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【完結】りょうこちゃん、せきらら。  作者: 山田 詩乃舞
職業:会社員(試用期間)
32/94

三十 〜就職面接、ついでに亀。それと……


 凄ぇ! 八尋さんヤベェっす! だってめっちゃキメ顔で、アカン、腹痛い。何なのその旗、宇宙服みたいなの来て誇らしげに地面に突き刺してさ。


 こんな時代だから、宇宙にロケットで飛び出すんじゃーい! ぐらいなら全然驚かないけど月面基地ってアンタ。また出来そうだしやりそうな感じがツボで。


 この予知の映像が駄目なんだって。色んな機材がとにかくデカイ。それにロケットじゃ無くて船なのがもう映画。これ耳の長い副長とか載ってない? ……あれ?


「ごめん……怒った? 好きな映画みたいな映像出て来てテンション上がっちゃった……」


『……』


 ヤバ。返事無い。あっ、周りの空気が変わった……。止まってたような時間が動き出す雰囲気?


「あんまり真顔で月に行くって言うからさ。わかんない? 映画とかでさ、今から快進撃が始まるぞって時に高笑いでない? 私出るんだけど、いやーそれにしても八尋アンタかっこいいわ」


 赤くなんないでよ! こっちが恥ずかしいでしょ! 褒めただけよ! あっ……元に戻ってるわね。目の前の八尋が動いてる。


「良子さん……最後の映像はご覧になられて無いんですか?」


「何? 最後って、宇宙船でしょアンタが……そういえば二人いたわね……誰なの?」


「そうですか……そこは良く見ておられなかったという事ですね……提案があるのですが、お聞き頂いても?」


 このタイミングで? まあ悪い風にはならないか。予知の関係でしょうし。


「聞く」


「EIM本社、技術開発部、特殊材質研究室、室長の肩書きで就職しませんか?」


「する」

 

「福利厚生には自信が有ります。更にはインセンティブ設定は個人の……即答?」

 

 何びっくりしてんのよ。就職活動でレジュメ送ってるぐらいなんだから……知らないか。言ってないもんね。


「ホントは肩書きいらないけど、小娘がそんな役職名乗っても実態が無いから、お寒いだけだし」


「それは後程、私の業務引き継ぎで理由をご納得頂けるかと。それと、実は……になるのですが、既に良子さんのバイト代は試用期間中の給与と活動に掛かる経費として捻出しておりまして」


「試用期間?」

 

「大学生で就活中だとお伺いしていましたので、この件で差し障りがあった場合の保険を、試用期間とはいえ当社に籍が有ったとなれば就職口はそれなりに見つかるかと」

 

 八尋マジ有能。私、一生ついていく。この提案、蹴れるようにもしてくれてたって事でしょ? 株爆上げ。


「でも大丈夫なの? 幾ら自分のところの会社だからってそんな権限あるの?」


「そうですね……まだ口外はなさらないようにお願いしますが、来月早々に社長に就任する事になりますので権限は問題ありません。良子さんの室長の件も技術開発部からのラブコールの側面が、と言うかほぼそれですね」


 なーるほど。宜しくねー。八尋が社長とかもう全然ついてないけど流すことにするからー。


 それと猫耳共。室長就任の暁には猫耳出社デーを設けてやるからね。文句は言わせない。何故ならその日の室長はこの服で出社するからね。


 はぁー長かった。私の就職戦線、ここに完結。見よ! 空も私を祝福するかの様に光を放っているわ! ……違う、これ繭が光ってる。


「食い扶持の話は終わったか? そろそろ現世(うつしよ)のしがらみは置いて、神の産まれを見届けようでは無いか……これ嬢ちゃんよ、何処を持っとる」

 

 この亀は喋れる癖に挨拶しても返さないからちょっとイラッと来てたんだけど……多分、さっきの技の為だろうけどゲロ掛けて来たのも忘れてないのよ? 


 それで何今の? 上から目線で偉そうに、この尻から生える毛も偉そうでムカつく。


「そろそろ離してくれかの? 儂ちょっとなんだか怖くなってきた……その掴んどる毛は引っ張ったりせんでくれんかの?」


 ふーん? 大事なんだこの毛。ところでさ何か足元に模様が浮かんできたけど? 水嶋と契約した時に浮き出た魔法陣みたいなのと良く似た模様ね? 


「儂ゃもう帰る。八尋あとでな! ……ん? 何でじゃ? 何故異界が作れん?!」

 

 「玄武……何故、従属契約を結んでるんだ?! しかも簡易型で条件が無いなんて前代未聞だ!」


「ひぃぃ! 嘘じゃ! わしゃそんなの、結んどらん!」


 ジタバタうるさい亀ね。ほんとに——! 水嶋から思念?


