四十九 〜手段〜
どうすんの、これ?
脱線しちゃったから、もっかい整理しよう。
えーと、まず、私たちは朝になったから水浴びすっか! って、八尋と亀は「陣地構築に行ってきます」だったわね。
乙女三人になったから、白詰草っぽいやつが生えてるし、冠の作り方教えてあげて、湖も透明度すごいから、思わず水浴び。私も成人したとは思えないぐらいキャッキャしてたわ。
だってアクアと紫苑、鬼可愛いのよ? 二人の笑いながら照れるところとか見れるの今のところ私だけの特権だもんね。
女子達は勿論、水着姿ですね。水嶋宅急便にお願いしました。師匠のセンスが爆発しちゃってて、際どい感じの水着だけど、ずっと着せたかったとか言われると断れなかったよね。八尋とかの気配も拾えないぐらい遠くだし、まあ着てみようと。
そのまま遊んで一息ついたところでさ、誰も居ないからそのまま草っ原の上に寝転んでたのよね。
そしたらさ、湖から人じゃ無い気配が現れてね。殺気とか敵意は感じられなかったから、何だろう? ぐらいの気持ちで確認したわけ。
いやー、びっくり。綺麗な角付きの白いお馬さんが水面の上をカポカポ歩いて来たから。で、ぼんやり見てたら、こっちまで来ちゃって、水着で膝枕中。
陣地がなきゃ見えないとか言ってたけど、普通に出てきて見えとるがな。
『お嬢さん、膝をお借りしても?』みたいな自然なお願いだったからか、疑問が浮かぶ前にこうなっちゃったのよね。
たださ。
「ちょっと私、服を着たいな?」
『もう少しだけお願いだよ……お嬢さん、僕は疲れたんだ』
さっきからこればっか。微妙に話通じねぇし。
とりあえず服を着たいわね。割と早く着たい。
人間じゃないと言えど、言葉が通じる雄のカテゴリーの前で、この姿を晒し続けるほど私の羞恥心は死んでない。
雄? 雄よねこのお馬さん? まあ、それぐらい刺激的な水着な訳です。詳細は言わないけども。
アクアと紫苑は先に影に引っ込んで、お着替え中。ついでに亀に現況報告。今、近付いたらコ◯スっていう伝言もプラスで。
取り敢えず、次に何をすべきかが不明なのよね。だって詳細説明されて無いんだもん。何か角がいるらしいけど、ユニコーン氏はすげぇ紳士だし、邪気も感じない。
そんな相手から角? この角は折ったら駄目そうな生え方してるわよ?
それに毛並みも綺麗で撫でたげると、唇プルプルして可愛げなのよね。無理矢理折るとか、ちょっと私には出来ない。
「そう言えば何で疲れてるの?」
『もう少しで器の寿命なのさ……。千年彷徨ったが、これはと言う契約者には出逢えなかった。……貴女は完璧だけど先客がいるし、残念だよ』
思念的なコミニュケーションは世界的に流行ってんの? 日本語じゃないけど日本語で理解出来る感じが、ちょっとモヤモヤ。便利だしいいけどさ。
『ハハっ……不思議な人だね貴女は。まるで天の御使のような清らかさと峻厳さを抱きながらも寛容をも、併せ持つ……あぁ五百年早く出逢えていれば。だがこの膝で最後を迎えると思うと、とても安らかな気持ちだ』
もう昇天待ったなし! な感じなんだけど? 手詰まり感半端ない。膝の上に頭を乗せて横になってから、どんどん存在感が薄れていってるもの。
これは角とか身体とか残らない系じゃ無いかしら?
……ゆっくり最後迎えて欲しいけど聞くしかないかぁ。
「ねぇ? 気を悪くしないで聞いてくれると嬉しいんだけど。何か私の連れがね、貴方の角が欲しいんですって、貴方が眠った後に残ってたら貰っても良い? というか、どうしても欲しい場合、貴方の眠りを邪魔せずにどうにか出来る方法はある?」
『ふふ……最後なのに酷な事を聞くね……契約すれば良いけど枠は一杯だよ。僕が入る余地が無い」
なんか無理そうだけど……悪あがきはしてみましょうか。お二人さん、影から出てきて、お使いお願いね。
「紫苑、八尋と亀に今の話しを伝えてどうすれば良いか聞いて貰えるかしら、アクアはあっちの私の服を持ってきて頂戴。流石にそろそろ服は着たい」
私の説明じゃ上手く伝わらないから宜しくね!
