五十 〜子守唄で安らぎを〜
「お眠りなさ〜い〜」
一応、雄? のユニコーン氏の目に入らないように、お顔にハンカチかけさせて貰って、服は何とか着れた。
すごい体勢だった。膝枕を維持しつつ、維持できない時はユニコーン氏の頭を手で支えながら。めっちゃ、アクロバット早着替え。結論、私凄ぇ。
ユニコーン氏の最後を邪魔しない為の、この私の努力。後でアクアと紫苑に褒めて貰おう。
よく眠れるように見送ってあげたいから子守唄を歌っているところ。音痴気味だからちょっと恥ずかしいけど。
私の膝で最後を迎えたいなんて言われたらね。
せめて出来る事はこれぐらいだから。
「朝まで〜眠れ〜」
亀と八尋からは妙案出ず、との事なので諦めて静かに送ってあげましょう。
「疲れて眠る〜その眼〜」
お母さんに良く歌って貰ったのよねこれ。覚えてないだろうけど、春樹とかこの歌聞いたら秒で寝てたし。
そういえば、帰ってから改めて大事な話しがあるとか、桜花と春樹、二人からメール連絡来たけど。
……結婚だろうなぁ。付き合ったとかならもうちょいライトな報告になるだろうし。まあ、あの関係はつついて押せば出来上がりってな具合だったしね。
……もしかして私、順調に行ったら最短で、来年か再来年辺りで叔母になる可能性あるの?! 清らかなる叔母!? 嘘、マジで? 強そう。
……何はともあれ、帰ったらお父さんとお母さんのお墓参りにいって、まず報告だね。
「明日の朝まで〜閉じたまま〜」
ねぇアクア? どう思う?
あれ? 貴女も寝ちゃうの? 眠い? とっても気持ちいい? はいはい仕方ないわね、ペンダント戻る? こっち? はいはいじゃあ、影の中でお眠りなさいよ。
「朝、目が覚めて〜」
ユニコーン氏も中々安らかなお顔だし、最後はゆっくりね。
「嬉しい〜気持ち〜」
八尋には今回諦めて貰いましょう。駄目だよ最後の最後をドタバタお邪魔しちゃ。
『……最後に貴女の様な素晴らしいレディに見送られる事が嬉しいよ。角は残せないが代わりに私自身を貴女に捧げよう』
「私、特に何もした覚えは無いから別に良いわよ?」
もう半分透けて見えるぐらいで、膝に感じてた重みも殆ど無い。何かしてくれるとしても、無理をさせたくは無いわね。
『そんな貴女にだからだ……契約は出来ないが、私が勝手についていくなら問題無いだろう』
「あんまり理解出来て無いけど?」
光の粒子? ユニコーンの全身から淡い光が立ち昇ってる。眩しいぐらいの光。
『寿命といってもこの肉体の寿命だからね。魂だけになっても時間が経てば、何処かで受肉し発生するだけなのさ、まあ二百年以上掛かるが……そんなに待てないだろう?』
「おばあちゃんどころかミイラね」
『そうだな……ははっ。……何か大事にしている物は無いかな? 貴女が良ければそれに私の魂を宿す、角よりも上質なものになる』
「大事な物……何個かあるけど」
『思い入れが深い物に宿る方が良い、貴女さえ良ければだが……』
そこまで言うなら。うーん、どれが良いかなぁ? お母さんのはアクセサリー類が残ってるけど、思い入れの深さで言うとお父さんの方のアレかなぁ。
良し、アレにしよう! お〜い、ミズえも〜ン!
『御意。我が君、そのミズエモンというのは?』
「えっ?」
知らないの? アンタそれでも日本国民なの?
