四十七 〜夜の森〜
うん、良いよね、焚き火、超落ち着く。バチっ、パキッ……とかこの優しい音、めっちゃネイチャー。それに外でテントって言うのも中々、良いわよね。
森の中でキャンプかぁ。外国来てまで、するとは思わなかったわぁ。
アクアも紫苑もお肉美味しかった? 沢山食べないとダメよ。育ち盛り? だろうから。
いやー、美少女二人が無心でお肉頬張るシーンとか。可愛らしいわー。飛行機我慢したご褒美ねこれは。夢中で食べてるのこれまた、たまらんですな。
おかわりあるわよ。はい、どうぞ。
……それにしても空港で乗ったタクシーのおじさんに八尋が何か術かけてたのドン引きした。躊躇なかったもん。
優しーく、注意してくれてただけだよね、あれ。説明めんどくさくなって術かけたに違いないのよ。絶対そう。
アクアが通訳っぽく状況説明してくれたけど。
八尋が『此処で降ります』って、流暢に日本語じゃない言葉、何語なの? 知らないけど、言ったらさ。
『ふぁっ? お前此処、狼とか熊とか山盛りおるねんで!?』って。めっちゃ大声。凄い剣幕。
でも見事に何の動揺も無く『此処で降ります』だって。八尋ってさ? 同じ言葉で押し通す時多いよね。私だけにやってくる手法じゃなくてちょっと安心したんだけど。
『いやだから話聞けって!死ぬって』からは、見たことある流れが始まったわよね。
『これを見て下さい』
あの指差しね。あれ。
『なんやねんな、もう!』
ほら、もう目線が指先に。
『貴方はこれから家に帰ります』
ほら、お目目、ぐるぐるー。
『私は家に帰る……』
『この番号から電話が有ればまた此処に迎えに来ます』
『この番号が掛かってきたら私はまた此処に来る……』
車はゆっくり止まって、私達は降車と。
ガチャ、バタン、ブロロロロー。海外でも通じるのねあれ。事故ったりしないかな?
てな感じで海外の森の中、野生動物の気配だらけの中キャンプ中と。
……にしても亀。寝てるし、何にも手伝って無いのに。火起こしして、これからご飯って時に影から出てきてホント。食うだけ食ったら寝るとか。
……もうちょい近くに寄せて炙ろうかな? 大体、コイツはご飯食べ過ぎなのよ、さっきも私の分のお肉こっそり食べてやがったし。
私の言うことひとつも聞かないのに、アクアと紫苑の言う事には、孫大好き爺見たいになるし。私の作った料理は塩が濃いだの、味に深みが無いだの、洗濯物の皺が気になるとか、そもそもオメェ服着ねぇじゃねえか! 天誅よ! 天誅!
「良子さん、玄武を許して下さい……心配なんですよ、良子さんの事が」
最近、私からの制裁を特に気にしなくなってる亀の髭らしき尻毛を掴んでたら八尋がそんなことを言ってくる。
でもさ? ご覧よこれ。まだ寝てるのよ? ムカつかない? こんなのに心配とかされても。
「お節介という素晴らしい日本語をご存知?」
「ふふっ、良子さんもお嫌いでは無いでしょう? 今の環境は」
……こいつは、また答え難い事を。
イケメンって、前は桜花と二人でどのアイドルがカッコいいとか、きゃあきゃあ言えたけど人間、顔じゃないよホント。
見てよ、この鬼畜スマイル。私がちょっと何か粗相したら最近いじってくる様になってるしね。慣れって怖いわよね。
それだけならまだしも、しれっと、こう言うことも混ぜて来るから困ってんですよこっちは!
「嫌いじゃないけど! でもいつも説明が無いのは不満ね」
「これは失礼しました。ですが予知の関係もあって良子さんには極力情報に触れないで欲しいんです、大変申し訳無いのですが……取り敢えず今回の件は私の夢に関係する事ですよ」
あの問題映像ね。今のうちから、言っとくけど私は行かないわよ。だから、じっと見てくんなし。
「何か龍金以外にも素材が居るとか何とかって言ってたわね?」
「今回の目的はユニコーンの角ですね。それが達成出来れば、あと一歩のところまで来ます」
ユニコーンの角? はぁ……溜息出る。いや、カッコいいのよ? 夢に向かって男性が一途に夢を語る姿は。
でもさ? 一緒に宇宙行こうぜって言われて、オッケーって、なる? ならんでしょ。挙句、人外と戦うとか別に欲した訳でも無いし、素材集めも勝手にやっといて欲しいのが正直……ね?
