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【完結】りょうこちゃん、せきらら。  作者: 山田 詩乃舞
職業:会社員(試用期間)
31/94

二十九 〜予知〜


 『そう、あっさりと、その時はスムーズに事が運びました』


 森の中ね……天狗のお爺ちゃんが三メートルから半分ぐらいになって……これまた凄い変化。物理法則をサクッと無視した縮み方。一言でいうと怖い。見た目、農家歴七十年の風格のお爺ちゃんに変化して、お面は何処へ? 素顔がダンディ。場面切り替え。今度は農家お爺ちゃん、インターホン押してる。この洋館は、さっきの八尋の家だ。画角アングル的にさっきの烏から見てるわね。おや? 多分お手伝いさん? が出てきた……この家の規模なら当然居るわよね。


 「ちょっと! いきなり気絶させてるわよ!?」


 背後に回る動きが私でも捉えきれない速さって……チョークスリーパーが手慣れ過ぎてて怖い。流れる様な作業感。監視カメラがあるのかな? 意識してる様な動きで壁面駆け上がって、屋根に出た。

 洋館っぽいから屋根窓付いてるとこから……窓の鍵のところに指差ししてトンボ捕まえる時みたいにぐーるぐる? 窓の鍵がひとりでに開いた……するりと侵入。これは見事な怪盗ね。……廊下の先に人が……安定のチョークスリーパー。


 『改めて見ると素晴らしい身のこなしですね』


 「それは全く同意だけど。全体的に動きがヌルヌルしててゾワゾワする。それと出会い頭の一瞬で気絶させていってるのに恐怖を感じるわ」


 烏が追いかけて見てるこの映像……完全に犯行記録よね。あっ……また一人。屋根窓から侵入して僅か二分の間に二人仕留めて早くも真由美さんの居る部屋に。手際良すぎる。

 

 「何してんの?」

 

 部屋の前でじっとしてるだけ? 手は何か動いてるけど。


 『封印術を掛けていますね。外から咒式に気づかれない様に一気に勝負をかけました』


 「八尋は結構手の動きとか印の結び方とかバッバってやるけどお爺ちゃんは、なんていうか日常動作みたいな感じね」


 『意識せずとも仙術を行使していますね、神仙と呼ばれる領域に達するとああなるのですが、私にはまだまだ先の目標です』


 ドア開けたわね。中の映像に切り替わった。これは? 単に真由美さん寝てるだけじゃ無いの? いや……真由美さんの顔付きが元の優しい顔に戻ってる。寝顔でも分かるもんなのね。解決? ……無いわね。じゃなきゃ今日は無いものね。


 『完全に封印する、咒式を取り除くと言った事は、師ですら不可能でした。あり得ないほど咒式は真由美さんに食い込んでいたからです。あくまで仮の封印、持って二十年持つかどうか、それ以上強い封印を掛ければ普通の人間では持たないからです』


 「確かに仮の封印だったわね今日の様子を見る限り」

 

 新しい場面が出た……八尋少年が今度は一気に青年ね。本? 読んでるのかな? 私には全く何書いてるか分からなくて読めない本、さっきの術の文字ね。熱心に読んでる。


 『仙術を習得してから十五年掛けて精神に食い込んだ咒式を剥がす術を開発しています』


「そういや眼鏡は? いつから辞めたのよ。仙術覚えると眼も良くなるの? コンタクトじゃないでしょ?」


 『神獣と取引した結果、視力が回復したんです』


 神獣と取引? お得意の契約じゃ無くて? ……なんか良く分からないからまあ、いいや。真由美さんの映像が何か出て来たしそっち集中しよ。


 「寝ては起きての繰り返しね? 早送り機能でするっと見れるけど……真由美さん寝てる時間長くない?」


 『仮封印後の真由美さんは、二日に一回程度、深い眠りにつくサイクルで丸一日は眠ります、眠っている間は咒式が活動しているという状況ですね、それが十五年程続き、少しずつ、少しずつ眠る時間が長くなっていったのです』


