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五十九 〜りょうこちゃん、いらいら。〜


 金属がぶつかり合うような音が開発室に響いて鳴り止まない。結晶に入ったヒビはその音が鳴るたび大きくなって、全体に広がっていく。


 ありゃー。やっちゃったー……。


「どうしよう、中の八尋にまでヒビが入ったりしないよね?」


「たぶん、大丈夫じゃと思うが、嬢ちゃんじゃからなぁ……」


「そこは嘘でも大丈夫だと言い切って欲しいわね……」


 だから、そのため息吐きながら首を左右に振るのをやめなさいって言ってんの。わたしが悪いのは分かっててもムカつくものはムカつくのっ!


「出てくるぞ」


 ——ひときわ大きな音が響いて、ああ……良かった、結晶は細かく砕けてバラバラだけど八尋の身体は無事だ。


「か、はっ……はぁ! はぁ、はぁ……玄武……状況は」


 すぐにかめかめに現状確認できるあたり、意識もしっかりしてそう。マジでほっとした。脇汗やっば。


「安心せい。嬢ちゃんのお陰で上手くいったわい、今も解呪を早めてくれたしの」


「良子……さん? 菖蒲……そうか……」


 …………あれ? ちょっとだけ、ほんのちょっとだけどイラっとした。 何だろう、この気持ち。


「それでどうする? 術をかけ直すか?」


「……」


 なんで八尋は押し黙ってるのかしら? そもそも何? 術? なんのために? 前から何回もお願いしてるけど私を置いてけぼりにして遊ぶのやめてくれない? 


「いや……かけなくて良い」


 なんでわたしを見上げながら言うのよ? かめかめに向かって言いなさいよ。かめかめも、「うむ」とか言って頷いてないで。

 

 というか、それよりも。喋れているけど八尋はかなり消耗してる。早く安静にさせないとダメね。


 ——水嶋から思念? どしたん? いい薬がある? 準備できたら持ってくる? はいよー。


 回復手段ゲット。さっすがミズエモン。ひと安心ということで……あっ、そうだ連絡入れなくちゃ。


「取り敢えず会長呼ぶわね、すんごい心配してたんだから謝んなさいよ」


「それは勿論です……」


 とりあえず会長コールっと。お電話させて頂きましょうかね。んーと。


『……プッ……篠塚です』


 はっや! いまワンコールなかったんじゃない?! よーし、それなら私も速攻で。


「おはようございます会長。向井です。速報。社長復活」


『無事なのですねっ! すぐにっ!』


 ちょっと! 会長!? 焦っちゃ——もう通話きれてる……。多分、休みでも会長の一声で動いちゃう秘書の藤間さんが駆り出されるだろうから、フォローのメールしとこ。


 【藤間さん、お疲れ様です。向井です。会長は社長が目覚めて大慌てですが、焦らず気をつけて送迎お願い致します。】


 これで通じるでしょ。


「よし。あとあれだアイツらだ」


 社内用のチャットアプリをタップ。……ワレモノシールと割れた結晶の破片を写真に撮って、スレッドにぺたーっと貼り付け。これで大体伝わるっしょ。あとは。


 【イタズラしたやつ、自首推奨】


 よし。ナイス文言。送信。さてさて、ひとまず仕事完了。——『なぜ日曜に出社したのか聞かれる筈』あら? アクア。……そうね。どうしよう。めんどくさい。


 その話してきたら殺気ぶつけて黙らせようか。下手なことを喋るとボロが出るから、力技でゴリ押しが最善のような気がする。良し、聞いてきたら威圧で。

 

 そうだ、アクア。貴女もう、わたしを薄く覆うその状態じゃなくてもいいでしょ? 出てきたら?


