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五十三 〜オーディン襲来〜


「かめかめー。現状を簡潔に解説してちょうだい」


「なんじゃ突然……昨日スレイプニルに乗ったオーディンに襲われて、八尋が封印された。飛行機が墜ちた。ありえん着陸をかまして森で遭難中。……ほれ、薪はこんなもんで良いか」


 森。深い森。絶賛サバイバル中。現状確認完了っと。


「ありがと、じゃあ火を付けて貰える?」


 かめかめーの口から小さな火の玉がボワっと。便利よねー。火口に準備しておいた枯れ葉が、勢いよく燃えて薪に燃え移っていく。次々に枯れ葉を投入して……こんなものかな? あとは枯れ枝を適度にと。


「アクアは魚採りが抜群に上手いのぉ。ええサイズで十匹はおる」


「凄いわね」


『これ得意』


 墜落現場からさほど離れずに水質が良さげな川があったのは運が良かった。しかも魚影が濃くて、アクアが触手でささっと捕まえてくれたのよね。


「蔓と葉っぱで屋根付き寝床とは、見事じゃな」


 パイロットと乗務員の人たちは墜落中にアクアが空中で回収して無事だけど。紫苑が作った寝床で横になってからは起きてこない。


 そりゃパラシュートなしで何千メートルからフリーフォールして気を失ったうえに、目が覚めたら遭難してるだなんて疲れるわよね。


「紫苑、器用ね。ホント助かるわ、ありがとね。後は塩だけど、森の中じゃ手に入れらんないわよね……このペン使って……」


「使うてはならんぞ。待てば良い状況なのだから、わざわざ世界の理をみだりに書き換えてはならん」


 ペンを取り出して呟いてたら怒られちゃった。


「わかりました〜っ」


 べーっだ。口うるさいかめかめね。


「嬢ちゃんは本当は賢いんじゃから、わかるじゃろ。大きな力には大きな反動がある」


 このかめかめ、私のコントロール方法を習得しつつある……。

 分かってるわよ、だからそんな真剣な目付きで見てこないで。


 ーーそれにしても。十メートルぐらい先の地面に突き刺さってる八尋は、見事なオブジェね。


 透明感のある、緑水晶みたいな中に閉じ込められちゃって。その状態で逆さまに地面に突き刺さってるの、現代アート感強め。


 オーディンの攻撃を防いだけど、その代わりに水晶漬け? 意味がわからない。まあ、いいや。かめかめの話なら二週間ぐらいで復活するらしいし、考えても分からないし、ご飯食べよ。


「魚は枝に刺して串焼きね。じっくり待つのがオススメよ。ちょっと味気ないけど、今は我慢ね」


 明日は道具探しかな。飛行機の残骸に何か良いものあればラッキー。


「あと三、四日で八尋の会社から救助の人員が来るじゃろ、それまでは何とかなりそうじゃな」


 がぶぅっとかぶりつくのはいいけど、それまだ生焼けだってば。紫苑とアクアはかめかめの真似しちゃダメよ。

 

「そろそろ頃合いね、はい、アクア。紫苑はこっちのやつ」


「主神クラスの襲撃を受けて誰一人欠けずに無事なんじゃ、これ以上はちぃと高望みじゃ」


 食べながら喋んないでよ。


 国外活動時、定期連絡が途絶えた場合は自社衛星(!)経由で八尋の携帯端末か私のメイド服に仕込んであるGPSモジュールで位置特定。救助チーム出動というマニュアル。


 自社のジェット機落ちてるし、社長の安否不明だし。今頃大慌てですっ飛んで来てる筈。


 ……水晶の中でキリッとしたお顔で固まる社長を見たとき、救助隊の人たちどんな反応するかな。ああ、やだなぁ。ちゃんと説明出来る自信がカケラもないよ。


 それと、少し先の岩場を登るとこから見える真っ二つになってる飛行機。最新の技術がうんたらかんたら……開発費いくらだっけ。業績とかに影響出ないかな……。

 いや、死人が出なかっただけで良しとすべきところかしら。


 現在地は不明。ヨーロッパのどこかと思うけど、離陸して一時間ぐらいであのオーディンとかいうボケナスジジイに襲撃されたからね。


 水嶋との影倉庫も、一時的らしいけど使えなくなってるし……。

 主神だかなんだかの呪いか知らないけど、次会ったら絶対にっ! 絶対に顔の形変わるまで殴ってやる。


 ……替えの下着も影に入れてたのよ。許すまじオーディン。


 



ーーーーーーーーー



「昨日のお店。私ああいう雰囲気のお店好きかも。家庭的だけど、ちょっと洒落てて。でも気軽に入れる感じとかすごく好き。料理も美味しいし、なんだか温かみがあって、私的には今回一番の収穫ね」


 飛行機の乗り方というか、恐怖心の和らげ方がわかってきた。喋ってると誤魔化せるのよ。アクアの脳内物質コントロールありきだけど。


 あと、この搭乗してる機体。最新鋭だけあって揺れとか音とか静かなの、とってもグッド。

 