……あんまり考えるのやめよ。悪い方向には行ってないし。私の影が倉庫化したのは何とも言えないけど、まあ便利だし。
荷物要らないもん。水嶋が日本にいれば影を伝って物が送れるという超仕様。キャンプ用品全部出て来たもんね、私の影から。
水嶋来たら意味なくなるから、留守番だけど。でも楽しそうなのよね留守番、何か師匠と一緒に楽しそうにしてるのが気配というか念? が伝わってくるし、アクア何か知らない?
『知ってる様な知らない様な……帰ったら分かる』
ちょっ! そのテレパシーは爆弾すぎるっ!
「えっ、嘘?! そういう感じなの!? 春樹と桜花は時間の問題だったから驚きゼロだけど、それ本当にホント!?」
え? 何それ。
「ちょっと待って今、現実を受け止めてるから」
受け止めきれないわね……心臓バックバック。えっと、うんと、あーっと、割とマジでどうしよう。
「恋愛って素敵ですよね、人類はそれが有るからここまで繁栄して来たんです」
ちょっと待て。
「何で知ってる風なこと言うのよ! 私はさっきアクアから聞いて……無いけどテレパシー的な何かで初めて知ったのよ!?」
「紫苑経由で水嶋さんから相談を受けておりまして。僭越ながらアドバイスさせて頂きました」
え〜水嶋ぁ〜、絶対間違えてるって……この人全然信用デキナイヨ?
「何て言ったのさ?」
「心の赴くままに、と」
何それ、アンタ。本の読み過ぎじゃ無い? アドバイスって言うか、ただのフワッふわっなコメントじゃん。中身ゼロやん。
「そんで心の赴くままに、私の育ての親とキャッキャウフフってかいっ!」
何かイヤ!! 何か嫌!? ……でも、無いか。師匠ずっと私達の事ばっかりだったし、自分の事に時間使ってくれるなら、寧ろ嬉しいかも。
水嶋もまあ最初はアレだったけど、水嶋(仮)だったし、今は武士って感じだし、それに並べて見たら何かお似合いなのよね、言われてみると、確かにって感じ。違和感ないのよね。
納得出来ないけど、納得せざるを得ない……。
「気になるのでしたら帰国した際にお聞きすれば?」
「アンタ、母親に彼氏が居たとして、彼氏とどう? 上手く行ってる? って聞いちゃう星人なのね、残念だわ、私はそんなの聞けない星からやってきたから」
そういうのは言われるまで黙ってるもんでしょ。水嶋さん? って呼んだほうが良いのかなぁ? いやー考えたく無い。
「これは失礼を。それはさておき今回のミッションについてご説明しても?」
おお! 出た! こっちの都合は考慮ゼロ! 大体なにかをぶん殴ると噂のミッション! いつも唐突に会話ぶった斬ってくるこれ、何回目?
通算四回目? ええいとにかく、久しぶりでも無いけど久しぶり! 師匠と水嶋のロマンスは今は考えたくないので、渡りに船! もはやちょっと楽しくなってきてる自分にドキドキ。
「今回は一体どんな内容かしら? 相当じゃ無いと驚かないわよ」
えっと、整理しよう。超アマゾネス肉弾戦、天狗の里騒動、希望さんと伊吹ちゃん元気かな? ほんで決戦EIM本社、婆娑羅弟子入り出来たのは良かった、あの子あのままだとなんか危ない雰囲気だったしね。
振り返ると、ずいぶん濃いめの三本でお送りして来た訳だけども。
四本目は、果たして?
