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五十一 〜唯一無二〜


「良子さん!」


 おっ? 走ってきたわね。なんか焦った顔してるけど、見た? そりゃ見たからそんな顔か。


「おいっーす、社長。取り敢えず殴って良い?」


「遠慮させて頂きます。先程の穴と、そのペンはもしや……」


 すぐ流すー。もうちょい聞こうよ、こっちの話。

紫苑お帰りー。アクアは影から出るのね。


「ユニコーン氏が宿ってるらしいのよ、凄く無い? これ使えば、どこでもひとっ飛びよ!」


 あらら? とってもわかりやすく、びっくりしてんじゃん。


「絶対に! それを誰かに見せたり、持っている事を話しては行けませんっ!」


「ちょっ! びっくりするじゃないのよ!」


「ここまで想定外だとは……」


 いきなり大声出した癖に、押し黙ったかと思ったら「ふはぁ……」ってなに? ため息長くない? 


「こりゃたまげたのぉ。嬢ちゃんは神が造れぬモノを作りおったわ! 言うたじゃろ八尋? この嬢ちゃんは自分の事が判っとらんと。儂らでいくら隠そうとしても、絶対にこの嬢ちゃんの突拍子もない行動で露見するぞ? 賭けるか? 儂、今月のお小遣い全部」


 亀の反応を見るに大した事は無さそうね。ふざける余裕あるし。それに元々、お父さんの形見だし、知らない人にわざわざ見せびらかしたりしないわよ。


「ほれ、この嬢ちゃんの何が? みたいな顔、この反応。事態を極限まで軽ぅく見とる。八尋を見てみぃ、調停者じゃぞ? 今、この時代、最も強く優しきものだけがなれる、選ばれし者の開いた口が塞がらんのじゃぞ?」


 ……段々、不安になってきた。亀の癖に中々の語り口じゃないの。


「嬢ちゃん、知っとるか? この業界で、この男が出張って来たら、みな諦めるんじゃぞ? 未来を読める男に勝てる訳なかろ?」


「前から思ってだんだけどさ、それホントなの? 予知とか全く当たってないけど?」


「他は全部当たっとる。嬢ちゃんのだけ当たらん。この世がギリギリ、人の手に収まっておるのはこの男のおかげじゃぞ? 少しは敬意を払ってやらんか」


 あっ、お説教だ。何よ、私だって言いたいことあるってぇの、まず真っ先に言いたいのは、メイド服の件に機関銃の件でしょ? 他にも一杯。あと誰がご飯作ってると思ってんの! この亀!


「こ、これ、イカン! そんなに高く持ち上げて!振り回して落ちたら危ないじゃろ! 儂は間違った事は言うちょら〜〜〜ん……!」


「お待たせしました、現状が飲み込めました」


 何とか復帰してくれたわね。八尋がここまで思考停止するっていうのは相当やらかしちゃったかな?

 ……亀は降ろしてあげる。でも、あんまり意地悪な事言ったら怒るからね。分かった?


 あっ! 降りるなり、そんな風にして紫苑の後ろに回り込んで! 私が悪いみたいに!


「玄武は心配なんですよ、良子さん」


「それぐらい分かってるわよ……」


 ちょっと遊んだだけよ。だからそんな困った子供を見る顔でこっち見ないで。


「……まずそのペンは、良子さんが肌身離さずお持ち下さい。それは造物主、宇宙を作る様な存在が気まぐれで作るモノと同等の代物になりました」


「また、大げさな」


 半笑いになったけどごめんね? だって、そりゃないって。


「……絶対は絶対に無いと言っていた武将の言葉を思い出しました」


 私を見ながら、ため息つくのはやめようね?


