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七 〜金壱百萬円也〜


 ダバドゥビダバー(子供の頃に考えた挨拶)あれから二週間経ちました。今日も元気にウェイトレスやってます。

 

 こんにちわ、私、向井良子。 

 好きな食べ物は麺類全般、特にお蕎麦はもう愛してるぅ。

 絶賛、彼氏募集中。


 でも俺に着いてこいってタイプは苦手かも。バイト上がりの時間が来たわね。じゃあまた来週!


「という訳で」


 タイムカード、がしゃこーん。


「何がという訳でかは、分かりませんが、お手伝い頂きたい案件がございます。明日お願い出来ますでしょうか」


 あらあら、まあまあ、早口でまくし立てれば相手がひるむと思って、この色黒店長さんったら。


 ちょっとはさ? こっちの気持ちも汲もうよ。ね? いきなりファンタジーぶち込まれてもさ。二週間じゃまだ消化出来ないよねー。


「現実逃避ぐらいさせて。ホント……あっ、そうだ、お店で出すコップが割れたから買いに行かないと。あー忙しいなぁ、明日も大学の講義あるしなぁ」


「明日は、十二時頃からになります。簡単なお使いですので」


 グイグイくるやん。行くなんて返事してませんけど。行かないって言っちゃうぞ、このやろー。


 ……ちょっと、真顔で見つめるの、やめてくんない? 


「はぁぁぁ〜。で? 外? 何するか知らないけど、まさか制服で行けって言うんじゃないでしょうね」


「その制服を身につける事で、回避出来るトラブルが数多くあります」


 一番ないと思ってた答えきた。まさかの制服マスト。しかるべきところに駆け込んだらどうなるか、ちょっと試したい。


「八尋さんや、私の認識ではこの服を着てからトラブルが発生している訳で」


「百五十年振りの慶事はトラブルとは言えません。何より良子さんの現状は悪い方向に向かってはいないでしょう?」


 何それ? 今なんかそれ、呆れた顔してない? 分かってねぇなぁコイツみたいなこと考えてない?


 悪い方向ではないとかいうなら、ちゃんと考えてみるけど……就職は遠のいてる気がしてる……バイト代に目が眩んでたのは自業自得だけど。手下(そう呼んで欲しいらしい、第一候補は下僕だったから速攻却下)が一人出来た。


 百五十年振りの意味も、いまいちよくわかんない話されてチンプンカンプンだし。

 

 冷静に考えても、全体的に悪い方向よ、これ。今のところ私にメリットないもん。


 水嶋は影に潜んでるのがデフォになりつつあるし……。


 



〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 あっという間に翌日な訳です。ドキドキしてます。メイド服着てます。もうね、この服の事は十回ぐらい言ってみたのね。


 でもね……聞かねぇでやんの、あの野郎。超笑顔で言うのよ。


『その制服で先方へ出向いて頂く事で、何と八十パーセント以上のトラブルが回避できます。残り二十パーセントについても私が先に現地に入り万全で臨みます。それでも制服を着ないと言うのであれば仕方ありませんね』

 

 これ以外の事答えてくんないんだもん。三回目くらいから、あっれ会話出来てなくない? さっきもおんなじ事言ったよねって。


 確認した後、もう一回聞いても同じ答えでさ、ちょっと怖かったです。はい。とにかく着なきゃ行けないそうでね。遂に説明を省きやがったよ、あの野郎。まあ十回同じこと聞くのも大概だけど。


 ……電車乗りながらの考え事なわけですが。まあ視線が痛いのなんの。ジロジロ見られるとかならまだ良いけど、生温い乾いた笑みで一瞥されるのは、心の深いところが、えぐられる。


 まぁ制服は可愛いのよ。お店で制服として着るにはなんら問題はございませんとも。


 でも、やっぱり外では着ないよね。メイド喫茶の客引きぐらいでしか見ないよね、それも特定地域限定よね? 


