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七十六 〜同窓会②〜

 

 開始一時間。早くも三杯目のわたし。


 このテーブルに話しかけるには、わたしが放つ眼光を正面から受け止めないといけないから、今のところ男連中は近寄ってこない。


「最近信じられないこと続きだけど、まさか良子をお義姉さんなんて呼ぶ日が来るとは……」


 二杯目のビールをあおって桜花が呟く。もう酔ってらっしゃる。


「何よ、散々(さんざん)アピールしてたくせに」


 まあ春樹もたいがいだけど。いまだにちゃんとしたきっかけとかは聞けてないから詳細は知らない、というかあんまり聞きたくはないんだけど。


 それよりも桜花さん。酒に呑まれたね? 幸せだからってノロケたね? もうそれは自分から聞いてくれと言ってるのと同じだよ?


 せっかく二人がわたしのこともあって聞くのを遠慮していたというのに。

 


「「その話詳しく」」


 ほれ、麗しき二頭の美獣に噛みつかれたよ。桜花はしまったという顔をしているけれど、自業自得すぎてフォローする気が起きない。


 てか、聞いて欲しいんでしょ。


「今日は洗いざらい吐くまで返さないからね桜花ちゃん。旦那くんにも遅くなる連絡しといてよ。大丈夫、タクシー代は心配するな」


 森田さんは桜花のあごをクイッとしながらイケメンムーブ。

 

「で? 桜花ちゃん?」


 で? という言葉に様々な意味を込めながら森田さんが桜花を問い詰める。


「!!……黙秘権を、行使しますっ!」


 森田さんの顎クイッから逃れながら桜花が抵抗をみせる。でも、甘い。敵は一人じゃない。


「何かね? 一日で総てが変わったらしいのよ」


 信じられないといった顔でわたしを見つめる桜花。いつからわたしが味方だと錯覚していたというのか。


「良子っ!」


「春樹から確か……浮かれたメールが来てたわね……あった、これこれ」


「ちょっ!」


 森田さんにメールを見せる。


「ほうほう、ふむふむ。……良子ちゃん、このメール書いたの春樹君よね? あの、冷血王子とまで言われた……」


「すごいあだ名よね。顔色一つ変えずに告白にきた女の子達に浴びせる絶対零度の視線からついたといわれる」


 家じゃそんなことないんだけどねー。あっ、由利さんにも見せとこ。


「桜花ちゃん愛されてるねぇ」


 こんなの見たら思わず笑顔になっちゃうよね。


「良子あんた、覚えておきなさいよ」


 桜花がこっちを見ながら唸る。


「桜花の態度が、良くないので一部読み上げたいと思います。オホンっ……『姉ちゃんっ! 俺は、心に決めた人と一緒になるよ! 桜花さんを必ず幸せに——』」


「待て待て待て待て待てっ! 分かったから読み上げないでっ! 後でお店変えて四人になったら話すから。それと良子……爆弾持ってるのアンタだけじゃ無いんだからね?」


 オホホホホッ。何のことやら……あっ。忘れてた。調子にのって桜花で遊んでる場合じゃない。


「その表情……思い出したわね」


「まさか良子ちゃんにもあるの?! それは今世紀最大のニュースじゃないのっ!」

 

「良子ちゃんに……?!」


 これは考えうる限り最高の火力で延焼したわね。しまった。マジでやっちまった。森田さんと由利さんの視線がつき刺ささってくる。


「つい最近まで勘違いとかいってたよね? でもー?」


 ああ、桜花の顔が悪魔に見えてきた……。

 

「あぁぁぁっ! なにそれ王道展開じゃないの! 今日は帰れないわねこれ。もっとゆっくりできるところに行かないと……由利っ!」


「今連絡入れたから……大丈夫。お店は空いてる。貸切ね」


 森田さんがキャラ崩壊しながら叫び、真顔で由利さんに問いかける、由利さんはこれでもかというほどの男前な表情で応えた。


 これでわたしは由利さんの実家であるスナックに連行監禁されることが確定。たぶん全部話すまでホントに帰れない……。

 

 ◇ ◇ ◇


 てな訳で二軒目。現在二十四時三十分。我らが地元の駅前雑居ビル三階に入ってるスナック【由利】、ここは由利さんのお母さんが経営しているお店。


 私たちが店に入ったタイミングでクローズ貸切。由利さんのお母さんは店の鍵を置いて帰った。


 カウンター越しには由利さんが即席ママとして君臨。わたしは花もかすむような美人二人にがっちり挟まれて逃げ出すことができない。

 

 一軒目はなんとか桜花への質問攻めへ切り替えることで、あれ以上の追求をかわすことが出来た。ここにきてからも、その話に飛ぶたびに黙秘権を使ったり話題を変えてはぐらかしてきたけれど、そろそろ通用しないころあい。


「良子ちゃん。そろそろ話そうか?」


 飲み干されたグラスがカウンターにコトリと置かれる。——来た。


 ウイスキーの水割りで飲み比べを仕掛け、こちらは実は二回に一回は目にも止まらぬ速さで烏龍茶に入れ替えという、最低の策で酔いつぶしにいったのに、全く効いた素ぶりを見せない森田さんからついにぶっ込みが来た。