「幻獣は世界に縛られた存在、ユニコーンには人間には理解出来ずとも、必ず何らかの役目を負っていた筈です。それを投げ出し、あまつさえ個人の所有物に宿るなど……。ありえないとしか言いようがありませんが……仕方がないので、無理にでも納得する事にしました」


 八尋さん超早口っす。あと、こめかみヒクヒクしてるのは怒ってる? ぐりぐり押して揉んだげようか? ……だから、黙ってこっち見ないでよ。


「まだあるのよね?」


 何か言いたそうだし。


「そろそろ良子さんとも阿吽(あうん)の呼吸となって来ましたね。嬉しい限りです。役目の件ですが、誰かがそれを放り出すと、代わりに誰かがそれを肩代わりしますよね?」


「……そりゃそうよね?」


 大事だから役目があるんだろうし。放ったらかしには出来ないわよね。


「その役目を押し付けられた幻獣は、間もなく此処に現れます」


「そうなの? 赴任してくるシステムなのね。担当者変わったんで〜って、挨拶くるんだ。何か会社みたい」


「「「…………」」」


 ……なに? なんで無言なの? まずいこと言った私? アクアも亀も八尋も、私の事すごく見てくるけど。おかしな事言った? 紫苑は何かドヤ顔だし。


「……わかりやすく説明しますと、人間の場合は前任者が仕事を投げ出しても、そこまで怒ったりはしないでしょう? せいぜい泣き言を言うか、文句を言うか、まあ、可愛いものです」


 私なら……うーん、案外仕事とかなら我慢しちゃうかなぁ? 現に今も流されに流されてるし。


「……幻獣と呼ばれる存在はこういった場合、怒り狂って供物を求めます」


 はぁ、供物ねぇ、人身御供? それ、漫画で読んだことある! 幻獣って物騒ねぇ。


 ……ところでみんな、湖の方に視線釘付けなのは、今しがた明らかに変わったこの空気感のせいよね?

 なんだ……地震かな? なんか地響きかと思ったら……爆音! 


 うっわ! 湖からすんごい噴水噴き上がって、湖の中央部が割れた! 円形になって底見えてる……何あれ。


「何かいるんだけど……」


「お出ましですね。間違って倒したりすると、またところてん式で幻獣が湧き出て来ますので、此処は一つ上手い事切り抜けましょう」


 慣れって怖いよね。現実感ゼロのこの光景に、特に疑問が起きなくなってるもの。あと間違って倒すって何? 私が?


『皆んなが良子に慣れてきて嬉しい』


 あー……。アクア? 貴女も最近いじってきてない?


「さて、良子さん」


 おっ。今回は先回りしてやろっと。


「今回は私からの提案よ。私が食い止めてる間に八尋が仙術か何かで、アイツを縫いつける感じでズドン、後はみんなで逃げちゃおう! で、どう? 出来るでしょ?」


 多分だけど、今のまま逃げてもすぐ追いつかれるでしょうね。見るからに足も速そうだし。敵意もこれでもかっ! てな具合にムンムンだし。絶対、素直に逃してくれない。


「その類の術は得意ですので、素晴らしい作戦かと。因みにですが、ユニコーンが死ぬ前に角を折る事が出来れば、素材として回収出来ましたし、ユニコーンは再び現界のサイクルに入り万事上手く収まったと思います」


 「あっー! あっー! いっけないんだぁっ! 終わった事を蒸し返す様な事を言っちゃ、人間関係ってやつが上手くいかないのに!」


 ……取り敢えず今ので、八尋が思わず嫌味を言っちゃうぐらいのことをしたのはわかった。謝らんけど。知らんがな。……やっぱ後で謝ろうかな。


「ところでさ、アレは何なのかしらね? 馬? 足が沢山あるわね?」


 こういう時は話題を変えるのが一番。


「八本足……残念ながらスレイプニルですね」


「カッコいい名前。強そう。……残念? 何が?」


「時間制限縛りまで出てきました、あの馬は神の乗り物です。あの馬に乗るべき神が、すぐにでも現界してくるやも知れません。神話の主神クラスですから、蹴り一つで山が形を変えるとかそういった類の神です……」


 ささっと終わらせないと不味いと言う事ね。


「……やるしか無いんでしょ? 取り敢えず足止めしてくるから後、宜しくね。 アクアと紫苑は八尋のお手伝い」


「承知致しました」


「じゃあ、行ってきまーす」


 こういう時便利な【(まろばし)】。目標、割れて戻る気配のない湖の底! よいっしょっと。




「あの幻獣、噴き上がる様な気勢じゃぞ。嬢ちゃんは、あんなの相手に散歩でも行く気軽さで突っ込んで行きよる。それにあの移動方法……反則じゃろ。足場とか重力とか無視しとる」