 行きは余裕が無くて確認も出来なかったけど、二列に並んだ機内の座席は大きいし通路は広いし、映画で見たことがある、なんだっけあれ、なんちゃら専用機。思い出せん。とにかくセレブ。


 行きと違って、アクアと紫苑に手を握って貰わなくても平気なぐらいにはなってる自分を褒めたい。


「当社自慢のジェットも、あのお店には負けてしまいますね。それも仕方ありませんか、昨日は私も随分楽しかったですから」


 八尋は酒豪。仙術でズルしてる疑惑あるけど、顔色一つ変えずにグイグイ飲んでた。今も顔色は……色黒だし分かんないや。笑ってるし多分元気。


「ねぇ? 菖蒲(あやめ)って誰なの? かめかめにワインとよく分からないお酒をチャンポンしたやつ飲ませたらベロベロになって、うわ言で呟いてたんだけど」


「玄武め……」


 聞いたことのない名前だったから、気になって聞いたけど、どちゃくそ地雷やんけ……。めっちゃ真顔やん。やっぱあの亀はロクなモンじゃねぇ。今は昨日の酒がとか言ってお腹みせて寝転んでるし。


「ごめん。いまのなし」


「いつかは話す機会があるかと思います……その時は……」


 そこまで深刻な顔になる話題だったと、もう今後も聞くの辞ーめ……っ! ーーえっ!? なにこの気配っ! ヤバいの来た。気当たりのプレッシャーが半端ないっ!

 師匠が本気出した時ぐらいの絶望感と同じレベルを機外から感じる。空中で? どういう事?!


「八尋! 何が来たの?!」


「最悪のパターンです……スレイプニルが主人を呼びました。ここまで執念深いとは」


 よりにもよって今来なくてもいいじゃん……私さっきまでお喋りで誤魔化してた恐怖心が暴れ出してきて、ちょっと泣きそうなんだけど……。


『ーーーーー! ーーーー! ーー!』


 何故か機内にまで響いてくる謎言語。何言ってんのか分からない。多分怒ってる? 


「八尋マズイぞっ! 受肉こそ終わっておらんがありゃ、殆どオーディンそのものじゃ! 槍が来おるぞ!」


 寝転んでたかめかめが跳ね起きて叫ぶ。槍? どこから? 紫苑もアクアも窓の外見てるっていうことは、その先にいるのね? ……空の風景が目に入るの怖いけど……見てみよう。


 機翼の上……ちょっと身体が透けてる、眼帯、髭のムキムキしたマッチョじいちゃんが昨日のスレイプニルに跨って喚いてる。

 ハリウッド俳優みたいにダンディだけど羽織ってるローブのコスプレ感がイタイ。


『ーー!!ーー!』


「ーー不敬なっ! 我が君。あのような痴れ者は即刻消滅させるべきです」


「落ち着いてちょうだい、紫苑。何言ってるか私には分かんないから無視して放っておけばー」


 目の色を真っ赤にして激昂する紫苑をなだめようとしたとき、八尋が叫んだ。


「ーー間に合えぇっ! 呪回千変(じゅかいせんぺん)!」


 八尋が何かを受け止めるような仕草で手を伸ばした瞬間、爆音と光が視界を埋め尽くす。


「八尋っ!」


 金属がひしゃげる音があちこちで鳴る。暴風が機内を駆け回る。視界の先……機体に空いたらダメな穴が空いてるよっ! 機体の揺れも絶対ダメな強さで揺れてる……。


 五メートル先、穴の空いた箇所からは外が見えてる。その前にいる八尋は身体から煙が出てるし、足下にはよくわからないものが……。


 あと私も身体に違和感というか、みんなとの繋がりが……いつもより細くて薄い? 身近に感じていたものが遠くにいった感覚がーー


「良……さん……っ…聞……い!」


 八尋が何か言ってるけど、暴風で聞こえてこなくて、大声で返す。


「八尋! 無事なのそれ! 足元からなにかが一杯まとわりついて来てるわよ!!」


「だ……っ! 影響……!」


 影響? みんなとの繋がりのこと? 今はそれどころじゃないわよ!


「そんなことより! このままじゃ飛行機が墜ちるってばっ!」


 機体が傾いて下降を始めてる……。


『ーー!ーー!』


「何言ってるか分かんないけど! やめてってばっ!!」


 また、機内に響く喚き声。


 風穴からみえるオーディンの手に白い光が集まって、どんどん大きくなっていってる。

 だめ、身体が動かない……。


「良……さ……あと……」


 八尋がこっちを見て何かを言った。相変わらず暴風で何も聞き取れないけど、その顔はだめ。だめだって。


「ダメよっ!!」


 両手を広げた八尋は、光が溢れる穴に向かって向かって飛び込んでいった。その直後、さっきを超える大きさの爆音と光が、再び辺りを埋め尽くした。





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