『なるべく長い時間継続できるように練習中』


 そうなの? まあ困ることもないからいいけど。


 ……とりあえずお粥作ろうかな。いくらなんでも二週間ちょい飲まず食わずで、いいわけないし。味のしない、うっすーいの作って持ってこようっと。


「かめかめ。お粥作ってくるから。もし誰かが来たら給湯室にいるって言っといてね」


「うむ。嬢ちゃんは優しいんじゃが、そう見えんのと見せようとせんのが玉に瑕じゃ」


 半目半笑いでこっち見てくるその顔。何よ。分かった様なこと言うじゃないの。


 ……もう。うるさいかめかめは放っておいて給湯室へ行こうっと。


 ◇


 確かこの辺りに冷凍したお米を………良し、誰も食べて無かったみたい。ちゃんと残ってる。そして私が持ち込んだカセットコンロ。


 かめかめのご飯作る用に持ち込んだのよね。私としては社内食堂でお昼済ませたいけど、かめかめ連れて行くわけにはいかないし。


 冷蔵庫に出汁があるはず……誰だ、ビール置いた奴。仕事する気ないじゃん。


 見なかったことにして、出汁は……顆粒あった。もうこれでいいや。お鍋にお水、お米ドーン。良し。コンロのガスは新品。カチっと。煮えたらサラッと出汁入れて完成、お手軽ぅ。


 十分ぐらい煮たらいっか。火加減バッチリあとは待つだけ。

 

 まだぬるいよねー……。



 まだかなー、五分ぐらいたったかな?……。



 プツプツ端のほうが泡立ってきた……。



 ……あー、やっぱ無理。気にならないかと思ってだけど、ダメだ。


 さっきあいつ(八尋)ずっと私のこと見てた。悲しそうな顔しながら、菖蒲って言った。誰なのよ。

 ……かめかめもその時はふざけたりしなかったから、きっと大事な人。……わたしの知らない人。


 何でこんなにイライラするんだろう。……まさかだけど、もしかして。


 ……好きなの? ……分かんない。でも知らない女の人の名前を聞くと、いや違う、あの顔が。


 ああああっ! 何なのよ! 私! 本当に八尋のことを? いやそれはない……ないよね?


 手を繋ぎたいとか、触れ合いたいとか。そんな気持ちないもん。最近じろじろ見てくるのも、私を観察してるからだろうし……。


 八尋も好きとかそんな気持ちないよ。あくまで仕事の相棒とかそんな関係。うん、きっとそう。わたしのイライラした感情も、教えてくれないことがまだまだ多くて、信頼されてないかもってことから来てるに違いない。


「うん。そうね。きっとそう……」


 でも……ああーっ! 分かんないっ! こういうのは一回、桜花に話を聞いてもらいたいっ!


『良子』


「アクア? どうしたの?」


『鍋』


 ——おっと! どれどれ。あっ、ちょうどいいわね。ちょうどいい……。


 ◇


「はい! どーん! 出来たわよ。まず水飲んで。少しだけよ、含むぐらい」


「頂きます……」


 あっ! 少しだって言ってんのにごくごく喉鳴らして飲まないのっ! 


「心配せんでも仙人はこの程度でくたばらん。身体もわしらが強くしとるからの。……嬢ちゃん。何故、髭を持って、ぐわぁー! ふ、り、回しちゃ! いかん!」


 ホントこの亀はっ! いちいちドヤ顔で!


「お仕置きジャイアントスイングっ!」


「……これは、沁みますね」


 でしょ。でも、一気に食べすぎ。知らないわよ、いくらお粥だからって、そんな食べ方したらお腹がびっくりするんだから。


「ゆっくり食べないと——だめっだって! そうだ——真由美さんにも——連絡しなきゃ! てか八尋——あとで電話しなさいよっ——紫苑も待ってるし!」


 回りながら喋ると舌噛みそう。


 ……にしても、そんなに美味しい? 返事も忘れて食べてる。あっ……首だけコクコクして頷いてる。聞こえてたのね。


「——嬢ちゃんっ! 儂が悪かったから——止めてくれっ!」


 だめ。あと十回転は続ける。反省しなさいっ!



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