「幻獣捕獲大作戦です!」
予想外。なんかユニコーンとか言ってたけど、予想外。
「さっぱり何言ってるか分かんない。幻獣って、ここ来る時言ってたユニコーンなの? 捕獲の意味もわかんない」
「儂がおるんじゃから角馬ぐらいおるに決まっとるじゃろうに、この娘はほんにのう」
ムムむ! 亀の妖怪発見! 鍋にするであります。起きたと思ったら嫌味とか、煮込んで性根を治してやる。
「これ、やめんか! だからその髭は大切に扱えと申しておろう!」
「んっ! ゴホンっ! こちらに注目をお願い致します」
「ごめん、ごめん、亀が五月蝿いから」
「ほんに嬢ちゃんは乱暴じゃ」
「何よ、毟るわよ」
ありゃ? 空間キラキラし出したわね。
「今から此処に半径十メートル程度の円形の術式陣地を設けます、少し煌めいたラインが視認出来ますでしょうか?」
八尋を中心に放射状に広がるライン。夜だからか淡い光が凄く綺麗な模様に見える。綺麗。相変わらず、仙術ってカッコいい。もう動作がね。良い。めっちゃ漫画。
「これが陣地を構成する為のラインです。ユニコーンは幻獣ですので、普段は位相のズレた異界に存在していますが、この術式陣地が設置された場所は異界と現界、つまり我々の世界とを同位相にします」
「さっぱり何言ってるか分かんないから、亀。分かりやすく説明宜しく」
「普段はユニコーンは見えんが陣地の中に入って来れば見えると言う事じゃ、まだ続きがあるぞ」
分かりやすい説明だったわね。ちょっと見直したわ。
「この術式陣地一つでは、この広大な森林の何処かの異界に居るユニコーンを見つける事は不可能です」
そうよね。八尋を中心に十メートルぐらいの円の大きさだけど、森全体のサイズからしたら、そりゃそうよね。
「ですので、何個も陣地を設置して当たりの確率を増やして行きます。この陣地は術式制御の問題で隣り合わせで設置は出来ません。凡そ十メートル程度は離す必要があります」
「どのぐらいの個数設置出来るの?」
「一時間に二個から三個というところです。今は説明の為のデモンストレーションで、此処には固着させないので陣地印を描かなくとも良いのですが、固着させる為には陣地印を描く必要があるので、日中は十時間、途中休憩も必要ですので、実質の実働は八時間、十六個から二十四個というところですね、この森をある程度カバーするには、最低百個は設置する必要があります」
六日から七日で最低限の数は設置完了ってとこね、でも百で足りるの? ホント滅茶苦茶広いよ? この森、何処から来たかもう分かんないもん既に。
「この地域の伝承通りで有れば、森の中央部にある池から然程離れずに居るはずなんです、池の周りを陣地化してしまえば比較的早く発見出来る筈です」
はいはい、成程。池の周りを覆うように設置して追い込み漁見たいなイメージかな? 私の仕事は何なのかしらね? 出番が思い付かないんだけど、料理担当? それとも亀のお守り?
「私は何すれば良いの?」
「池の周りで、女児向けの遊びをして頂けますか」
……分からん。アンタの言っとる事は本当に分からん。
見て、私の顔。困惑。まさに困惑。リトアニアよ? 日本から八千キロよ? 何よ? 女児向けの遊びって! 白詰草で冠ぃ〜とかやんの? それともおままごと? ……紫苑とアクアとやんのはちょっと楽しいかもだけど。
「儂は混ぜてくれんのか〜?」
もう! 亀は黙ってて!
「八尋、もうちょっと具体的に言ってくれる?」
「恐らくですが良子さんの周辺をユニコーンはうろつくと思います」
「何で?」
何でちょっと顔赤いのよ、何よ。
「その、ユニコーンは、その……伝承ですが、その……清らかな乙女の膝に頭を載せて、一時を寛ぐという習性がありまして……良子さんはその、ピッタリかと……」
「エッロ。ユニコーン、エッロ。幻獣さん、趣味ヤッバ。何? なんか言いたそうな顔して」
「女性にこういった事をお聞きするのは大変不躾なのですが……」
うん、皆まで言うな。ねえよ。清らかだよ! 男性と付き合った事ねぇんだから! はぁ……。