 電車にそんなの乗ってりゃ、そりゃ見るでしょうとも。まぁ、あざとい。クラシカルなくせに、フリフリミニスカ黒パンスト、太ももバーンだかんね。そりゃ水嶋氏も思わず見ちゃうよね。首吹っ飛んだけど。


 まぁ、何が言いたいかと言いますと、あの男連中と来たら、放置プレイかましやがる訳ですよ。


 現地集合で先に入ってますじゃねぇし。側に控えておりますゆえ、じゃねぇし。別に一緒に行けば良いじゃん。水嶋に至っては控えてもいねぇじゃん。絶対アレよ? 横に並んで歩くのイヤなのよ、これ。


 お使いは一人で行くものでしょうけども、オメェらの不思議ワールド案件なんだから率先してついて来いっつぅの! この格好で一人で電車に乗せんな! ……はぁ、もうあと二駅だし良いけども……怒っちゃダメ、これ大事。



 そんなこんなで、お隣というにはちょいと、遠いとこまで到着しましたけども。もちろん土地勘はほぼゼロです。間違えた、ほぼじゃ無い、ゼロね。


 こういう時は、タクシーが……居た、居た。近寄ったらドアも開いたし、乗り込んじゃおう。


「すいません、この住所までお願いします」


 メールに書いてある、住所通じるかな? 


「あぁはいはい、あっ、キガサキさんとこですねー。蕎麦美味いんですよー。お蕎麦好きなんですか?」


「ソバ? 好きですけど?」


 蕎麦は愛してるわよ? そろそろ自分でも打とうという気持ちが溢れる程には。キガサキさんがなんだって?


「そう、蕎麦屋の住所ですよ、そこ」


「はぁ、蕎麦屋さんですか」

 

「車出しても良いですか?」


「あっ……お願いします……」


「……? じゃあ三十分も掛からないうちに着くと思いますので、コーヒーはサービスですから、うしろの紙コップでお飲み下さい、それではご利用ありがとうございます、安全運転で出発致しまーす」


 目的の情報が多い。駅からそれなりに遠いみたいだし、蕎麦屋だし、コーヒー美味しいし。あと運転手さんの感じがグッド。いやーまだこんなフレンドリーなタクシードライバーさんいるのね。


 何よりこの格好の事、聞いてこないのが一番得点高いけど。


 ちょっと脱線。 蕎麦屋よ、蕎麦屋。お使いで蕎麦屋行くってのも大概、謎なわけよ。


 しかしまぁ蕎麦屋ね、蕎麦……ちょっと都会からは離れて山際にお店構えて、こだわり出しちゃう系のお店らしいのよね。運転手さん情報。そんなの絶対美味しいよね。


 うし、経費申請してやる、盛り蕎麦五枚いっちゃる。ついでに天ぷらも海老ちゃん二人前やで! ……やば、楽しくなってきちゃった。


 経費通るよね? 目的地謎、着いてからのミッション謎。この謎お使いの掴み所の無さったらまあ、蕎麦でも食わにゃやっとられんですよ。ホント。


 「お客さん、そろそろ着きますから、ご準備よろしくお願いします」


 「あっ、はーい」


 「こちらですねー。到着致しました。二千八百円になります。はい三千円から頂戴致しまして、お釣り二百円、釣りは結構? いや〜どうもどうも有難く頂戴致しまして。お帰りの際も宜しければ名刺お渡ししますので、ご連絡お待ちしております。ご利用ありがとうございましたー」



 タクシーから降りて、気の良い運転手さんにバイバイしながらロケーション確認っと。


 おおー、雰囲気あるわ。 まだこんなとこ残ってるのね。田んぼからの山、緑、川、水車。駅から三十分程度でこれに出会えるのはちょっと感動。日本素敵再発見! バス停すら見当たらない。そりゃ帰りもタクシーいるわ。


