七十五 〜同窓会〜 ①
いろいろあって同窓会当日。時刻は午後六時半。地元からは少し離れた街にいる。
せっかく桜花以外の同級生で仲の良かった二人に久しぶりに会えるのに、わたしは不機嫌。
……いや、今日の午前中は気分良かったのよ。八尋が買い物に付き合って欲しいっていうから、二人で出かけたりしたし。
……えーと。つまりはアレよ。みんながあまりにも圧をかけたり、呆れた顔になるからさ。ちゃんと考えてみようとしたわけで。
それでまあ、二人で、で、デ、デ、デートじゃないけどお店を回ってみた結果。
その時のわたしは気分が良かったということがわかってしまったわけで。
単純に楽しかったよね。
でもさ。八尋と別行動になった午後から突然、三メートルの機動兵器みたいなのが襲いかかってきてさ。せっかく桜花が選んでくれて八尋も褒めてくれた服をボロ布にされたら。
……気分悪くなるでしょ? 買い直す時間もなくて結局メイド服着てるし。
でも仲の良い友達に同窓会の会場前であえて一回気分は良くなったのよ。だけど楽しく話してたら突然、その友達にオジサンが絡んできたの。
「あがっ! いっ……いたいっ!」
だから今そいつをアイアンクローして片手で持ち上げてる。
わたしの数少ない友達の由利天音ちゃんの腕を掴んで「言うことをきけっ!」とか脅したからね。
こんなの理由を聞く前に鷲掴みです。
「良子ちゃーん。わたしはもう大丈夫だから、その人のこと許してあげて?」
天音ちゃんの優しい声に振り向く。芸能事務所にスカウトされて春から俳優活動開始するだけあって、目が痛くなるくらいの美人さん。
「いいの? この人たぶん悪い人よ?」
柄の悪い服装でチンピラ感強い。何より目が良くない。
「良子ちゃん、ありがとう。もう大丈夫だから。ねっ?」
「良いの? じゃあ、はい」
「あがっ……っぅ! おれを誰だと思ってる!」
ほらー。せっかく優しく下ろしたのにすぐにこの悪態だもん。
「誰だか知ってようが私の友達を傷つける奴は許さないけど?」
「なんだとっ……あぎゃあっ」
再びおじさんへアイアンクロー。だって反省してないし。
「離せっ! どうなるか分かってんのかっ! くそっ! 離せっ!」
「佐藤さん……以前も申し上げましたが、あの話はお断り致します」
わたしに吊り上げられたおじさんへ由利さんが声をかける。知ってる人だったの?
「このっ! 顔と身体だけしか取り柄が無い女の癖に偉そうにっ!」
ジタバタしながら空中で悪態をつくという器用さをみせるおじさん。
「顔と身体以外の勝負が出来る様に勉強しますので。お引き取りを」
事情はさっぱりわかってないけど、とりあえず由利さんはめっちゃカッコいい。
「舐めやがって! 後悔するなよ!」
いや、あんた今の自分の体勢についての後悔はないの?
頭もわたしの指が食い込んで痛い筈なのに悪態だけはつき続けるし。
このままだと後でまた仕返しにきそうだから、ちょっと気当たりでビビってもらお……ちょい強めでこんぐらいかな?