「ちょっと黙って」


「……」


 わたしの真剣な声で黙る亀。


 もうちょいで出て来れるのね? 一人増える? まあ、仕方ないわよね。私も就職決まったし引っ越し考えるね? ちょっと広めのとこ探そう。


「神話の生成だ。充分注意すべき内容だったのに、玄武が完全服従するなんて……」


「水嶋がもうそろそろ出て来るってさ」

 

「それについては承知しました。……良子さん。お伝えすべき事が。……玄武が、神獣が良子さんの配下となります、恐らく水嶋さんの神産みにまつわる余波が原因かと思われます」


 訳が分からないから、分かったフリしてやり過ごしたい。亀が配下? こんなデッカいのが? 餌どうすんのよ。あっ、みるみると小さくなった。まあ、これぐらいなら、ガラパゴスゾウガメぐらいのサイズなら……やっぱデカイ。


「もうちょい小さくなれない?」

 

 おし! 手の平サイズとは言わないけど充分なサイズね。


「オゲェぇエェ! ……これは嬢ちゃんにやる」

 

 唐突にまたゲロ吐いた! 要らないよゲロは……何かしらこれ? 拾いたく無いけど随分綺麗な意匠の龍の置物? 彫り込みが凄く細かくて、見るからに高価な出立ちよ? 


「龍金だとっ!? 僧正師ですら持っていない素材を無償で?」


「えっ? 金? 何、売っていいの?」


「売るだなんてとんでもない! 所有者の望んだ形に姿を変える神話の金属ですよ! 神獣の体内で少しずつ成長し拳のサイズ程度で体外に排出され、その金属一ミリグラム相当で死者蘇生の術式すら可能にする代物です!」


 何それ怖い。何が怖いって死者蘇生とか言ったわよこいつ。まさか出来るの?


「すみません……取り乱しました。死者蘇生は禁忌ですので、出来てもしません。僧正師に術式だけは教えて貰いましたが、碌なことにはならないので。先程、受胎転生の話をしたでしょう? ほぼアレと同じ結果にしかならないので……だからその……そんなに凝視されますと」


「雇用主を見極めてるだけですが何か? いやよ? 死んでも生き返らせるから大丈夫とか言われるの」


 株爆上げから一転。ネクロマンサー疑惑浮上とか、マジで洒落にならない。ちょっと私の目を見てもう一回言ってみようか? 


「八尋よ、理解したぞ。これで良い、儂ゃ嬢ちゃんに付いて行けば良い、それで全ては上手くいく、お前へ力を貸すのも、今もこれからも、これまで通りで問題無い。安心せい」


 したり顔で喋り出す亀。ちょっとまて。


「何で私の影に沈んで行ってるの?」


「これから宜しくのぅ、時々ビールと鶏モモ肉をくれると有難い」


 アクア? 何か嬉しそうね? 楽しい雰囲気、感情かしらこれ。亀が沈んで見えなくなった影を見つめて見るとそんなイメージが伝わって来る。八尋は想定外みたいな顔してるし説明聞いても理解出来なそう。


「それと外出許可は不要にしておいてくれの。八尋の手伝いがあるからちょくちょく出るんでの」


 影から色々出てくる問題。首だけ出して喋って来ないで。外出許可の意味も分かんない……影に沈み切っちゃった。


 ちゃんと説明していきなさいよ……鍵? 頭にイメージが湧いてくる。ああ、これを右に回せば良いのね。


 実物の鍵じゃ無くて頭の中に浮いて来たイメージ、鍵形の何かを回すとカチリと音が。これで良いのね? 


 これで影から出て来るの、水嶋とアクアと亀と、あと今度増えるっていう子も入るんだろうな……。


 気軽にポンポンポンポン良く入るわね私の影。容量とかあんのかしら? 


 とか考えてたら……また空気感が変わった。今度は暖かい、春の陽気、木漏れ日に似たそれ。繭から放たれる光が歌うように揺らぎだす。一瞬強い光を出して繭が解けて消えていく。中からは人影。水嶋ね。


「我が君、お待たせ致しました」


「はい、お帰り? あれっ? アンタ何か雰囲気変わった?」


「自分でも良く把握出来ていないのですが……恐らく眷属を得た影響かと」


 チャラ男から武士、今はなんだろう、騎士? 服は変わってないのに雰囲気だけ、もっと落ち着いたというか。


「眷属……アンタの腰にしがみついてる女の子ね? 不思議な気配ね」


「さあ、我らが主にご挨拶を」


「お目通りが叶い感無量でございます。我が君に誠心誠意お仕え致します。この身はまだ名乗る名がありませぬので、名をお授け頂きますよう、御願い申し上げまする」


 あらまぁ。超の付く美少女。髪色が薄紫。顔立ちが……あっ、八尋の顔が間抜けになってる。


 だよね。真由美さんの面影が濃いもの。と言うか真由美さんなのよ。あり得るけど実際見ると驚いちゃうよね。

 

