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七十七 〜遭遇〜


『アルファ2よりデルタ2』


『どうしたアルファ2? 問題か?』


『ターゲットがアイスクリームを食べながら、こちらを見ている……』


『ん? なにをいっているんだ? 指示された距離は守れているか?』


『当然だ。ターゲットとの距離千メートル。服装は黒のニットにジーンズ。今朝のブリーフィング通り……ダメだ、やはりこちらを見ている』


『信じられないな……』


『——ターゲットがこちらの方向を指でさしているっ! 身体が光りだしたっ!』


『落ち着けアルファ2! 射撃許可は出ているっ! 遮蔽物が無いなら構わんっ! 撃てっ!』


『了解っ!…………キュゥ』


『キュゥ? どうした? アルファ2? 発砲したのか? 音がおかしいぞ?』


『痴れ者ども。生きて帰れるだけ感謝せよ』


 ◇ ◇ ◇


 八尋と別れて三十分後、十名ほどの敵がアクアの警戒に引っかる。四チームに別れていた相手の位置を特定、近くにいる二チームはそれぞれ違うビルの屋上に潜んでいた。


 というわけで、水嶋を召喚。そんでデルタ2さんへ速攻で特攻。わたしはアクアを纏って一気にアルファ2さんチームへ。


 反応出来ない速度で射手の背後へ移動。お手軽頸動脈キュッと作戦を発動。発動。発動。三人の無力化完了っと。

 

 三人の内、一人が持っていたインカムを拝借したところ水嶋の声が聞こえてきたけど、無茶苦茶したりしてないでしょうね? 思念飛ばして聞いてみよ。

 

(水嶋着いた?)


『着いております』 


 お早いお返事。


(そう。殺したりしてないわよね?)


『……』


 なによ言い淀んだその感じは。


『腕が取れました』


(……駄目よ、繋げて、出来るでしょ)


 そんなことまでできるようになってる水嶋氏。身体をスライムにして患部を覆うとあら不思議。どんな傷もたちどころに治ってしまうという。


 だからといって腕が取れたとかはやりすぎ。


『不敬を見過ごすことが——』


(いいからやんなさい)


 そりゃライフルで狙われるなんて腹立たしいし、首謀者はキツイお仕置き確定だけど、実行犯は命令に従っただけなんだから。周辺巻き込んでまでは動いてないから最低限の良識はあるみたいだし、許してあげようよ。


 本当、水嶋は紫苑がいないとすぐ暴走するわね。お店の手伝いじゃなくてこっちに来て貰えばよかったかな。紫苑は水嶋と違ってわたしと距離があると影から召喚できないのよね。

 

『我が君の御慈悲だ。腕は繋げてやろう。しかし生き方は改めて貰わねば……』


『あぎゃぁっ!』


 インカムから聞こえてきた音を推測するに……繋げてから折ったわね。あんまり怒っちゃだめよ。さて次の場所で合流よー。


 ◇ ◇ ◇


『アルファ2! 応答しろっ! こちらはデルタ1! 東王だっ! 奴が出て来ているっ! 隊長がやられた!』


 次の場所へ移動中にインカムから音声。水嶋がもう次の場所へ移動して攻撃を仕掛けたみたいね。


 あっ、そうだお返事してあげよ。声のトーンを落として低い声で。


「こちらアルファ2」


『……まさかっ! すでにやられているだとっ?! 速すぎるっ!』


 いきなりバレた。自信あったんだけどなぁ。


『ちっ! くそっが! タタタッ! タタタッッ! タン!』


 舌打ちと銃声……。


『ゴシャッッ!!』


 壁に何かがめり込んだような音がしたけど、たぶん水嶋が張り切ってる音ね。手加減してる? 


(殺しちゃダメよー)


『御意』


 これであと1チームかな? 


『東の方向……』


 アクアが最後の一チームの場所を伝えてくる。一キロぐらい離れた先、建て替え予定の大型ショッピングモール、今は廃墟になっている場所。その屋上。


「というわけで、今からそっちいきまーす。えーとアルファ1?」


 インカムのボタンを押して喋りかける。


『……——』


 声はしないけど、通信してる時の音がしてるからたぶん聞いてる。これで諦めて逃げてくれたらいいんだけど。


「水嶋帰ってきてー」


 一声かければ影から水嶋。はい、おかえりー。


「戦争屋にしては殺気も狂気も控えめ。企業に飼われた番犬です」


「なんでわかるの?」


「頭の中を少し覗きましたので。エクセルヒューマン社とやらの部隊のようです」


 指だけを霧のように変化させ耳の中に入れるジェスチャーで情報収集方法を解説してくれる水嶋。


「最近なんでもできるわね」


「恐悦至極に存じます」


 さて、行くと言ったもののどうしよ。水嶋の話を聞いたら、だいぶめんどくさくなった。


 エクセルヒューマンって、アレだよ? EIMより規模が大きい会社だよ確か? それに、八尋の記憶で真由美さんに会うために周防が使ったホテルも確か……あー。絶対めんどくさい。