「ひぃぃっっ!」
殺気をぶつけられ、おじさんは悲鳴をあげた。そのタイミングで、はい。ドサリと。さあ、早く逃げないと大変だよー。もといた所にお帰りー。
「ば、ば、ばけ、ばけものっー!」
だれがやねん。あっ、そんなに慌てて走るとこける……こけた。前のめりでこけた。なんかうめきながら立ち上がって、タクシーに飛び乗った。じゃあねー。
「……良子ちゃん、ごめんね」
「由利さんが謝ることなんかなにもないよ」
そんなに申し訳なさそうな顔しなくてもいいから。
「そうだね、ありがとう。所属事務所がちょっとさっきの人と揉めててね……色々あって、心折れそうだったけど、良子ちゃんに久しぶりに会えて、決心ついたよ」
「何か分かんないけど良かった」
「ふっ……ダメっ! あははっ! 良子ちゃん変わんないんだもん! 笑っちゃう」
由利さんは笑いだした。うん。元気になったならいいのよ。わたしも気分良くなったし。
「おーい、良子ー、天音ー」
桜花だ。いいタイミング。手を振りながらこっちに小走りで向かってきた。
「桜花ちゃん久しぶり」
「うん。あれ? どうかした?」
「男の人に絡まれていたところを良子ちゃんが助けてくれて、いつもの良子ちゃんと変わらなかったから、つい面白くって笑っちゃったのよ」
「そうなのね」
「うん、お店入ろ」
「ところで良子。服は?」
「あとで話す。今は何も聞かないで」
「……はぁ。またなんか暴れたんでしょ」
「違うといいたいけど、だいたい合ってる」
桜花は呆れ顔。まあ細かいことはあとで、とにかく今日は飲むわよ。居酒屋さんの引き戸がらがらーと。広めの店内、見知った顔がチラホラ。奥のテーブルに……いたいた。森田ちなりちゃん。
高校時代の四人が揃うのは一年ぶりかな? 何はともあれ嬉しい。桜花と由利さんの二人も奥に手を振りながら笑顔。
ささ、奥のテーブルへ行きましょう。
『なあ、おい、C4が揃ったぞ……』
『うおっっ……マジかよ』
『桜花ちゃんだ……』
『天音様っ!』
ざわつく店内。そりゃこの美人さん達が揃えばやむなしではあるけど。
『cutecoolclarity、そして、crazy……うん、クレイジー来ちゃったよ…… 。しかもメイド服だぞ? 誰だよ呼んだの……ヤベェ、目ぇ見られてねぇか?! みんな絶対に見るなよ!?』
おい。聞こえてる。ちゃーんと聞こえてるぞ。……アイツ、確か高木だ。誰がクレイジーや。
……はぁ。私がcuteでありたい。と、言いたいけど、これは桜花。仕方ない。森田さんはcool、クールビューティの全国ランキングがあったとしたら間違いなくランク入りどころか殿堂入り。
日本最高学府に首席合格、首席卒業。高嶺の花など飛び越えて夜の月ぐらいの女子。
でも私達には頼れるお姉さんキャラ。最高かよ。んで、由利さんはclarity。お胸様に目を奪われがちだけどこの吸い込まれる様な笑顔と透明感。
そして私はクレイジー。……言い返せない自分のこれまでのあれこれが恨めしいっ。
桜花にも高木の発言は聞こえていたみたい。わたしの膨れ上がるボルテージを察知して放っておいて早く進めと肩を押してくる。
……高木をひとにらみしながら奥のテーブルに向かう。
「みんな久しぶりっ! ……? 良子ちゃんどうしたの? あっ、またオトコどもが、なんか言ったのね。ほら、こっち来て」
森田さんが、険しい顔のわたしを気にして抱きしめてくれる。おおぅ、女神の抱擁ぉー。この抱きしめ力、荒んだ心が癒えていくぅ。
吉田さんありがとう。気にしてるんじゃ無いけどさ、私も社会人になったからさ。いくら同窓会でも、高校の時のノリでイジられるのは、ちょっとモヤッとする訳で。
それにしても森田さんから香るこの匂い。めっちゃいい匂い。もっと抱きしめて!
「良子が我慢してる……? 何だろうこの気持ち。まるで良子が普通の女の子みたい」
桜花はテーブルに着きつつそんなことをいう。由利さんもそんなに大きく頷かないでよ。
「人は成長するのよ桜花」
「物分かりがいいこと言ってる時が一番怖い」
わたしはいつだって物分かりが良いけど?
「さっきの高木君とかの感じ、昔だったら殴りはせずとも無言で下から顔覗き込んで、威圧してたでしょ? それを睨む程度で済ますなんて……」
「あのね、桜花、私達もう社会人なのよ? ちょっと粗相されたぐらいで、いちいち相手にしてらんないの」
桜花は由利さんと森田さんに目線を飛ばして何か言いたげな表情。
『それでは時間となりましたので、ーー高校、同窓会を——』
同窓会が始まった。さあ、飲むよ!
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