表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/94

六十三 〜戦闘〜


 自然体のまま一歩踏み出して、オーディンとの間合いを詰めていく。


 当然だけど、手をかざして迎撃体勢を取った……でも、槍は出ない。片眉上げて怪訝な顔をしてる間に、間合い到達。予備動作無しで流転歩の壱【足撃】を胸元に叩き込む——ガードされて止められた。虚をついたけど、さすがに反応してくるわね。


 相手の前腕にめり込んだ拳先の感触から腕は潰せたと思うけど……。


 とりあえず、もう一本いっとく? 腰を切り返して、返しの左正拳を送り込む。これもガードされた。手応えが少し変? ……笑い顔。余裕ってか。ダメージなさげ。


 この様子だと八尋とかめかめの攻撃も、ほんとは止めれたはずなのにわざと避けたわね。ますますムカついてきた。


「周りに漂う異界の神、見事な妨害だな。槍が出せぬ。後ろの巫女の祈祷で更に邪魔をしてくるか……」


「紫苑下がって!」


「安心しろ、そのようなつまらぬことはせん、枷を解くだけだ」


 ——ヤバいっ! 急に存在感が増して、強烈な気当てが突風よりも強く身体を叩いてくるっ! なにこれ? どんどん強くなって、押されて弾かれるっ!?


 ——吹き飛ばされながらも空中で宙返り、無事着地。焦ったー。追撃はこないけど……全身光りだしたじゃん。うっすら輝いてる。


「紫苑は今のうちにもう少し後ろに下がって」


『承知致しました』


 ……よし。あれだけ離れてくれたら大丈夫ね。


 それでこっちは……はぁ。知ってる。わたしこれ知ってる。はいはいはいはい。アレでしょ、どうせパワーアップーとかいうんでしょ。きらきら、キラキラ光ってまったく……結構きれいね。

 

 変身するのかな? 空気読んで殴らないでおこうかしら。あら、ひときわ強く光って、もう完了? 意外とあっさりね。

 

 ……えっ? 若返ってる。しかもアイドル顔とか。ほんと、アンタたちなんでもありすぎない? ローブのサイズも縮んでるし。


「これなら闘わずにでも花嫁に来てくれないかな?」


「爺キャラ貫きなさいよ……何で見た目に引っ張られて口調も若返るのよ」


「まだもう一回あるからね、次は子供の姿になるけど出来ればこの青年の姿で終わらせたいね」


 ニヤニヤ笑ってウインクしてくんな。それといま、しれっとプロポーズしてきたよね? ……ちょっとまって、えっ? 人生初めてがこれ? やだ、納得できない。めっちゃイライラする。


「余裕あるわね。じゃあ私も、次はアンタの身体を引き千切るつもりで殴るから」


「やっぱり、まだまだ底が見えないね。さっきので全力じゃ無いとは」


 全力よ全力、でも単に潰す打撃と千切るつもりで撃つ打撃じゃ、ずいぶんと違うでしょ? その余裕のある顔を吹き飛ばしてあげるから。


「今から撃つのは流転歩の壱。さっきと同じ、但し触れたものは全て千切り飛ばす」


 オーディンはこっちをみてるだけで動き出さない。不意に訪れた静寂と無音。心地良いわね。

 

 全力を出せる相手って中々いないから、その点だけは感謝かな? でも忘れちゃ困るの。飛行機は穴が空いたら落ちるのよ。つまりは、絶対泣かす。


 調息、全身を巡る血流に気を通す。一気につま先へ気を集めてオーディンの前に【(まろばし)】で移動。


 師匠からの受け売りだけど、神様連中はこの動きを補足するの苦手みたい。流転歩(るてんぶ)の気の流れ自体がそもそも神様の認識を阻害するらしい。細かい理屈は忘れたけど。