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キャンプ地から少し離れた森の中、陣地構築が順調に進む。この調子なら一日程度は短縮出来るかもしれないと作業を続けていたら、玄武がその龍に似た顔をしかめながら、しわがれた声で俺に話しかけてきた。
「困ったのう、嬢ちゃんから今、ユニコーンを膝枕していると、とんでも情報が飛んできおった。追加で紫苑に詳細を聞けとのことじゃが……」
何回聞いても慣れない彼女絡みの予想外に集中が途切れ、陣地構築の為に練っていた術式が解けてしまう。
……困った。まさか滞在二日目で当たりを引くとは……彼女の強運、奇運というべきか、賽子の出目が細工されているとしか思えない。膝枕? どうすればそうなるんだ?
大体、遭遇するのが早すぎる、網を広げて運良く六日から七日で、炙り出すように追い込む予定が二日とは。
「……困ったな」
オウム返しで返すしか今は出来ない、知玄武と呼ばれ、あらゆる術式に精通した存在でも困る事態に出来る事など簡単に出てはこない……。
予知の範囲を絞ったのが裏目に出たか……それとも。
「兄さま」
思考を捏ねていたら、花の香りを纏いながら紫苑が背後から現れた。放たれる存在感は日を追う毎に強くなっている。神格としての力が増しているのだろう。
「紫苑! 良子さんは何と?」
「今、近寄ってきたらコ◯スと。もうすぐ服をお召しになるので暫しお待ちを。それと幻獣はあと一刻もしないうちに最後の眠りにつき、その身体は風化して行くと思われます。それと、我が君は安らかな終わりを汚す無粋は好ましくないとお考えです」
敵意の見えない相手に対して彼女ならそう考えるだろうな。しかも時間はないと来たか……。
「ありがとう紫苑、少し考えてみるよ」
紫苑からもたらされた情報で、状況をどうにか出来ないか再度思考する。
ユニコーンに近づく為には清らかなる人間の乙女である事が絶対条件だ。適任は彼女しかいない。
角は折ってもまた生える、そして気性は荒いと伝承で確認出来ていた。近づいてきたところに乱入し、捕獲後に折る予定だったがこうなるとは……。
聞いた通りであれば、無理強いは出来ないし、させたくはない。
だが、恐らくこのまま彼女の膝で息耐えた場合、角は残らない。
しかし、ユニコーンの角は何としても手に入れたい、ユニコーンが持つ拒絶の力、対象以外を弾くその性質を体現する角。これがあるのと無いのでは月での目標達成難易度が大きく変化する……。
と、なると後は
「契約か……」
だが難しいだろう。
「キャバが足りんと思う」
諦め顔の玄武から一言。やはりそうだろう、玄武と意見が一致した。
人間が神格や精霊を受け容れる事ができるのは通常、一体、良くて二体までだ。それ以上は精神、人格への影響が大きくなる。
東王クラスの神格でも眷属化や契約は一体から二体が限度。仙術による特殊な、供物を要する契約形態でもない限りは、多数との契約は不可能だ。
彼女の、人間にしては異常なキャパは、精霊によるものが大きいと考えられる。何かを対価に契約した痕跡は認められないし、人格や精神にも影響が出ている様にも見えない。
精霊がキャパを請け負うような形だと推測される。
「ユニコーンからも枠は埋まっているとの事です」
紫苑からも肯定の情報。
「上位神格にその眷属、上位精霊、挙句に最高位幻獣も一体間借り出来ている事が異常だしな……玄武は元々俺の契約だからコストは軽い筈だが……これ以上はどう考えてもキャパオーバーだろうな」
俺の言葉を受けて、玄武も目を伏せる。やはり契約での事態の収拾は難しいか。
……あとは彼女が王典持ちという特殊な事情に期待するべきなのか。姉弟子から正式に開示があったのは出国直前、まあ事前に知らされていようとも何か出来たとは思えないが。
定期的に現れる、その時代にただ一人の存在。確認出来た文献や資料から、神を統べる力を持つ人間と結論付けたが、彼女がその力を自覚している様子は全くない。
自覚する事で取れる手段が増えるのか? どうすべきだ? だがもし力を自覚する事で変質すれば? 予知を今からでも行うべきなのか? 何か出来ると思えるが、どうする? ……駄目だ、すぐに答えは出そうにない。
「兄さま、我が君は、お変わりになどならないわ。時が許す限り、総てを優しく見守って下さるのだから」
こちらの迷いを見透かすように紫苑から言葉が発せられる。その視線は彼女がいる方角を真っ直ぐに見つめている。
「……紫苑」
「それに兄さまが考えている間に、我が君はご自身でお動きに。ほら、歌が聞こえる……」