 何だか寝てる時にうなされる時間が増えてる? 顔付きが例の顔の時があるわね。


 『そして二年前から突然、起きている時が咒式の人格、眠っている時が真由美さんという状態に反転します』


 八尋がモニターを見てる映像? ややこしい! 監視カメラか何かの映像を確認してる、この感じは本屋さんよね。


 「……? 今、真由美さんとすれ違った人は誰? 身のこなしが半端無いんだけど」

 

 『周防国親(すおうくにちか)です……一目でお分かりになられましたか』


 此処でスオウクニチカ氏登場なのね。


 「いんや、会ったことも無い。単に身のこなしがエグいから気になったの。それと今日襲ってきたメカコスプレの飼い主みたいな奴が、その名前を名乗った」


 目立つよそりゃ白髪の長髪オールバックで全身白のスーツって、それだけならまだしも重心がぶれるそぶりすら無い。


 『少し情報が大きすぎて面食らっています……』


 「私は常に面食らってるけど?」


 『ふふふ』


 「なぜに笑う! どういう意味なのよ」


 『今度お酒でも飲みながら話しましょう』


 楽しそうに誘ってくれるのは嬉しいんだけど、アンタ誰かから私の操作マニュアルとか伝授されて無い? 初めて飲む相手はその、ゴニョゴニョ……あー、駄目。落ち着け私。映像に集中しよう。

 

 八尋視点のモニターに今度は……此処ね、この部屋の机で真由美さんが書類読んだりしてる。

顔付きが例の方だから……立ち上がった。部屋を出るのかな。映像が次々切り替わって真由美さんを追いかけてる。車に乗って……都内のホテルかな? 


 「これ、海外の有名ホテルチェーンよね? 名前なんだっけ」


 『エクセルグループですね、ここから先の映像は流石に確認出来ていませんが、真由美さんに取り憑いた咒式はこのホテルに週二回程度通っていました』


 ホテルの中は流石に撮影出来ないわよね、バレたらえらい事になりそうだし。外から人の出入りを見るしか無いか。……居た。堂々と入っていった。これは確定的ね。


 『周防国親、彼は元、藤堂流です。姉弟子には怒られるかもしれませんが、まだ彼の関与をお伝えしていません、確証が無いのと真由美さんの咒式を取り除いてからと考えていましたので』


 不思議なんだけどこの人の事全然知らないのよね。十六年お世話になってるけど……あれ? 周防ってやっぱりあの周防かな? 


 「ねえ、師匠のお母さんの家が確か周防なんだけど……」


 『藤堂流、伝七家(でんしちけ)のひとつ、周防ですね』


 やべぇ、私、それ七つ全部言えないの。聞くなよ? 


 『周防国親は姉弟子の叔父に当たる人物ですが、二十五年前に行方を絡まして以来消息が途絶えていました』

 

 ふぃー、聞かれなかったっ……叔父? 


 「あうあう、あうあう」

 

 『落ち着いて下さい』


 身内の犯行です。申し訳ありません。私が謝って済む問題じゃないけど謝罪させて頂きます! あと水嶋にもごめん! さっき偉そうな事言いました!


 『良子さん……良子さん』


 「この度は手前共の身内が大変な事を……」


 『貴女に責任がある事ではありません。巻き込んだのは此方です』


 「……」


 そうは言っても、やっぱり同じ流派だった人がさ、こんな事してるのはちょっと……


 『では、全て解決してからにしましょう、今考える事ではありません』


 モジモジしてたら大人の意見を頂戴致しました。いや、分かるんですけど。

 

 「……モヤモヤする」


 『……話を続けます、周防の手中に、彼女がいる間、姉弟子に知られた事を周防が察知すれば彼女は人質に、最悪私は姉弟子と戦わされるという事態まで想定しておりました、現実はそうならず想定外の事態になりましたが』


 映像が途切れて……今度は何処? 八尋が一人だけで目を瞑って立ってる。


 『周防の目的についてですが先ずはっきりしているのは我が社の技術情報の入手でしょうね、先程のホテルで恐らく密会しており、そこで受け渡しがあったかと。受胎転生まで引き起こした理由はわかりませんが』


 藤堂流だった癖に面倒くさい搦手使うのね、だから辞めたのかな? 