 最高神格とやらでもそれは同じなようね。目の前に突然現れたと感じたような顔してる。


「足撃ぃぃぃっ!」


 見た目はほんとに、ただの正拳。踏み込みと引き手のタイミングは文句のつけようが無いほど完璧。反応も出来てないから——水月に刺さるように入り、鈍い破裂音が鳴る。


 声は出さないけれど、オーディンの表情は歪んでる。でも手応えがおかしい、水袋を殴ったような感触……。とりあえず返しで左ハイキックへ移行、側頭部にクリーンヒット。


 効いた? 膝をついた。……なんか怪しい。距離取ろう。


「さて、どうかしら? 泣いて謝るなら許してあげるけど」


「見事な作戦だね、槍を出そうにも君の眷族に邪魔をされて喚び出せ無い……。大技を撃つ溜めも見逃してくれないだろうし」


 口を拭いながら立ち上がってきた。


「まだまだ余裕ね、やっぱ。でも、舐めてると痛い目みるわよ?」


「ふふふ……やっぱり。君は僕の花嫁に必ずしてみせるよ。だから死なないでね?」


 その顔きもい。ニチャアっとした感じ。


 とか思ってたら、みるみる背が縮んで子供の姿に!? 変身するとき光るんじゃないの?!


 速っ!? いきなり目の前に! この速さ、本気の師匠とタメ張るわよっ?!


 正中狙いの突きが真っ直ぐに伸びてくる。相討ち覚悟っ!


「アクアっ! 信じてるからねっ!!」


 オーディンの拳の軌道に自分の拳をぶつけて迎撃……成功っ! 拳と拳のぶつかりあった面が衝撃を伴いながら光る。


 アクアがオーディンの力を上手く受け流してくれてる。身体には大した衝撃も来てない。


「ふーん? 何か変わったモノを纏わせていると思ったけど、随分珍しい。僕の攻撃をほぼ殺しきれるなんて……どうやって出会ったんだい? 気になるなぁ?」


 ——いきなり連打、出鱈目な軌道の拳で連打っ! 武術の基本も何にもない、ただ手を振り回してくるだけだから、捌くのは簡単だし隙も多くてカウンターも取り放題だけどっ……!

 

「……狡いわよっ! こっちは正真正銘、生身でやってんのに……アンタ中身殆ど無いじゃない!」


 連打といっても粗いから一発入れてくる間に二、三発返すけど手応えがなさすぎるっ! 


『全身に広がるような打撃で核に』


 アクア?! 痛ぅ! 痛! 頭痛いって……オッケー! 概要理解作戦変更ぉ……。


 バックステップで間合いをきって——


「ああ……まだ神との戦いに慣れていないんだね。核に損傷を与えないと駄目だよ、まあその核は自由に動かせるけどね……グォッッ! ガァ?!」


 効いたわね。喋ってる隙をついて、潜り込んでからの脇腹への突き上げ掌底。膝から崩れ落ちた。


 掌底……内部に留まる打撃なら効果ありね。

 

「さあ、続けるわよ? アンタの核は捉えきれ無いけど……掠めて効かせるぐらいは簡単だからね」


 こっちを見上げてくる眼が死んでない。まだ笑う余裕もあるか……。いいわよ、私もまだまだ殴り足りないし。


「良い……本当に良い。堪らないよ。今から初夜が楽しみだ」


 ショタも趣味じゃ無いし、枯れ専でも無いし、神様も好きじゃないの。 フ、ツ、ウ。普通が良いの分かる?


 無防備に立ってきて、相変わらず舐めてるその態度、反省してもらうからね。


「この、アホ神っ!」


 【転】で側面に回り込んで視界から外れる。中段掌底を腕の付け根めがけて突き込む。体勢が崩れたところに【足撃ち】! 顔面クリーンヒット!


 引き手意識強めで衝撃が内部に残るように撃てた。効いてるっ!


「ぐあっっ! ……肉弾戦では敵いそうにないか。しかも感知出来ないとは。……なら、これはどう捌く?!」


 体当たり?! 避けきれない——ガードはなんとか間に合ったけど……! 体重差があるせいで身体が浮いて吹き飛ばされるっ!


 追撃!? もう一回体当たりで突っ込んできた! これもなんとか両手でガード。


 ——衝撃を殺しきれなくて少しばかり身体に負荷がきてる。……そろそろ決めに行かないと。

 





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