「私は向井良子よ。宜しくね。名前の前に服を、水嶋の繭糸、ちょっと申し訳程度に纏ってるぐらいじゃ ……わわっ! アクア! 出る時はちゃんと先に行ってくれないとびっくりするってば!」


 あれ? クリオネボディじゃ無い。こっちも美少女になってる。水色の髪で中学生ぐらいの年頃? 進化するってこっち?! 実体があるわね、これ。ついさっき前までは普通には見えなかったのに。こっちもまず服ね、羽衣みたいなの一枚って……。


『花の名前が良い』


 可愛い声ね、鈴の音って言うのかしら。それにしても貴女の意見良いじゃない、そうよね、花が咲いたような華やかな雰囲気の子だもんね、そうしましょう!  


 カタカナか漢字かどっちが良いかなぁ……。

 

 竜胆…鈴蘭? うーんコスモス? 顔が結構和風、というか真由美さん。待って、それも大事だけど、先ずは服! 八尋……駄目だそろそろ帰って来て貰わないと。


「八尋! 驚いたのは分かったから、そろそろシャキッとして! あと服をなるべく早めに手配してくんない?」


「……っ! そうですね、少し呆けていました、すいません、すぐに手配します」


 そうそう、そういう時は顔をバチバチと張って気合い入れて下さい。そこの固定電話で社内の方への手配宜しくっ。


 八尋も起動した事だし、名前考えよ。責任重大だもんね。うーん、やっぱ何か真由美さんと八尋に関わる名前の方が良いのかしらね? 


 私が名付けるって言うのも意味があるとして……スルッと出て来た。これが良いわねしっくりくる。

 

「シオンにしましょう、漢字だと紫苑ね、これなら和洋対応でグッド」


「シオン……わたしの名前はシオン……」


 嬉しそう。ドキドキした甲斐があったわね。私が考えた割には相当お洒落だと思う。にしてもこの子、可愛いわね。


 ギュッと手を握って噛み締める様に名前を呟いてるこの様子、録画したい。それぐらい尊い存在感。これは男性の目に触れさせるのは慎重に検討しないと。


「そうよ、貴女は今日から紫苑、苗字はそこのお兄さん達から貰っても良いし、貴女が決めても良いんじゃない?」


「では、遠藤の家名を名乗りたく、宜しいでしょうか……」


 一旦受話器置いたら? 口が開いたままよ? 服の手配で喋ってる時に不意を突かれたかも知らないけどさ。


 ほら、アンタに言ってんのよ。答えてあげなさいよ。……ああっもう、つま先鳴らして催促してやる。


「——! ……構いません、ですが良いのですか? 貴女の素となったものは確かに真由美さんの胎内で育っていた胎児ですが水嶋さんの眷属となった事で別の存在になったといった方が正しいのですよ?」


「眷属……巫女として我が君にお仕えする事は我が使命。ですが母と兄が居ると思いたいのです」


「……」


 どうしよう。八尋めっちゃ、泣きだしたんだけど。黙ったまま涙流されると、どうして良いかわかんないんだけど!?


「大丈夫……? ハンカチいる? あっ、こっちは血ぃついてるやつだ、もう一個のほう」


 ハンカチこっち……それ私の手なんだけど。あと、近距離で眼を見つめないで欲しい。


「妹か弟がいたんです……父と真由美さんが結婚してから直ぐの事で、残念ながらこの世に出る事は叶わず流れてしまいましたが……良子さん、名前が何故、紫苑なのか教えて頂けませんか?」


「理由って言うか、アクアがお花みたいな女の子って言うから私もほんとそうねって、思ったの。紫苑って師匠が漢方で使うから庭で育ててる時があってね、綺麗だから好きなのよ。それとお店にさ、決まった日に飾ってたでしょ? 思い入れあんのかなぁってね……」


 あのですね、そんなに手を握られるとですね……恥ずかしぃわけでして。顔熱っつ! 手汗が気になる。


「ありがとう、良子さん……ありがとう」


 あれ? 私、今抱きしめられてるよね? ちょ、ちょま……。


二章完


お読み下さりありがとうございます。

面白かった、続きが気になるなど、感じていただけましたら、ブックマークやこの下の☆☆☆☆☆を★★★★★にしてご評価いただけますと作者の力になります。

引き続き本作をお楽しみ下さい。




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― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで読ませていただきました。 この章に入って、特に八尋側の事情が分かって、さらに面白くなりました。 良子ちゃんも就職して、この先、どんどん増えていく影の中にいるキャラたちと何が起こるの…
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