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四十一 〜近付く真相〜

 

 都内某所、時刻は二十時を過ぎた頃。三鷹家が所有する別邸で支持者を集めたパーティーが開かれていた。


 目立ちたがり屋で人情家。陳情に対する態度、対応も良く地元からの信頼も厚い。選挙では抜群の強さを誇りこれまで防衛大臣、外務大臣を歴任。通算十年もの間、閣僚として日本の政治に携わってきた者が率いる会派のパーティーでもある。


 現在は政権与党の幹事長を務め、影の総理やキングメーカーと言われる、その彼の古希を祝うというのが宴のメインに据えられている。更には彼の後継者も紹介されるという。そんな前情報もあり会場は人で埋め尽くされている。


 現役閣僚などは流石に私事の為、顔を見せに来ないが、お祝いの品や花輪、直筆の手紙、電報。錚々たる顔ぶれからの贈物は彼の権勢に華を添えるかの様に受付エリア横に立ち並んでいた。


 催しは昼の部、夜の部と分かれており、昼間は選挙区の地域住民との交流会を兼ねた和やかなカラオケ大会とバーベキュー。夕方には解散と言う健全なお誕生日会と、呼ぶに相応しい催しが開かれ無事終了している。


 そして現在、夜の部へ移行し、招待客は国内外大手企業の重役、彼がが率いる派閥の議員、有力支持者である医師や弁護士など、いずれも各分野で重要な要職につく人物達で会場は埋め尽くされていた。


そんな中、主催兼主賓の彼は招待客に一通りの挨拶を終えた後は会場の隅に逃げ込み、漢服に身を包んだ、一人の女性とばかり話し込んでいる。


 女性の素性を誰も知らないせいか、会場中からその光景に視線が集まっていた。


「やぁね、郡ちゃんったら、歳ばっかり取って。初めて会った時はまだギリギリお兄さんだったわよ? 今も小綺麗にしているからそんなにみすぼらしくは無いけど」


「お前は美しいままだな。それにしても珍しい、昼間のバーベキューならまだしも、こんな時間と場所にはいくら呼んでも顔も見せんのに。何かあったか?」


「誠司が呼んだのよ。親父の古希だからって。私も別に普段呼ばれて行きたく無いとかじゃ無いのよ? 手の離せない用事と重なる事が多いだけだし。それに半年前も会ってるじゃない」


「もう半年前か、あれは厄介だった……思うと俺は藤堂流に助けられてばかりだな」


「大事な友人、かつスポンサーなんだからそりゃ助けるわよ」


 三鷹郡司。この国で彼に逆らえる者は一握りしか居ない。その相手にあのような物言いは総理大臣とて出来はしない。


 一体かの女性は何者なのか? 会場の面々は聞き耳を立て少しでも情報を得ようとし、余計に会場は静まり返って行くという現象が起きていた。


「親父。そろそろ交代してくれよ。師匠に話さなきゃいけない事が多いんだからさ」


「あら誠司。元気そうで何よりだけど、相変わらず堅苦しい子ね……昔からそこだけは変わんないわね。稽古も……相変わらずね。貴方今、三十八だっけ? まだ伸びるわね、感心したわ」


「師匠の教えを守っているだけですよ」


 別室で来賓客への挨拶をしていた三鷹誠司が場に現れ、彼女を師匠と呼んだ事で、正体に当たりを付けた招待客の何名かは、目を見開いた。


 曰く三鷹誠司は無手の格闘術を習得しており、特殊部隊を相手に多対一ですら圧倒出来る。曰くその格闘術は妖魔を祓う。曰くその格闘術流派の頭領は女性である。


 眉唾ものの噂話……に過ぎない筈の情報が急速に具体的な解として招待客達の頭に浮かび始める。


「誠司、二年後には次の選挙だ……お前の方こそ切り上げるのが早すぎないか?」


 三鷹郡司の後継者としてのお披露目を兼ねたパーティーだ。ようやく跡を継ぐ事に舵を切ってくれたのは良いが、蔑ろにして良い相手は一人として呼んでいない。後のフォローを思う郡司の口調はやや強いものだった。


「そんなこと無いさ。それに親父が後二年で引退出来るとはとてもじゃないけど思えないね」


 気怠げに応える誠司の態度に郡司は力の無いため息をつく。父親のやるせない落胆に同情したのか彼女は話題の矛先を別の事に向けた。


「ところで誠司、そちらの女性は? 紹介してくれるんでしょうね?」


 そちらの女性と水を向けられた鏡十和子は混乱していた。ご飯を一緒にという話が政治家主催のパーティーへの参加となり、用意された慣れないドレスとヒールを履く。ここまでは彼女は耐えた。


 一時間以上をメイクに費やす、それも人の手で施されるのは生まれて初めてだ。これは彼女には耐えるとまではならなかった。三鷹の目が良い意味で驚きを表し、綺麗だと褒めてくれたのでそれ以上にリターンがあったからだ。


 しかしいざ会場に入ってからがどうにも上手くない。その最たる原因は三鷹が招待客に挨拶する度に婚約者として紹介するからだろう。


 まだ手すら握った事も無い、付き合うと約束した事も無い、今日漸く時計の針が動く気配を見せただけの認識の彼女は大いに混乱した。


 だが否定して恥をかかせる訳には行かない、三鷹に好意があるのも間違いは無い。何か事情があるのだろうと勝手に解釈してやり過ごしてきた彼女の目の前に現れた、美女神の如き女性。


 建て直しつつあった彼女のメンタルが音を立てて崩れていった。


「師匠、紹介します。婚約者の鏡十和子さんです」


「鏡さん、藤堂と申します。今後とも宜しくお願いします」


「……こちらこそ! よろしくお願いします!」


 鏡十和子が顔を見る事を躊躇う相手など、これまで現れた事など無かった。それこそ三鷹郡司を前にしても目が合わせられない事など無いし、物怖じする事も無い。


 だが女神の如き人物が放つ威圧感でも無い、存在力とでも言うのか、ナニカ圧されるモノを彼女は感じ、深いお辞儀からの復帰に時間が掛かってしまっていた。

 

 どうにか頭を上げ、確認できた顔は陶磁の肌、すっきりとした鼻梁、透き通る瞳……しかしそれ以上にーー


「……似てる?」


「流石だね鏡君、もう一つの本題に入ろう」


 三鷹はスマートフォンを取り出し、今日撮影に成功した例の画像を表示しそれを師に手渡した。


「師匠、その人物は藤堂流でもないのに初伝の型を使い、神格をかれこれ百以上仕留めています。四年足らずで、関係者合わせれば二百人近くが犠牲になりました」


「これは……」


 三鷹は、彼女がこのように驚く姿をこの十年見ていない。


「……もしや…心当たりがお有りで?」


「有るわね……」


 三鷹は自身が目撃した今回の件は、何者かによる藤堂流のネガティブキャンペーンでは無いかと当たりをつけていた。


 つまりは変装や整形手術の類によるもので、これまで素顔を晒さずに来た理由に意味を持たせたのではと考えていたのだ。しかし師の含むところのある態度に、あり得ないとしていた可能性こそが真実だと確信してしまった。


 そしてその解は藤堂流十六代目当主よりあっさりと示された。


「二十年前、私の卵子を冷凍保存したの。貴方も知っての通り、私はあの人以外を夫に迎えるつもりは無かったから、後継をどうするか随分揉めたのよ。その妥協案として当時の最先端施設で卵子を保存するっていうのが藤堂流一門で出した答え……それが利用されたと考えるべきね」



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