何食べて生きてきたらそうなるわけ? 頭の中で喋れば良いのに思わず口にでちゃったわよ、ほんとにもう! ……あっ、そうか人間じゃねえや。神様だったわ。
こっちがスベッたんじゃないからね。そこんとこよろしくぅ。
まぁ良いや。とりあえず秒で応答してくれてありがとう。ちょっとお願いあるんだけど。師匠に言って預かって貰ってる万年筆出してきてくれる? 影経由で送って欲しい。
『こちらでよろしかったでしょうか?』
早っ! そうそう。それそれ、ありがとう。じゃあまたね。何? 『帰ってきたら話がある?』嫌よ! 聞きたく無いわ。
良い? 絶対聞かないからね。『大事な話し』? だから聞きたく無いって言ってんじゃん。
あのさ? 別に報告してくれなくても良いの。何となく分かるし、改まってされる方がよっぽど嫌なの。OK? 良し、分かれば良し。
因みに勘違いがあったら駄目だから聞くけど、師匠との事よね? うんうん、そうね、良いのよ別に私に許可とか要らないから、大人なんだし。じゃあね。
危ねぇ、危ねえ。集中力が全部持っていかれるところだったわ。
「お待たせ。これ、お父さんの形見の万年筆」
『素晴らしいチョイスだ。……慧眼まで備えるとは。私の魂が宿ったそれで描く理は、世界すら書き換えるだろう。しかし貴女以外に使われるのは不本意なので貴女の匂いを覚えておくよ……』
あの〜、そこは膝の上ですけども……お股が大変近くにありましてですね。あまり匂いとか、そういうワードを使うのは紳士協定違反じゃごさいませんこと? 匂いとか言わないで?
なんてアホなこと考えてたら、ユニコーン氏の体がほとんど透けて……!
「今から宿るの?」
『ああそうだよ……貴女の用意してくれた器に、風化してそれが無くなるその時まで』
「今日会っただけの私に、なんでなの?」
『ずっと待っていたんだ……定員オーバーなのは残念だけど。そこを破る方法もあるけど、それは趣味じゃない。君が困った時は助けになるから、起こしておくれ』
光が強まる。手に持った万年筆に、その光の粒子がどんどん吸い込まれていく。
「答えになって無いじゃん……」
『貴女はいつでもそうだ、いつだって私を優しく包んでくれる……』
最後の言葉はとても小さな声、温かい風が吹き抜けて、その言葉だけを残して消えた。跡形も無く綺麗に消えた。
悲壮感がなかったのはよかったけど、これで良かったのかな?
万年筆は何か変わった様に見えないけど、ちょっと色の深みが増した……かな?
ん? 模様……何か薄い色で模様入ってる。こんな模様無かったよ? 無事にユニコーン氏の魂が宿った証拠なのかな?
『リバレイション』
起きたのね、アクア。そんなネイティブな発音で言われても……頭に浮かんで発音付き、説明ありがと。でもね知ってる? 私、アルファベット書けるけど、それだけだからね! 起動わーど? なんの? まあ取り敢えず。
「リバレイション!」
万年筆、超光るんですけど! 先に言ってよ! 解放って意味なの? ありがとアクア。
何々? 成したい事を思い浮かべて円を空中に描く、今?
今かぁ。桜花に会いたいかな。桜花ぁ〜に会いたいよ〜っと、ぐるりんぱっと。
上手いっしょ! 私、絵とか上手く無いけどこういう円書いたりとか、図形書くの上手いのよ!
「綺麗ねぇ〜。円の周りに良く分かんない字が浮かんでは消えて幻想的だわ〜」
ん? 何か円の中、別の空間に繋がって来てる? 大丈夫なのこれ? 家? 見覚えある脱衣所、あっ、桜花の後ろ姿。
「春樹く〜ん、着替え置いとくねぇ〜」
「桜花さんもこっちおいでよ〜」
「も〜春樹くんたら〜」
「………」
血ぃ吹くで! 今から私、血いィ吹くで!
桜花に会えるけど今は会いたくない!
取り敢えずこのやばい空間を、可及的速やかに閉じたい、直ぐに、今直ぐに!
どうやんの! アクア! 早く、早く!
『閉じろ、と念じる』
念じればいいのね? よっしゃ!
閉じろ、閉じろ、閉じろ、閉じろ、閉じろ、閉じろ、閉じろ、閉じろ、閉じろ、閉じろ、閉じろ!
閉じろ!!
……閉じた? ふぅ、良かった。凄く見たら駄目なやつ見るとこだったわね!
皆さんステキな春をお過ごしでよか事ですばい。
わたしゃ、もう枯山水もかくやとばかりに、侘び寂びでございます。挙句にお馬さんにお股クンクンされちゃって、もうさ。
ねえ、見た? も〜春樹くんたら〜って言いながらウキウキだったよね? 今から下着脱いじゃうとこだったわよね!?
……あー。もう何か殴りてぇ。




