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六十 〜勝算 その一 〜


「堪忍してくれーっ!」


「よいしょぉっー!」


 仕上げの三回転っ! ……はぁーすっきり。降ーろそ。


「ぐぅ……」


 この程度で目を回すなんて情けない、それに優しく降ろしたでしょ……といいつつ私もちょっと目が。


「八尋ぉ何で止めてくれんのじゃあ」


「ふぅ。すまない玄武。ちょっとそれどころじゃ無かった。……良子さん。ありがとう、とても美味しかったよ」


「……そ、そう? 良かったわね?」


 あれ? あれ? あら? なんかいつもと違うんだけど、ど、どうしてそんなにみてくるの、の、の、の、ど、ど、ど? ど?


「ちょっと儂も攻め過ぎた……。ところで八尋よ。そこで誤作動しとる嬢ちゃんじゃが、オーディンに喧嘩を売ると息巻いておっての……何とか止めれんか?」


「……? 誰が何をです?」


「だから嬢ちゃんがオーディンに喧嘩を売ると息巻いておる」


「最高神クラス!! あの予知だっ! ……ごっ、ごほっ!! はぁ……ハァ……!」


 ど、ど、ど、——! 戻った! ……誰が誤作動か。何故か知らないけど混乱しただけですぅ。……あら、八尋。咳き込んでどうしたの?


「はい、ハンカチ。洗って返しなさいよ?」


「すみません。良子さん……以前お話しした予知を覚えてらっしゃいますか?」


 唐突に真顔で何かしら? 予知? そういやなんか言ってたけど……。


「……えっと、何だっけ?」


「良子さんが強大な存在と戦うという内容の予知です」


「ああ、何となく覚えてるわよ」


 そういや、あの時にそんなことを言ってたわね。


「オーディンがその相手です」


 珍しく断定的ね。まあ、この流れならそうだろうけど。

 

「私が見た予知は全て関連性があると見て良いと思います。最終的な私の目標である、月への到達も良子さんに提供して頂きました、龍金で手が届く所まで来ています……ごほっ……ふぅ」


 ほら、そんなに喋ったら、また咳きこむわよ? 背中さすろうか?


「もう、そうとしか考えられません、良子さん。EIMが全面的にバックアップします。やりましょう」


 だから、いやマジで……その、視線をですね外してくれないかしら? あと手を握るのはほら、アレよ。あれ……——水嶋? 準備出来たのね。ナイスタイミング。はいよー。おいでませー。


「水嶋が出てくるって……」


 ……何とか手を離してくれたわね。


 ところでわたしの影ってどうなってんのかな。かめかめとか紫苑は影より小さいサイズだから、そのまま出てくるけど水嶋出てくる時って、よく見たら影が大きく広がるのよね……。


 これも開発部署の人達に見られたらマズイわね。あいつらカジュアルに解剖させてくれとか言うし。


 きたきた。出てきた。ヌルーっと出てきた。そういや影の中を通る時どんな感じなんだろ。あと途中で暗闇になったら影消えちゃうけど、そういう時はどうするんだろう。


 こういう不思議案件って聞けばアクアが丁寧に説明してくれるけど、イマイチ理解出来ないのよね。


「参上致しました」


「お疲れー。ありがと。薬は渡してあげてね。それと八尋も協力してくれるってさ」


 おっ! 良いわねその顔。だよねー。やる気みなぎっちゃうよね。今回、あの場に居なかったせいで、私よりも怒りの度合いは強いもんね。


「我が君への許し難き無礼の数々、輩めが償う時が来ましたな。八尋、協力感謝。我が一族秘伝の賦活剤だ。使ってくれ」


「——これは! こんな、貴重なものを……回復する時間が、今は惜しいのは間違いありませんが、それにしてもこれはやり過ぎでは? 本当に良いんですか?」


「構わぬよ、我は使うことも無い、まだ残りもある」


「では、遠慮無く頂きます」


 わぁー。やっぱりその薬持ってきたのね。前に見せて貰ったけどさ。それ、控えめに言っても、時間の経った生魚の臭いなんだよねー。


 水嶋が前に勧めて来たけど秒で却下したもの。色もイケナイ色合いしてるし……そもそも子供が作った泥団子にしか見えないのが一番良くない。


 おっ! 一気にいった! 