 で、この築百五十年以上みたいな日本家屋が蕎麦屋さんっと。


 あら、こちら良さげな暖簾が誘うかのように掛かっておりましてよ。営業中だと。そう仰る。ではではひょいと、お邪魔致しましてと。


 「こんにちわー」


 「いらっしゃいませー!」


 あらあら元気なお出迎え。頑固親父のこだわり蕎麦店では無いのね。綺麗なお姉さん出てきた。


 「そちらのお座敷のお好きな所にどうぞー、はい。こちらメニューになります」


 奥のお座敷、外の水車が見えてめっちゃ風流。良い席独り占め。最高ね。メニューは……どれどれ結構種類豊富。写真付きだしわかりやすいわね。……どれも美味しそう。


「すいませーん」


「はーい、お伺いしまーす。」


「お勧めとか有りますか?」


「やっぱり盛り蕎麦ですね〜。コシがすごいんですよ。それと天ぷらも、店主が料亭で修行してきた自信作ですよ」


 やはり蕎麦屋に来たなら盛りね。その自信……味わおうじゃないの。


「盛り蕎麦五枚と天ぷら二人前お願いします」


「はい! かしこまりましたー? ……えっ? 五枚? 二人前?」


「盛り蕎麦五枚と天ぷら二人前お願いします」


「五枚? と二人前ですね?? えっと承りました?」


 完璧ね、車中シミュレーション通りの展開よ。


 時間は十一時三十分。昼ご飯にはちょいと早いけど、出てくる時には十二時手前ぐらいでしょうし、むしろ万全ね。


 ……あっ、八尋からメール来た。何でチャット使わないんだろね、彼ら。なーんか嫌がるのよね。最近コソコソ二人で話してるし、もしかして、そういう関係!? 


 まぁ無いか。無い無い。こっち見ながらコソコソ話しするから若干ムカつくけど。どうせアレでしょ、どうやったら私が反射的に殴ったり蹴ったりしなくなるか、相談してるんでしょ。


 それね。無理だから。私が何回やったっと思う? その努力を。無理なんだってば。人間には向き不向きと言うものがあってだな、まだまだ人生経験が足りんお子様には分からんでしょうとも。


 ホント、わかんねぇ人たちだなぁ。とりあえずメール確認っと。

 

『何処に居られますか?』


 いや、蕎麦屋だし。返信っと。


『お店の方では無く裏手に来てください鬼ヶ崎さんのお住まいの方です』


 ……返信早いってば、とりあえず蕎麦食ったら行きます。返信。


『何故、蕎麦を食べているのですか?』


 だって美味しそうなんだもん。返信。


「お待たせしました。盛り蕎麦五人前と天ぷら二人前でーす。」


 おおっ素晴らしい! 蕎麦が光っちょる。天ぷらもぴーんとしちゃってまあ。


「ごゆっくりどうぞー」


 ふふ、お姉さんプロね、さっき五人前でびびってたけど今は落ち着いてるじゃない。それが接客業よね。私もお店で変な注文されてもポーカーフェイスだもの。食べるって言ってんだから、出せば良いのよ。ラーメンとコーヒー頼まれると未だに違和感あるけど。


 さてと。いただきます。


 ……美味しいお蕎麦ねこれ、蕎麦の味わい、コシ、喉越しといいつゆのコクといい、完璧じゃ無いの。天ぷらもどうなの……海老ちゃんプリプリー!


 ああ幸せ。この幸せがわかんない奴は誰が許しても、私が許さない。これは、家族みんなで来るべきね。もう一枚食べちゃった。


 ほんと美味しい。……今、目の前を人間が壁を突き破って垂直に飛んで行かなきゃ、もっと美味しいと思う。しかもドロップキックしてる方とされてる方がセットで横滑りしてった。店員のお姉さんは……奥に隠れたのね。


 今はお蕎麦よ? お蕎麦の時間よ。まったく静かにご飯食べてる人がいるのに嫌になっちゃう。はぁ溜息。


『ぐあっ!』


 あら? お久しぶり八尋さん。左から垂直に飛んで来て右に消えてったと思えば、今度は左からヘッドスライディング? とっても器用ね。


 駄目だってば。お店壊したりしちゃ。……うっわ、血が結構でてんじゃん。誰にやられたの? 言ってみ。


「ゲハッッやはりキツイか……良子さん? 何故、蕎麦を食べているのですか?」


 だってここ蕎麦屋だもん。


 


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[良い点] レビュー全文 【物語は】  触手と繋がるところから、今までの経緯について主人公視点のモノローグによって語られていく。  あらすじにもある通り、人外のものが多々存在する。それが当たり前の世…
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