 ひとまず……行くのをやめたとしてを考えよう。


 ……八尋に連絡? いや、大事な用事みたいだったし呼び戻すのはないかな。


 警察? 事情聴取で今日絶対帰れないからパス。あと、五時間で同窓会だし。


 やっぱり篠塚会長に連絡かな? エクセルヒューマン社とか、どう考えても手に余る。まるっと放り投げで決定ね。


「良し。連絡しよっと」


 スマホ、スマホ、どこいったー、たしかカバンの奥にー……あった。


「いかんぞ、嬢ちゃん。アレは放っておいたらいかんやつじゃ」


「わわわっ! ちょっとかめかめっ! 急に出てきて、なによもう!」


 かめかめが影から急に出てくる。けっこう大きなサイズで甲羅の上に座る形になっちゃった。


「篠塚に連絡して後処理。頼むのは良いが、アレの相手はさせてはならん。人間では抑えることは出来んし、犠牲が出る」


 かめかめは東の方角を睨んだあと甲羅の上のわたしに顔を向ける。えー、真剣な顔なんですけど。


「そんなのがいるの?」


「まさか街中に出てくると思わなんだが、前の奴らじゃ」


 へー。前の……前の? 前のっていったらアレだよ? 邪魔してきたやつだけど? ほんとに? だとしたらやる気出ちゃうけど。


「自分で言っといてなんじゃが……出来れば殺気を抑えてくれるとありがたいのぉ」


「ごめん、ごめん。じゃあ行こう」


 ◇ ◇ ◇


 ——十五分後、現場へ到着。気配を抑えながらショッピングモール内部に侵入。屋上駐車場に繋がる止まっているエスカレーターを駆け上がる。


「マキナシリーズの起動だっ! 急げっ!」


 声が聞こえてきたので一旦止まり、乗降口の区画からそろりと顔を出す。


 駐車場スペースに大型トラックが一台。その周りに三人いるのを確認。


 何か大急ぎで作業をしている? 


「なんだか慌ただしいわね。それにあのトラックの中……」


「ヤバイじゃろ?」


「うん、気配が……ていうか影から頭だけ出して喋るのやめなさいよ。それにかめかめ、自分は戦う気がないでしょ」


 水嶋はもうやる気まんまんで、霧になって辺りを自分の領域として掌握しつつあるのに。この亀はのほほんとしちゃって。


「そんな顔で見んでくれ。八尋がおらんと術が暴れた時どうにもできんから儂は遠慮しとるだけじゃ。めんどくさいとか、そういうのではない。断じてない」


 はいはいはいはい。嘘をついたりごまかす時、理由を重ねたくなるわよね。わかる。


「……その顔は信用しとらんな」


 あのね信用というのは——ん? トラックから音が。


「ねえ、なんかカッコいい音しない?『プシュぅウウウ!』って、SF映画とかで隔壁とかが開く時の音」


 荷台の横が開く——


『……マキナシリーズ、起動完了。コード実行者を確認……周辺情報からサブオーダーを優先します』


 前に見たやつだ。鷲のような頭部、全身黒の甲冑を着込んだような巨人がトラックに横たわっている。


 マキナシリーズ? 名前かしら。マキナで覚えよ。


 引き続き観察。トラックから身体を起こしこちらの方向を向いた。人間みたいな動きね……荷台からスムーズに降りて屈んだ——


「うげぇっ! ちょっ! いきなり突っ込んできた!」


 わたしたちが潜んでいた場所にマキナはショルダータックルを敢行。乙女にあるまじき声をだしつつ、全力でその場から離脱。


 エスカレーター乗降口周辺はマキナの体当たりで一瞬でガレキと化す……えげつな。


『対象確認、状態は不問』


 体当たりで傷んだ様子もなく滑らかな動きでこちらへ向いたマキナと対峙。


「ねぇ? 一個聞きたいんだけど。中身は人間?」


「……——」

 

 答えないか。さっきのスピーカー越しのような声は女の人の声だったけれど、対峙して気配を探ると咒式に似た気配も感じる。


 一体なんなのこれ?


「目的はなに? 場合によってはこのまま帰っても構わないわよ?」 


「ブレードの使用許可を申請。許可確認」


 ……全然話し聞いてくんない。それにブレードって言った?