彼女りょうこさんの判断に従うさ、それが一番の結果を引き寄せる筈だ」


「まあ、それもそうだの」


「さて、俺だけの属性封印だと相性が悪そうだ。玄武の属性なら相性が良い、力を借してくれ。それと、彼女(良子さん)がスレイプニルを叩いた後を狙う。俺は術式構築に専念するから、術を放つタイミングは玄武が教えてくれ」


「承った」




 馬っぽいヤツの前まで到着ぅー。……結構、底が深い。足元は……うげぇ、ぬちょぬちょしてて踏ん張れそうにない。ここまできた方法ーー【空転(うつろまろばし)】ーーで踏み込み続けるしかないか。


「グルゥぅァァァァー!!」


 大気を震わせる程の唸り声。威嚇には充分ね。

 ……身体の色、何色よソレ。紫? ドドメ色? 緑? 見る角度で体色が変わるのね。それにしても、近くにきたら分かるけど、デカい。サラブレッドの二倍ぐらいある……。めっちゃモンスター。


 とにかく今言える事は、あんなのに跨って移動できる神様と私のセンスは噛み合わないって事ね。

多脚系の造形がどうにも好きになれないのよ。馬というか虫というか……。まず色が良くないのよ、色が。


「!」


 とか、何か考えてぼんやり見てたら、スイカサイズの火の玉吐いてきた! 結構速い!


「飛び道具は卑怯よ!」


 それ口の周り火傷しない? 吐き方ががオエエッて感じだから、ゲロボールファイヤー? 長い、ゲボファにしよう。呪文みたい。


 連打してくるの、ちょっ!! 避けた先の泥まみれの湖底が抉られたみたいになってるから! そんなの人に向けて撃ってくんな!


「連射機能付き!! 八尋でも避けれる速さよ!」


 初見びっくりしたけど、慣れたら見てから避けられる。ほい、こんにちわ、足元潜り込んでみましたよっと! 近くに来たら何すんの? 手札見せてちょうだいなっ!


「グルゥぅぅギャァァ!」

 

 鳴き声、馬感ゼロ。あと湖底が臭い。気持ちが萎えそう。


「!!」


 ちょっと余裕出しすぎた! 足が一杯あって縦横無尽に蹴ってくるし、関節とかどうなってんのそれ! あと、お腹から触手みたいに伸びてくるトゲトゲっ! 


「反射で避けれたけど、ビビったー!」


 ちょっと擦り気味だった! 服は……無事なのね、ほんとうに謎素材。


「足で蹴ってくる以外は、何かトゲトゲしたのが身体から飛び出して来る! 予備動作無いから、これは要注意よ!」


 ちょっと危ないから、一旦離脱! 間合いは詰めてこない、ラッキー! でも無いか、不用意に詰めてこないのは、知能がそれなりにあって冷静ってことだし。



「……ほう、連携の為にこちらへの情報共有をしちょる。わしゃ嬢ちゃんの闘い方は初めて見るが、随分有能じゃのう?」


「俺が普段、情報を絞っていることへの当て付けが少し入っているな」


 ……聞こえてるわよ。なんでちょっと声大きくしたの。絶妙にここまで囁き声が届いて来たし。


 まあ、いいわ。気付いた? そうよ、私はどっちかってぇと、誰かの指示で動く方がちゃんと出来るんだから、フワッとした指示でなけりゃね! ホント分かってんの八尋! それと、さっき言った嫌味はこないだ見つけたスイーツのお取り寄せで手打ちだかんね!


「何か思念からスイーツ奢れとか伝わってくるんじゃが……命懸けで何であんなに通常運転なんじゃ……?」


彼女(りょうこさん)らしいな」


「……お前も存外に鈍いからのぉ、知らんぞ? 二、三年もしたら後戻りできんぞ?」


「何がだ?」


「もうやだ儂……菖蒲(あやめ)ぇ、何故儂らも連れて行ってくれなんだぁ。こんな鈍いの面倒見切れんぞぉ」


「その名前を今、出すか……」


「ふん! 菖蒲以外の女子(おなご)は眼にも入れんかった癖に、嬢ちゃんには随分、気安くしとる、自分で分からんフリをしとるんじゃお前は、今の顔も鏡で見せてやりたいわい」


「……今は術に集中する」


「そろそろ組み上がるか。嬢ちゃん!! デカイの撃ち込めるか?!」



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