 「その情報で何をしようとしてるのかは謎と……やりにくいわね。それでこれは何をしてるの?」


 『……おっしゃる通りです。これは約一年前の記憶です。深い瞑想に入り予知の精度を上げどうすれば真由美さんを確実に救えるかを確かめています』

 

 わっ! 一気に映像が……画面酔いしそう。巻き戻しと早送りが混在して……


 「ねぇ。何にも理解出来ない。これで何が分かったの?」


 画面が何百個もあってそれぞれいろんな人がてんで関係のない様な事やってる映像見せられてもさ。画面が変わり出したわね……六月八日? 何で画面全部日付が表示されてるの? 


 『真由美さんを救える手段として六月八日に喫茶店をオープンする場面が浮かびました。そしてウェイトレスとして良子さんが働いている場面もです』


 ほんとだ、窓から顔だけ見えてる、髪型違うけど私だ。良いなこれこんな感じに出来るんだ、桜花に後で相談して美容院着いて来てもらっ……ちょっと待って寄りの映像になって見えてきた服が……ナニコレ。


 これじゃ歩く猥褻よ! 紐なの? 三点しか隠れてないわよこれ! お願いだからお腹とお尻をもっと生地で覆って頂戴よ……っ! アンタなんてもんを見てんのよ! 


 「……はっ!? これが予知だとするなら今、私が着ているメイド服が予知通りじゃ無いのは八尋の最大限の配慮……?」


 『一つ疑いが晴れて私も嬉しいです』

 

 ごめんね。変態とか心の中で思ってた。今の感じだと思ってたことバレてたみたいだけど。


 「予知と現実のギャップを埋める涙ぐましい努力だったのね」


 レースの模様とか、被ってるヘッドセットとかベース色とか寄せれる所は全部寄せてるもの。このメイド服の如何わしさの源泉はこれだったのね。


 『正直、自分の能力をあれほど疑った事はありません……叔父に連絡するまで随分と時間が掛かりました、事の真偽を見極めるのがあまりに難しくて』


 でしょうね。意味不明だもん。真由美さんを咒式から解放する為にまず喫茶店を開業します。のこのこラーメン食べに来た女子大生を捕まえてバイトに雇います。そんで如何わしいメイド服を着せます。なにこれ。


 『ちょうど私もそんな風に困惑していました。ただ思い出したんです、真由美さんは喫茶店勤めだった事、いつか自分の喫茶店を持つことが夢でそしてその店を手伝う約束を私はしていたことを』


 あっ……フライングヘッド事件の場面だ……。ほへぇぇー、我ながら綺麗な正拳ねぇ。


 『姉弟子からは何も聞いていませんでしたから、あの時の驚きはもしかすると人生で一番大きかったかもしれません……初めてお会いした時に見抜けなかった自分を恥じるばかりです』


 あれ……? 真っ暗で映像消えたわよ? ん? ……大きな画面が、二つ遠くで光ってるのかなあれは? 近づいて来た。


 『予知についてですが、後二つ、恐らく起こると思われる印象的な場面がありましたのでお伝えします』


 画像が一個、目の前に来た。映ってるの私だね……でも、あの歩く猥褻スタイル、そんな防御力低そうな服で何と戦ってんのかしらこれは? うわぁー色々ブルンブルンさせてるけど、これホントに私なの? こんな事する訳無い。相手は? ……何かぼやけてて人型なのは分かるけど。


 『そしてもう一つは私自身の予知、これは私の小さな頃からの夢でもあった事ですが、月に基地を作りそこに住みます……あの、良子さん……爆笑されると恥ずかしいのですが……』


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