 だけどわたしには黙秘権と話題そらしの他にもう一つ秘策がある。


「そうだ! 名刺! 名刺見る?」


「……見る」


 よし、釣れた。大学院は工学部だって言ってたし森田さんにならEIMと聞けば興味引けるとにらんで正解。


「うっわ、ホントにEIMじゃないの。しかも開発の人が持ってる……しかも肩書き、なにこれ?」


 ねー。自分でもなんだこれって思う。開発室室長兼会長補佐とかなんの職種だって話よね。


「変な素材だよね。何かメタリックな見た目だし、ラメってるし」

 

「良子ちゃんまさかこれ知らないの……? これ電池になるんだよ。EIMが開発して、しかも製法が公開されてる。但し肝心の素材が全く意味不明で分解してどれだけ組成を調べても何か良くわからないっていう。ちなみに……こうやると浮くの」


「すごっ! なにそれ! 」


 水を一滴名刺に垂らすと五ミリぐらい浮いた! なにこれ、こんなん知らんがな。


「なんで社員なのに知らないのよ。一時テレビやネットで大騒ぎだったでしょ?」


 テレビは【Tail at drive】が出てる音楽番組かリトデビちゃんが声優してたアニメの魔女マジしか見てないし。……それにしてもほんとに浮いてるわねこれ。


「良子に時事ネタ系なんか、何言っても無駄よ? 最近ようやく自分の着てるブランドを言えるようになったぐらいなのに」

 

「ついに覚えたのね!」

 

「あとね、これ。最近の良子の普段着」


 こらこら桜花さん、人を指さししないの。お行儀悪い。それにこれは普段着じゃなくて制服。これはきちんと言っておかないと——あっ。この気配。


 背後のドアがガチャリとなって外の空気と音が入り込んでくる。

 えー……。なんで、このタイミングできちゃうのよ。


「ん? お店クローズ看板出してたけど、間違えて入って来ちゃったかな?」

 

 由利さんが慌ててカウンターから出て対応しようとするのを手を振って止める。


「すみません。こちらに向井良子さ——ん、ああ、良かった。居られましたね」


 社長……。何故来たし。今はまずいの、本当にまずい。


「何しに来たのよ……」


 振り返りながら八尋に聞く。あー、顔がちょっとシリアス。これは別行動した後の騒動について直接話を聞きに来たとかかな。


 後から聞かされてちょっと怒ってるやつだこれ。


 でもあの時、八尋に報告してたら同窓会になんか絶対間に合わないし。


「お迎えに上ろうかと。それにどうせなら私も良子さんのご友人にご挨拶をさせて頂きたくて」


 わたしの目の前にまで近づき顔を覗き込みながら八尋がいう。ちょっとじゃなかった、かなり怒ってる。 


「遠藤八尋? 経済紙に載ってた顔と一緒だし間違いない。良子ちゃんはEIMに就職して会長補佐とか書いてたけど……飲み過ぎてるかな私? 何でここに?」


「遠藤八尋と申します。みなさんよろしくお願い致します。桜花さんはお久しぶりですね」


「あっ……森田ちなりです」


「由利天音です」


「あっ、はい」


 横にいる森田さんは、顔を何度も八尋と名刺で往復させながら混乱ぎみ。由利さんは落ち着いてる。桜花は突然のことでびっくり。


「ねえ……桜花ちゃん、もしかして良子ちゃんの?」


 由利さんが桜花に確認するように話かける。桜花は我に返ってコクコクと首を揺らす、由利さんはカウンターから出て森田さんを引っ張りながら奥のボックス席へ移動。


 桜花もつられてついていく。えっ! 待って、おいてかないで。わたしもそっち行きたい。


 ……なんだか気まずい雰囲気でカウンターに取り残されたわたしと八尋。


「本人は認めたがらないけど、良子があれだけ警戒もせずに素のままでいる男の人なんて、それ以外ないでしょ」


「だよね? 良子ちゃん、男の人といるとバリア張るもんね」


「良子は気付いてないいけど……。八尋さんってさ結構分かりやすくしてくれてるよね?」


「目が優しい。声がエロい。フェロモンダダ漏れ」


 おーい。聞こえるように喋っちゃだめー。ボックス席に向かって少し静かにしておくように口を閉じろとジェスチャーを送る。


 ……八尋の無言の圧力を後頭部に感じる。振り返り辛い。


「はぁー、本題は昼からのことよね?」


「ええ、お邪魔して申し訳ありませんが、良子さんからお伺いしたくて」


「……分かった。でも怒らないで聞いてね」


 話さないと余計に怒りそうだし、諦めて振り向く。


「努力します」


 それきっと、怒るやつぅ。振り返るんじゃなかった。

 

 もういいじゃない誰も怪我しなかったし死んだりしてないんだから、報告もわざわざ私から聞かなくても。……どう伝えよう。うーん——


「良子さん?」


「——! えっと、あのあと別れてからわたしは、まずアイスを買いにいったの」


 ええい、もうありのまま話すしかないか。




 

 

 

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