五十二 〜スレイプニルとの戦い〜
やっぱり、離れると火を吐いてくるっ! とはいえど当たらないから脅威度は低め。引きつけてから避けれる速さだし、着弾した後に弾ける土とか石に気を付ければ事故もない。
相手の速さも慣れてきた。
攻撃のパターンはそこまで豊富じゃないわね。戦い慣れてないというかゴリ押し戦法しか知らない感じかな?
じゃあ、最終確認開始ということで、色々試してみようかなっと。
火の玉を避けたあと直ぐ、もう一度間合いを詰める。私の速さについてこれてはいない、一拍遅れの反応。素直に正面から入ると……噛みついてきた! けど、躱しやすい。足場が悪いのと、トゲトゲ注意だから、掠めるような避けかたはせずにっと!
我ながら有り得ない空中機動でスレイプニルから再度距離を取る。相手から見たら、空中に飛び上がったと思えば、逆さまに落ちながら何故か後退していくという謎ムーブからの着地。
【空転】は本当に便利。まだ師匠みたいに空を飛ぶような事は出来ないけど。
もう一度間合い詰める。正面から変化を付けて横に回り込む。この動きに対する反応で、ほぼ見切りは付けられるはず。
「この距離に留まると、蹴ってくるわよね」
至近距離になると、八本足が関節構造を無視した可動範囲で蹴り込まれて来る。
なんだろう脚というか鞭? これでもかって具合にしなる。
しかも、やみくもじゃなくてこっちの動きをちゃんと見ながら当ててこようとするのよね。
避けた先に脚を置いてくる様な攻撃。まあ、これも避けれるし、避けたついでに手を添えて、流してやればバランス崩れて、攻撃中止。なるほどね。
攻撃を誘発させるためにその場に留まる。体勢を立て直したスレイプニルは蹴りを連打。それをフェイントにしつつーー慣れたところに溜めなしのヌメヌメトゲトゲっと。
規則性は無くて、お腹から脚から急に生えてくる。普通の相手ならこれで仕留めて終わりだろうけど。私には通用しない。他は?
無いかな? 無いなら最終確認完了。亀のリクエストも来た事だしデカイの行っちゃうよ?
と、いっても。私、派手な技とか辺りを巻き込むような技、あんま無いのよねー。基本殴る蹴るだしね。どうしよう、さっき亀の「いけるかっ!?」に、「おうっ!」って勢いよくテレパシーお返事したのはいいけど、地味な技だし披露するのが少し恥ずかしい。
「見栄えの良いのは、アレかなぁ、いやアレだと消し飛ぶかも? 加減難しいしなぁ。……そういや中身どうなってんのかも調べないと」
というわけで、軽く殴りまーす。一瞬距離を空けてからすぐさま相手の間合いに再侵入。
予想通り、お決まりの脚攻撃でお出迎え。半身で前に入って避けつつ、腰は入れずに手首の返しで、ジャブ気味にお腹の辺りを左右の連打!
「グルゥゥぅアアアァァ!!」
スレイプニルが私の打撃に後退り、身悶えながら吠える。
立ち上がって踏み潰そうとしても、私は既にそこからは離脱済み。
いやー、我ながら乾いた良い打撃音鳴らしたわねぇ。
亀ー。そろそろだかんねー。
「八尋、嬢ちゃんが軽めと言って良いか分からんが、拳打でダメージの通り具合を確かめとる。大技が来るぞ。儂は準備できとるから合図で撃てよ」
「ああ、こっちも問題ない」
軽く殴ってみた感じ、中身はお肉だね。気の通りからして肉にそのままダメージがいく。と、なるとあの技で決定。
もう一回接敵。からの、躓いたフリ。わざと誘うように体勢を崩せば……私の顔面に蹴り込まれくる脚! 狙い通り。
しゃがみ込みながら脚に手を添えて流すーースレイプニルがガクンとぐらつく。バランスが崩れて転倒しないよう精一杯よね。この体勢からは反撃が来ないのは確認済みーー絶好のタイミング! さっきのジャブ、腰を入れて本気で撃つ!
「ただの連撃改め! 発破撃ち!」
誠司兄ぃの得意技。 別名【血抜き】!
パーーンという乾いた音が、立て続けに八回鳴り響く。身体の側面、殴った八箇所が拳の形にへこんで……良し。完璧。距離を取って、さようならっと!
とにかく離れる事を念頭に直線的に後退しつつ、亀……そろそろ呼び方定着させたいわね。……玄武? なんか偉そうムカつく、亀爺……可愛いさが足りない。
……(かめかめー)閃いた! これ、いい呼び名ね! この呼び方なら優しく出来そう。今度からこう呼ぼうっと。てな訳で、かめかめー。カウントダウンするから。あとはそっちでお願いね。
「八尋、来るぞ。今じゃっ!」
「ギュウァァッッアアアアアッッッ!!」
【空転】で湖底から八尋の背後、アクアと紫苑がいる場所の手前まで来たと同時。かめかめーの掛け声と響くスレイプニルの絶叫。
うるさっ。全身から煙みたいに血か何かが吹き出てる。いや、赤くなくて緑なんだもん。体液? まあ、とりあえず上手く行ったかな? 野生動物の血抜き用に使う技だけど、効果あるみたいで一安心。
見るからにふらついているし。大技決めるなら今ね。
「玄武!」
「応!」
八尋の掛け声に応えて……かめかめー巨大化! 大きく開いた口からバリバリ出た雷が、スレイプニルの周りを囲うようにグルグル。私の語彙力、凄くない?
『凄い』
「素晴らしいです」
いや、アクアちゃん、紫苑ちゃん。そこはスルーして欲しかったの私。この思念共有システム、プライバシー設定出来ないかな……。
とか何とか考えながらアクアと紫苑の横に着地。
「地縛雷封呪!」
八尋が声を張り上げながら、例の動作始まりました。やり方きいても教えてくれないから、いいもん、見て覚えるもん。手を複雑に動かしながら印を結び、最後にギュッと手を握り込んでーーおお〜っこれはカッコいい! 技名に負けてない! 雷の四角い檻みたいなものに変化した! 格子がパチパチと放電? していて触ると感電しそう。
スレイプニルは……大人しくなったわね。暴れるかと思ったけど、勢いが弱まってきた血煙を身体から出しながら檻の中でこっちを見てる……あっ。諦めたわね。しゃがみ込んで目も閉じた。
「上手く行きました……早急に引き上げましょう。二、三日はあの封印を破る事は出来ないと思います。離れて時間が経てば、役目もありますから此方をわざわざ追いかけてはこないでしょう」
八尋の目から血は出ていないし、無理はしてないみたいね。派手な術だったけど、消耗したようには見えない。みるみるとかめかめーも小さくなっていくし。
「一件落着?」
「ええ、問題ないかと」
「疲れた〜、帰ろう! 今日空港まで戻るの? それともどっか一泊? てか、森抜けるのに結構時間かかるし、例のタクシー連絡したらどうかな?」
「それもそうですね、良いレストランが無いかも聞いておきます、今夜は打ち上げをしましょう」
やるぅ〜! 社長分かってるぅ! アクア、紫苑! 宴よ。 美味しいもの一杯食べるわよっ!
「儂ビール飲む、もも肉食べたい」
……何よ、何で不満たっぷりの顔でこっち見みがら言うのよ、かめかめー。飲めば良いじゃん、食べれば良いじゃん。
かめかめーがイヤ? 何でよ。可愛いのに。