 そういや鈴菜もブレードっていった後に『カシュンッッ! ブウゥゥゥンン!』……それ見たことあるやつ。


 あー、突っ込んできた。


 腕の関節がグルグル回る機構で肘から先がまるでヘリコプターのよう。


 地面にかすりつつ、駐車場のアスファルトを削って巻き上げながら突進してくる。


 剣筋もくそもないや。とにかく避けるしかない。


 横っ飛びで避けたあとを蜂のような羽音が通り過ぎる。


「そんな勢いだと止まれ——嘘っ!?」


 どう考えても止まれるような速度じゃないのに脚から何かバーナーみたいなのが噴射して勢いを相殺、十メートル先で急停止した。


「うわぁ、ズルい」 


 余裕を持って体勢を直し、ぐるりと振り返るマキナ。もう片方の手からもブレードを出した。今度は二刀流。完全に殺しに来てるわね。


 でも、そろそろ。


『調子に乗るなよ』


 水嶋の声。突撃のために脚を屈めたマキナの動きが止まる。


「もう大丈夫?」


『装甲の隙間に入り込みましたので配線なのかはわかりませんが何本か引きちぎりました』 


「問題が発生。ブレード使用停止、銃火器使用申請。却下ーー再申請ーー。却下ーーオーダーの遂行に支障ありーー」

 

 さてどうしよう。とりあえず胸の装甲あたりを思いっきり殴ってこの間の分をスッキリしようかな?

 

「油断してはならん」


 影から首だけ出してかめかめが注意してくる。


 油断はしないけど、ここから出来ることなんかあるのかな。もう水嶋がほぼ——


『搭乗員の離脱及び機体の爆破破棄を承認』

 

「……物騒なこと言い出したわね。——アクア? どうしたの」


『良子。水嶋が危ない。流纏を解いてあちらのサポートに回る』


「わかった」


 アクアの思念に従い流纏を解くと、わたしの手のひらに半透明の球体となったアクアが出現する。


『爆破時に抑え込みすぎると中の水嶋が持たない。少し穴を開けて逃す。爆風だから踏ん張って』


「なるほど。……あっ」


 アクアから対処プランを聞いている間にマキナの背中が割れるように開いて、中からSF映画で見るような脱出ポッドが猛スピードで飛び出していった。


 咒式の気配はマキナに残っているから機体に何か取り憑いてる? 操縦は人間よね? あーややこし、まったく何がなんだかよ。


「ちゃっかり中のものは逃げおったの」


「何が目的だったんだろ?」


『搭乗員離脱。周辺情報再確認ーー自壊ーー承認ーー五、四』


 かめかめと空に逃げていった中の人を眺めているとマキナからカウントダウンが始まった。


『じゃあいってくる』


 アクアがマキナへ突撃。


「三、二、一」


 ゼロ。と同時に白光を放つマキナ。

 だけどアクアと水嶋が周辺を巻き込まないよう、丸い球形の障壁となってマキナを包んでいるので音も衝撃も伝わってはこない。


 球形の中は光と炎が渦巻き様子がよくわからない。


 ——球形に小さな穴がいくつもあく。たぶんアクアがいっていた、爆風を逃す穴だ。


 ……えーと。穴がこちら側にも空いているということは、当然、爆風はわたしにも来るよね? 踏ん張れってもしかしてそういうこと? 


 ……えーと。そうだ秘密兵器召喚。


「かめかめ、前に立って防いでよ」


「うむ。風避けぐらいは務めんとな」


 影から出てきたかめかめは、四本の足先の爪を地面に固定するように地面に突き刺した。


 では、後ろ足の方へ回り込んでと。よし、サイズは充分。ナイスアイデア。壁になってもらお。

 

「そろそろじゃ」


 それが合図のように破裂音がする。ごうごうと鳴る周辺。わたしに届く風はかめかめで減衰されたはずなのに爆風と呼べる圧力を感じる。

 

 それでもなんとか安全地帯を確保できたかな。と、安心していたら。


「あっ……すまん、後ろ足の爪の踏ん張りが」


 この爆風の中何故か聞こえてきた、かめかめの呟き。何が? と聞く前にかめかめの後ろ足がふわりと浮く。


 その光景を眺めながら、前足の爪は長いから地面に深くめり込んでいるけど、後ろ足の爪はそういえば短めだったわね……と、いう理由が浮かぶと同時に風が襲いかかってくる。


 とっさに腕を交差させクロスガードの構えをとり、前傾姿勢へ。


 爆風にのって、マキナが散らかしたガレキの破片がわたしを叩いてくる。体勢が崩れて吹き飛ばされないようひたすらに耐える。幸いにも五秒もない時間で風はおさまった。


 かめかめの浮いた後ろ足も地面に着地。


「焦った……」


「すまんのぉ……」


 振り返りバツが悪そうに謝ってくるかめかめ。


「仕方ないよ想像以上の風の強さだったし。大きな破片は防いでくれてから。怪我がないだけ良かったと考えるわ」


「あー……そういって貰えるのはありがたいんじゃが、その……怪我はないんじゃが」


 かめかめに言われて、わたしは自分の身体を確かめる。やっぱり怪我はない。ちゃんと気を練って防御したし当然よね。


「ほら腕とか無傷よ。無傷すごくない? けっこうな爆風とガレキのつぶてだったのに……? あれ? なんで素肌見えてるの」

 

 そういいながらわたしはようやく気付いた。


 着ていた服は爆風とガレキでズタボロに切り裂かれ、半袖半ズボンの小学生スタイルへと変化していたということに。








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