇用主でして。ぶっ飛ばされるような悪事を働くタイプでも無いので出来ればそのー、矛を納めて頂く事は出来ませんかね?」


「そいつが私を止めようとする限り出来ない相談だね」


 ですよねー。


「だ、そうよ八尋? 何でわざわざ止めたりするの? 邪魔しちゃ悪いじゃない」


「その用事で誰かが死ぬかもしれないとしても?」


 おっも。重いて。出たよシリアス。


「八尋。お前、自分の子供が傷物にされたとして黙ってられんのかい? 一発ぐらい殴ったってご愛嬌だろうさ」


 ごもっともな理由がおありで……そりゃピリつく訳だ。


「娘さんがそれを望んでおられない事は、あなたが一番ご存知だ。それに一発で済ます気なんて無いでしょう?」


「……くそしょうもない理由で、うちの娘は背中と腹にでっかい傷つけられて、子供も諦めろってのにかい? あんた、とことんあたしを舐めてんねぇ?」


 八尋さーん。今のところ、超悪者ッス。首突っ込んで良い内容じゃ無いって。帰ろうよー。ほらほら火に油を注いだよー。頼り甲斐のある顔付きが今は獰猛な笑顔だもの。虎。まるで虎。


「先方からは一生掛けて償うと、〈呪約〉《じゅやく》にしても良いとまで仰ってます。今一度、貴女が動く事のリスクを考えて下さい。貴女はこれまでも、これからも鬼姫闘神ききとうじんの称号を担う方です」


 ちょっと冷静になった? 

 

「……あたしが欲しくて貰ったもんじゃないね」


「ですが、その称号のおかげで貴女は、伴侶を自分で選ぶ事が出来た」


「チッ、賢しい事だね、ホント、ムカつくよアンタ。それで説得出来るとでも?」


「貴女であれば無理も通せますし、道理も覆すことが出来る、ですが貴女は一族の象徴です。連なる氏族の方はどうなりますか? 貴女に何かあれば争いが始まる」


 鬼さんの片眉がピクリと反応。ちょっと動揺したかな?


「相手が何の立場もない方で、一人で対応されるなら貴女もきっと全てを受け入れて下さるでしょう、しかしそうでは無い」


「ごちゃごちゃ言ってる、向こうのジジイどもを全部やっちまえば、あの男も動きやすくなるし、うちの娘は好いた男と一緒になれる!」


「……やはりそれが本音でしたね、誰も死なずに事が丸く収まる可能性はあると思います、ただ上手く行かない時は……凄惨な事になります、それを見過ごす事は私には出来ない」


「じゃあどうするってんだい! ちょっと撫でただけで吹っ飛んじまうようなアンタで、アタシは止めらんないよ!」


 うっわオーラ出た! 水嶋も出してた奴じゃん。本気モードだよね。角が金属質に変化してエグい形……アフリカの投げナイフみたい。返しついてるし、刺さったら痛そう。


「良子さん。提案があります」


 ハイハイ、提案、提案。最初からそのつもりだったんでしょうに。


「即金で百万円の報酬を約束します、十分間、鬼ヶ崎さんを抑え込んで下さい。ダメージは極力最小でお願いします。その間に私は術式を組みます」


「百万……」


 いかん、また金に目がくらんだ、師匠に怒られるよ。


 取り敢えず邪念は振り払って、八尋が何かしてる間に壁になって時間稼ぎと。……そういえばさ? 危ない事は無いと伺っておりましたが? 絶対危ないよこれ。はぁ……。 


「ここで暴れるのは良くないから、一旦店の外でましょうか」


 そんなに凝視しなくても、いきなり仕掛けませんから。ほらほら距離保ちつつーはい。お店の外。はぁ……結局こういう仕事になるじゃん……でも百万……ぬぁ! 邪念よ去れっ!


 先ずえーと、何だっけ、こういう時は武術を納めてる人には先ず武人として名乗りなさいだっけ? 状況抜きにして純粋に今は闘いましょうって意思表示になるのよね、たしか。そんで相手が名乗り返せば試合成立。御作法大事。


「鬼ヶ崎さん? えーと何とお呼びして良いか、初対面で分かりませんが、藤堂無手勝流、奥伝。向井良子と申します。少々お邪魔をさせて頂きます」


 何とか流って名乗るの恥ずかしい……。


「鬼姫闘神、鬼ヶ崎咲夜。名乗りを上げた以上、手加減は出来ないよ。全力で来な! それにしても、見下げ果てた男だね八尋! こんなお嬢ちゃん、いくら藤堂流だからって、アンタでもやっていい事と悪い事があるよ! 後悔してもアタシゃ知らないよ!」


 「じゃあ遠慮なく」


 正拳。不意打ちはセオリー通り。名乗った後に余所見してたらそうなる。腹筋固める暇も無く、お腹にめり込んだから、これは痛いわよ。水嶋の時みたいなのは怖いから、徹す打ち方。出来れば速攻で終わって欲しい。


「グハァぁ!?」


 ありゃ!? 一発で倒れないじゃん。結構、力入れたわよ? ちょっとショック。徹す打ち方で倒せなかった事無いのに……やっぱりお名前とお姿通り、鬼さん。人外なのね。


 でも、私の拳筋は見切れてない。 水嶋は一応見えてたから、あいつ、やっぱりまあまあ強いでファイナルアンサー?