「ぐおっ……!」


 ほら。うっわー。でも、凄いわね。飲み込めてるし。……まあ、アレを咀嚼する選択肢は無いと思うけど。


 わっ! 髪の毛逆立った! 血管浮き出てるけど大丈夫なの? 八尋、爆発したりしない?


「………地精寿楽」


 出た! カッコいいやつ! ねぇ、その印? どうやんの? ……薄ら全身光ってからのー?


「見るからに元気になったわね!? 今のは何の仙術?」


「これは契約している霊獣に肉体を再生する様にお願いしたんです。代償となる気力は水嶋さんに頂いた賦活剤で何とかなりましたので。水嶋さん、ありがとうございました」


「いい、薬は気にするな。……やはり萎えた身体もソレを飲めば即座だな。味は思い出したく無いが」


 何とか飲み込めるレベルだと、実は泥団子が一番現実的な味らしいのよね。最上級はどんなのか聞いた時、答えなかったもの。


 最上級の効能としては、切れてしばらくした様な腕でも生えるとか、笑っちゃうぐらいの効き目だとのことだけど。


 ただし十日は口から異臭がするってさ。多分、私が大怪我とかすると無理矢理に……考えるのやめよう。それに家の薬もあるしね。


 でもあれ材料高いのよね。水嶋の方のは安いらしい。……うん、原料怪しい。結論、怪我ダメ絶対。


「誰も儂の話を聞いてくれんのぅ……正気かぁ? 本当に神格の中でも一等強いんじゃぞ? アレ」


「安心しなさいよかめかめ、今日は胸肉と腿肉、両方塩焼きにしてあげるから」


「違うんじゃっ……! 儂ゃ、そんな事は言っとらん!」


 なによー。裏返ってお腹みせてジタバタしてさー。まったく、弱気亀ね。心配してるんだろうけど、我等に秘策有りよ?


「私達で考えた戦闘プランを水嶋から八尋に披露して貰えるかしら」


「御意。八尋よ、聞いてくれて。先ずはあの痴れ者を誘き出す。これについては異界に入る形を取れば良いと考える」


「異界に? ……策が?」


「うむ。続けるぞ。異界に入ったあと、我と紫苑は領域を作りその維持に専念する。異界で有ればそれに必要なエネルギーは少なくて済む。一両日で有れば維持が可能だ」


 水嶋が八尋の前で霧のように変化する。これ、アクアと再接続してから出来るようになったみたい。前はゲル状というかスライムみたいな変化だったからね。


 この状態で戦いのフィールド、それ自体になっちゃう作戦。半径百メートルぐらいの範囲を水嶋という存在で覆う。


 その中ではいくら最高神といえども大規模な技は出せない。術に干渉するとか言ってたけど。


「我が君の気配をあの痴れ者は覚えている筈。異界を作りそこに留まれば、すぐさま飛んでくると思われる。また前回の件から無警戒で領域に入って来るであろうとみる」


 アクアいわく、匂いを覚えられてるとかいう、ちょっとじゃなくて相当嫌な覚え方されてる……ところで、水嶋。どっから声出してんのそれ。


「可能性としては……そうか、あの時も距離は離れていても追いかけてきましたね。索敵能力は高いのか」


「領域内で有れば、大技は使えぬ様に邪魔する事はいくらでも出来る。放つ前の溜めは御霊の記憶から推測ずみで対応可能だ。後は我が君、自らでお裁きの鉄鎚を下して頂くのみ」


 八尋は難しい顔してるわね。納得するほどの作戦でもないし。ざっくりし過ぎてるから当然ちゃっ当然だけど。


「……明確な隙があるものは対処出来るのでしょうが、仮にも最高神クラスの放つ攻撃があれだけとは……それに、いくら良子さんといえども山を削る様な威力を持つであろう物理攻撃を捌き切れるのですか?」


「捌けぬ分は御霊が請負う処理術式を組んだ。幾ら最高神の攻撃といえども世界そのものである御霊を——」


「ちょっと待って下さい……! それは御霊と同化するという話ですか! かっ……は……」


 そんなに声出しちゃダメだってば……。立とうとしないの。座ってなさいよ。もう。


 まだこっからだよ。作戦の肝は。


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