「何もんだオメェ!!」


 体勢が立ち直っても居ないのに、筋力だけで無理矢理放ってきた中段蹴り。人間の肉体なんか簡単に破砕するような風を切る音が耳障りな音を立てる。こんなの当たったら間違いなく死ぬからそれは勘弁。


 半歩下がって身体をかがめて避けてから、引き足に追いつく様に踏み込む。ちょっと悪戯。ほら、手掌で目線を隠されると、反射的に視界確保したくなるでしょ。見ようとしてまた体勢が崩れた……ところを、肋骨隙間狙いで貫手。


「ぐがっ!」


 貫手入ったけど倒れない。踏み込んで、もう一回正拳……ありゃ? 踏み込み強めた分、吹き飛ばせたけど、手応え軽い……後ろに飛ばれた。闘い慣れてるわね。


 はあ……金に目が眩んで請け負ったけどやっぱりダメね、なんか虚しいもの意味なく殴るの。私がなんかされたわけじゃないし。


 ……やっぱり回復早いー。もう立ち直ってバク宙起き上がりって、派手ねー。てんで効いて無いし……。


「ゲホッッ……マジで藤堂流だな。それにこの拳筋、お前、綺羅の弟子か」


 あら? 知り合い? 息が切れてるのは"フリ"誘いだろうなぁ。


「師匠の事をご存知で有れば、下の名前で呼ぶのは、おやめになられた方が」


 すっごい嫌がるのよね、下の名前で呼ばれるの。何でか知んないけど。あと、そこに居もしないのに下の名前で呼んだでしょっ、てなぜかバレるのよね。正に超能力。何でまた鬼みたいな不思議物件と知り合いなのか謎なんだけど、一回ちゃんと事情を聞いた方が良いんだろうな。


「はん! 地獄耳も相変わらずってか! アンタのこと舐めてた。あいつの弟子なら問題ない! 本気で行くから死ぬんじゃ無いよ!」


 おおーっ!またオーラ出たぁ。……練習したら出せるかな? 


 !!……っいきなり体当たりって、中々実戦に重きを置いた初手ね。でもちょっと雑。さっきまでの方が丁寧に身体を使ってたけど、これじゃ力任せで勿体ないわよ。捌きやすいし。


 その証拠にほら、避けられた後、ちょっと肩口押しただけ身体が流れちゃってる。


 幾ら早くても光の速度とか出ないからね、大きかろうが硬かろうが当たらなきゃ意味ないし。タイミングさえ分かれば避ける以前に外せる。


 そんで顎がら空き。


 派手に転がったわねー。そりゃ横からぶん殴った……割には手応え薄いわね……手打ちに近いけど急所は抜くつもりで打ったんだけど。


「アガっ! くそっ! 見た目通りじゃねぇのは最初の一発で分かったけど、こりゃそんなもんじゃねぇな……!」


 もう回復してるし、尋常じゃないわね。ダメージ極力最小っていう八尋の注文守れていいけど。


 ……ちょっと冷静になっちゃったかな? 怒りで見失ってくれてたら、いなすだけで時間切れラッキーって、やっぱ甘いか。


「……まだ本気じゃないね? 底無しかよ……綺羅とおんなじぐれぇヤベェな」


「師匠にはまだ勝てた事有りませんけどね?」


「チキショウがっ! 八尋! お前どこからこんな枠外の奴捕まえてきたんだ! それにその術式! お前、人間の身体じゃもたねぇぞ!」


 わおっ! 何それカッコ良い! アレだ何ていうやつだっけ……独鈷? 三鈷かな? 八尋の周りグルグル浮いて回ってる! しかも黒い電撃エフェクト付き!! 


「貴女が振り上げた手を下ろしてくれるのならいつでも中止しますよ? でも出来ないでしょう? だからこそ良子さんに出張って貰ったのですよ」


 「やっぱ一筋縄じゃいかねぇ野郎だ。お嬢ちゃんを舐めてたのも謝るよ。でもだ! 覚悟は決まってるんだよ!」


 


 はあ……出たわ、そのセリフは周りの人巻き込んでどうしようもなくなるパターン。


 もう早く終わらせよう。



 「八尋、身体持たないんでしょ?もうそんな無茶しちゃダメだし、ダメージ最小限とかめんどくさいし百万円もいらないから、このひと倒しちゃって良い?」


 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